【テクニカルレポート】基地局連携セル間干渉低減技術とフラクショナル周波数繰り返し技術……NTT技術ジャーナル | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】基地局連携セル間干渉低減技術とフラクショナル周波数繰り返し技術……NTT技術ジャーナル

ブロードバンド テクノロジー
図1:無線通信システムの面的展開
  • 図1:無線通信システムの面的展開
  • 図2:FFRの概要
  • 図3:基地局連携によるセル間干渉キャンセラ
  • 表:シミュレーションパラメータ
  • 図4:周波数利用効率のセル平均値
  • 図5:周波数利用効率のCDF=5%の値
■限られた周波数資源での広域かつ大容量無線アクセス

 無線LANをはじめ,WiMAX,LTEなど,さまざまな無線通信システムの普及が進み,マイクロ波帯における周波数資源は枯渇の危機を迎えつつあります.特に広域エリアで利用されるシステムの周波数資源有効活用のための技術は,ユーザへのサービス性を向上するための重要な鍵を握る技術となります.

 一般的に,面的にサービスエリアを展開する場合,1つの基地局が形成するサービスエリア(セル)どうしにおいて生じる同一チャネル干渉(セル間干渉)を回避するために,複数のチャネルを繰り返し配置します(周波数繰り返し).しかし,高速な通信のためには広い帯域幅が必要となるにもかかわらず,一事業者に割り当てられる帯域は有限であるため十分な数のチャネルを用意することは困難です.図1(a)に示すように,1チャネル繰り返しの場合,各セルに割り当てられる帯域は広帯域で運用可能となりますが,セル間干渉の影響を大きく受けるため,特にセル境界付近での通信品質が大きく劣化してしまいます.

 一方,図1(b)では,3チャネル繰り返しによってセル間干渉は回避され,その影響を低減できますが,利用可能な帯域幅が3分の1となるため,十分な通信速度を確保できません.これらのことから,干渉による通信品質の劣化を管理し,かつ限られた周波数資源を効率良く運用しながら,大容量の無線アクセスを広域に提供するための技術が求められています.この課題に対し,フラクショナル周波数繰り返し(FFR: Fractional Frequency Reuse)(※1),および基地局連携技術(※2)が注目されています.

■フラクショナル周波数繰り返し(FFR)

 FFRの適用例を図2に示します.FFRは各セルを中心領域とエッジ領域に分割し,セル中心領域では全帯域を割り当て,またセルエッジ領域では全帯域を分割したサブチャネルを3セルごとに割り当てる,チャネル割り当て技術です.セルエッジ領域では周波数繰り返し係数(RF: Reuse Factor)が3,つまり3つのサブチャネルによる繰り返しを行い,端末局は1つのサブチャネルに全送信電力を集中します.そうすることで,周波数繰り返しによるセル間干渉の抑圧と同時に,サブチャネル当りの送信電力密度を増加し,基地局から遠方に位置する端末局の受信レベルを向上することができます.また個別のセル中心領域どうしでは,相互の離隔距離を確保できるため,干渉は十分に抑圧可能になります.このようにRF値,および送信電力密度を柔軟に制御することにより,セル間干渉をうまく回避しながら,周波数資源を効率良く利用することが可能となります.

■基地局連携によるセル間干渉低減技術

 基地局連携技術は,LTE-Advancedにおいても現在標準化が進められており,その特徴としては,高速な有線回線を介して集中制御局と接続された複数の基地局が連携して動作することが挙げられます.複数基地局にまたがる送信・受信の信号処理機能を集中制御局へ集約し,一括して行うことで各基地局アンテナの指向性を制御し,セル間干渉を除去することが可能な技術です.原理的には,広範囲にわたる多数の基地局が連携動作を行うことで1チャネル繰り返しによる面的展開が可能になります.しかし膨大な数の送受信信号,および基地局と端末局間の伝搬路情報(CSI:Channel State Information)を用いる信号処理を,1つの集中制御局において実施することは困難です.

 そこでNTTアクセスサービスシステム研究所では,各セルが局所的に低減すべき干渉信号のみを打ち消すような,干渉信号のレプリカを本来の送信・受信信号に重畳する,という簡易な手法で,セル間干渉を低減可能なセル間干渉キャンセラを提案しました(※3).提案技術について,基地局から端末局へ信号を送信する場合を例にとって説明します.まず,基地局は,通信先の端末局との伝搬路におけるCSIに加え,セル間干渉が到来する伝搬路におけるCSIを取得します(図3).干渉信号のCSIを知ることができれば,通信先となる端末局において,受信される干渉信号を事前に予測することができます.そこで,各基地局はその干渉信号が端末局の受信時においてキャンセルされるような干渉信号レプリカを生成し,送信する本来の信号に重畳します.この重畳した干渉信号レプリカは,他セルの端末局に対して新たな干渉を与えることになります(これを残留干渉と呼びます).このとき,「所望信号のレベルに対して干渉信号のレベルが小さい」という条件下であれば,重畳すべき干渉信号レプリカの電力は本来の送信信号の電力よりも小さく,干渉信号レプリカに起因する残留干渉の受信レベルは,本来の干渉信号のものよりも相対的に小さく抑えられるため,結果として干渉低減効果が得られます.図3の下段では,これらの信号レベルの大きさの関係をイメージとして表しています.さらに,この残留干渉もCSIと送信信号の情報を用いて予測可能であるため,それをさらにキャンセルするレプリカを順番に繰り返し生成して送信信号にさらに重畳することで,干渉低減効果を高めることが可能です.

 前述した「所望信号のレベルに対して干渉信号のレベルが小さい」という条件は,つまりセル間干渉がある程度までは事前に回避された状況を意味します.提案技術ではFFRとの併用によって,この条件を効果的に満たすことが可能になりました.本研究のねらいは,FFRでは回避しきれなかったレベルの小さな干渉信号を,セル間干渉キャンセラでさらに除去する手法を新規に提案し,高い周波数利用効率を達成することにあります.

■FFRとセル間干渉低減技術の効果

 提案技術による周波数利用効率の改善効果を検証するために,計算機シミュレーションを行いました.そのときのシミュレーションパラメータを表に示します.遠方の基地局からの干渉の影響を十分に考慮するため,セルは図2のように6角形状に61セル配置し,中心の1セルにおける周波数利用効率を評価します.本評価では全セルをセル間干渉キャンセラ適用の対象とし,干渉レプリカ信号の繰り返し生成回数を,十分な干渉低減効果が得られる2回目まで行います.基地局の送信電力はセルエッジにおける端末局当りの平均受信信号対雑音電力比(SNR: Signal to Noise power Ratio)によって定まるものとし,本評価ではその値を10dB(RF=1の場合に換算)とします.そして信号対干渉雑音電力比(SINR: Signal to Interference and Noise power Ratio)分布の観点から各方式を公平に比較するために,基地局の送信電力は全基地局合計で一定とします.端末局は各セル内の領域に一様に分布するものとします.セル中心領域の半径,つまりセルエッジ領域との境界であるrinnerは端末局における平均受信SINRによって定められるものとし,受信SINRがしきい値より大きければセル中心領域,小さければセルエッジ領域に割り当てられます.

 また,連携動作は同じ(サブ)チャネルが割り当てられた基地局どうしが行うものとします.本システムには全体として一定の占有周波数帯域幅が割り当てられることを想定し,セルエッジ領域では3周波繰り返しによる帯域の分割係数3分の1を考慮に入れます.

 しきい値SINRにおける周波数利用効率のセル平均値を図4に,累積確率分布(CDF: Cumulative Distribution Function)が5%の値を図5に示します.提案技術との比較として,セル間干渉キャンセラを適用しない,FFRのみの場合の特性も示します.横軸のしきい値SINRが小さいほどセル中心領域は大きく(大部分がRF=1の状況),一方,しきい値SINRが大きいほどRF=3が支配的な状況に近づくことを意味します.

(1)セル平均値
 図4に示す周波数利用効率の平均値では,セル間干渉キャンセラあり・なしの両方式ともにしきい値SINRが6dBより大きい値では減少する傾向にあります.これは,セルエッジ領域の面積が大きくなるに従い,帯域を3分割することによる周波数利用効率の分割損の影響が大きくなるためです.一方で,提案技術ではしきい値SINRが6dBよりも小さい場合,提案技術が有効となる「所望信号のレベルに対して干渉信号のレベルが小さい」という条件を十分に満たすことができず,セル間干渉キャンセラの効果が最大限得られていないことが分かります.これらの傾向から,しきい値SINRは6dB(rinner/rcell=0.64,セル中心領域のセル全体に対する面積は40%程度)が本評価における最適値となり,このときもっとも高い周波数利用効率を達成し,FFRのみの特性と比べて1.4倍の改善効果が得られます.

(2) CDF=5%値
 図5に示す周波数利用効率のCDF=5%値は,受信SINRが低い(すなわち基地局から遠方に位置する)端末局の特性を表します.図4の結果と同様に,しきい値SINRが低い場合にはFFRおよび提案技術ともに,セル中心領域の境界付近に強いセル間干渉が残り,十分な特性は得られていません.しかし,しきい値SINRを大きくすると6dB程度まで特性を大きく改善(改善効果1.8倍)し,それ以上の領域ではほぼ横ばいとなります.以上の結果より,FFRの適用により事前にセル間干渉のレベルを低減し,しきい値SINRを6dBと設定することでCDF=5%値に対応する端末局においても「所望信号のレベルに対して干渉信号のレベルが小さい」という要求条件を十分に満たし,その結果,提案技術は残留干渉を効果的に除去できるようになることが分かります.提案技術の効果は,平均値の場合よりCDF=5%値の場合のほうが特性を大きく改善可能です.このことからも,特に受信環境の厳しい低SINRの端末局のスループットを効果的に改善するために提案技術は役立つことが分かります.

■今後の展開

 周波数資源を有効活用しながら周波数利用効率を改善する技術として,FFRに基地局連携によるセル間干渉キャンセラを適用する技術を提案し,その効果を計算機シミュレーションにより確認しました.今後は提案技術について,実機を用いた評価を行う予定です.

【参考文献】
(1) R1-050507:“Soft Frequency Reuse Scheme for UTRAN LTE,”Huawei. 3GPP TSG RAN WG1 Meeting #41, Athens, Greece, May 2005.
(2) H. Zhang and H. Dai:“Co- channel Interference Mitigation and Cooperative Processing in Downlink Multicell Multiuser MIMO Networks,”EURASIP JWCN, Vol.2004, No.2,pp.222-235, 2004.
(3) K. Maruta, A. Ohta, M. Iizuka, and T.Sugiyama:“Spectral Efficiency Improvement of Fractional Frequency Reuse by Inter-Cell Interference Cancellation on Cooperative Base Station,”IEICE Trans. Commun., Vol.E95-B,
No.6, pp.2164-2168, 2012.

◆著者紹介(敬称略)
飯塚 正孝/ 太田 厚/ 丸田 一輝/ 杉山 隆利

※本記事は日本電信電話(NTT)が発行する「NTT技術ジャーナル誌 Vol.24,No.9 pp.78-81,2012」の転載記事である
《RBB TODAY》
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