【テクニカルレポート】企業における情報システムの事業継続マネジメント……日立評論 | RBB TODAY

【テクニカルレポート】企業における情報システムの事業継続マネジメント……日立評論

エンタープライズ その他

図1:データセンタ・ソリューション 日立グループは、顧客の要望が高い首都圏、関西、中国(岡山)を主要拠点として、企業における情報システムの事業継続を支援している。
  • 図1:データセンタ・ソリューション 日立グループは、顧客の要望が高い首都圏、関西、中国(岡山)を主要拠点として、企業における情報システムの事業継続を支援している。
  • 表1:横浜第3センタの主な仕様 顧客が想定したさまざまなデータセンターの選択基準をクリアしている。
  • 図2:日立グループでのシェアードサービス 経営情報を管理する経営プラットフォームとメールなどのコミュニケーションを支える企業プラットフォームを、グループ会社向けにクラウドサービスとして提供している。
  • 図3:日立グループで利用しているデータセンター 耐震性に優れ、自家発電設備を備えたデータセンターを高速ネットワークで相互接続している。
  • 図4:安否確認システムを用いた安否確認の流れ 地震発生と連動してPCや携帯電話などに向けて安否確認メールを発信し、応答結果を自動的に集計する。
  • 図5:セキュリティPCの活用 業務情報や認証情報などをデータセンターで一元管理し、外部媒体への書き出しができないセキュリティPCを利用することで安全かつ効率的に業務継続する。
  • 図6:ディザスタリカバリシステム構築サービス 事業継続性を重視して設計されたデータセンター間を高速・冗長通信回線で接続し、大規模自然災害に対応できるディザスタリカバリサイトを構築する。
 情報システムをデータセンターに集約する流れは以前から存在していたが、東日本大震災を契機に、管理コスト削減や効率向上とともに、複数のデータセンターを活用したリスク分散も重視されるようになっている。

 データセンターは耐震性に優れ、自家発電やセキュリティ設備も備えているため、事業継続を支える情報システムの保管・運用場所として、ますます利用が加速するものと予想される。日立グループは、日本各地にデータセンターを有しており、顧客企業の情報システムのリスク分散と事業継続のため、さまざまなITソリューションを携えて貢献していく。

1. はじめに

 企業活動のグローバル化が進展し、取引先との連絡や海外に点在する拠点の管理など、IT(Information Technology)なしでは日々の業務が成り立たなくなってきている。このような背景から、情報システムの機能維持は、企業の最重要課題であるとも言える。

 東日本大震災を受けて、多くの企業で事業継続マネジメントの導入や見直しが行われている。それに合わせて、企業情報システムの機能維持に対する考え方にも変化が現れた。従来は、社内情報システムの高信頼化による機能維持という、社内に閉じた考え方であったが、震災後は、社外資産も組み合わせて情報システムの機能維持を図る考え方が注目されている。

 広域災害に直面したときは、いかにして業務実行環境を維持するかが課題である。この課題を解決する手段は、社内外を問わない。すなわち、社外のデータセンターやクラウドサービスの活用などを織り込んだ、情報システムの機能維持の取り組みが行われている。ここでは、情報システムの機能維持に関するグローバル企業、金融機関の取り組み事例と、日立グループでの震災対応の事例、情報システムの機能維持に向けた取り組み、およびそれを支える技術について述べる。

2. グローバル企業の取り組み

 まず、グローバル展開する企業の取り組み事例について説明する。

2.1 顧客の課題

 A社は国内10拠点以上、海外140拠点以上でグローバル事業を展開している。迅速な事業推進の伴は、グローバルに一元化されたメールシステムである。メールは顧客情報、業務進捗などに関するグローバルなコミュニケーション手段として使われている。世界のどこかが常にビジネスアワーであるため、24時間365日のノンストップ運用が必須である。このため、業務遂行においては準基幹システムの位置づけである。

 A社ではメールシステムを一元管理するために、これまで首都圏のデータセンターへの一極集中型の拠点統合を推進してきた。しかしながら、東日本大震災を機に、首都圏での災害発生時には全システムが停止するという、一極集中型のシステム集約に伴うリスクを重視するに至った。

 このため、システム集約に伴うリスクを回避し、グローバルなコミュニケーション手段であるメールシステムを24時間365日安定稼働させる環境を実現することが緊急の課題となった。

2.2 課題解決策の検討

 一般に、広域災害発生時でも業務継続が可能なシステム構成とするためには、1拠点にシステムを集中せず、遠隔地にバックアップサイトを設ける、あるいは分散配置するなどの対策が必要となる。

 A社が希望する課題解決策は、同時に被災することのない国内の遠隔地2拠点に相互に連携するシステムを構築し、メールシステムを一元管理しつつノンストップの稼働環境を構築することである。これは、一方に障害が発生した場合に他方がバックアップ稼働するアクティブ̶アクティブ型のスタンバイ構成を、広域分散の2拠点間に構築することを意味する。

 課題解決には、このような高度なシステムの構築技術と高速ネットワークのインフラが必要となり、新規にバックアップサイトとして自社データセンターを構築するには困難が伴う。また、既存システムとの高速ネットワークでの接続や、メールのアプリケーション連携、運用保守の業務連携などの新たな課題が発生する。

 そこで、これらを解決するため、高速ネットワークで直結された複数のデータセンターを持つベンダーとのパートナーシップを検討するに至った。

2.3 解決策の実現

 日立グループは、横浜や岡山などにデータセンターを持ち、高速ネットワークで直結するインフラを備えている(図1参照)。また、遠隔地間での二重化システム構築や、自動データバックアップ、万一のときのディザスタリカバリなどのシステム構築の実績がある。このため、A社の課題解決に必要とされる条件を満たしており、共同プロジェクトに取り組むこととなった。

 首都圏に存在するA社の既存システムのバックアップサイトとして日立グループの岡山にあるデータセンターを活用し、既存システムとの高速ネットワーク接続を実現した。また、既存システムと同様の業務環境をバックアップサイトに構築し、業務を継続しつつ順次データ移行を行い、二重化のシステム構成としている。さらに、既存システムと同様の構成となるように、海外拠点への接続ゲートウェイを設けた。

 これにより、広域災害発生時でも業務継続が可能なシステム構成とし、グローバル事業を支えるコミュニケーション手段のノンストップ稼働環境を実現することができた。今後は、基幹系業務システムへと適用対象を順次展開していく計画である。

3. 金融機関の取り組み

 次に、大手金融機関の取り組み事例について説明する。

3.1 顧客の課題

 B社は従業員6、000名以上、国内外に100以上の拠点を展開している大手金融機関である。かねてより、首都圏に複数のシステム拠点を持って日々の業務を支えていたが、首都圏広域災害でこれらが同時被災することを危惧していた。

 同業他社との合併もあり、システム再編・集約化も必要になった。このため、将来的には開発拠点としても使用できるポテンシャルを持つ新しいデータセンターを導入することを計画していた。

 新しいセンターを開発拠点として使用することを考えると、開発技術者・運用技術者の移動面から、山手線(東日本旅客鉄道)近傍のセンターは利便性が高い。しかし、広域災害による同時被災がリスクとなる。

3.2 課題解決策の検討

 B社では、専門家を中心とした経営直轄の組織を置き、震災対応にとどまらず、新型インフルエンザ対策や帰宅困難者対策なども含めた事業継続の取り組みを進めていた。広域災害対応のシステム拠点配置についても、この組織が検討を主導した。適度に東京都心から距離を置いた新しいセンターを導入し、首都直下型地震のような広域災害を受けても、金融機関としての事業を継続できることが目標である。

 センターの選択にあたり、地理的条件のほかに重視したのは以下の2点である。
(1)堅牢(ろう)性・信頼性・セキュリティ
(2)電源供給能力・空調能力

3.3 解決策の実現

 B社では、自社センターの拡充や日立グループを含む複数社の提案を検討した結果、2010年夏に日立グループの横浜第3センタを採用することを決定した。日立グループは、同年秋に顧客のシステムを受け入れる準備に着手し、東日本大震災の影響による遅延などがあったものの、2012年1月にラックの搬入を開始した。

 東日本大震災は、その直接的な被害だけでなく広域停電や輪番停電、また、長期的な電力供給不足というリスクも顕在化させた。B社のセンター選択基準は、堅牢性・信頼性・セキュリティに加えて、自家発電設備などの電源供給能力や消費電力の相当部分を占める空調の効率化も求めていた(表1参照)。

 事業継続の専門家を中心に策定されたB社のセンター選択基準は、東日本大震災によってその妥当性が裏付けられたものと言える。

4. 日立グループが得た教訓

4.1 IT関連被災状況

 日立グループは、グループで利用するITシステムのシェアードサービス化を進めている(図2参 照)。 東京、神奈川、大阪に保有するデータセンター内に、共通的なITシステムを格納し、地震などの災害に備えている(図3参照)。

 それぞれのデータセンターは震度7の耐震強度を持ち、無給油で8時間~30時間の連続運転が可能な自家発電設備を備えている。東日本大震災の際、首都圏には震度5強の揺れが発生したが、これらデータセンターに格納したITシステムは問題なく継続的に稼働を続けている。

 一方、データセンターへの移設スケジュールなどの関係上、震災時に個々の拠点事業所で運用していたITシステムも少なからず存在し、これらについては特に茨城県の事業所を中心として、停電、サーバ室破損、ネットワーク停止などの影響が生じた。

 特に影響が大きかったのは、一部のシンクライアントシステムが停止したことであり、多数の従業員がオフィス業務の中断を余儀なくされたが、週末と重なっていたこと、データセンター側のリソースを活用して緊急的にシンクライアントシステムを別に立ち上げたことなどから、影響を最小限にとどめられたものと考えている。

 以上のような被災時の経験により、拠点事業所で運用しているITシステムをデータセンターに集約する動きが加速している。

4.2 安否確認システムの活用

 安否確認システムにはさまざまな実現方法があるが、日立グループが導入しているのは携帯電話やPC(Personal Computer)への電子メールの自動発信・集計を行うシステムである。所定の条件(例えば震度5以上の地震)の災害が発生した場合に、被災地や隣接地域に勤務あるいは居住する従業員に対して安否確認のメールを発信する。受信した従業員はメールあるいはWebで回答し、回答結果は自動的に集計される(図4参照)。

 安否確認システムは首都圏の本社・事業所を中心に震災前から導入を進めており、前述のデータセンターで運用することで、今回の震災においても安否確認に威力を発揮した。

 一般に、地震などの大規模広域災害時には、公衆電話網の輻輳(ふくそう)を避けるため、被災地域を中心に通信の制限を行う。このため公衆電話網に頼る安否確認システムはどうしても少なからず影響を受けるが、実際に通話の集中が始まるのは数十分後であり、被災直後に自動的に安否確認を実施するシステムの導入は有効である。東日本大震災の際には、発生当日の15時までに多数の従業員が安否確認メールを受信していた。

 安否確認システムは単に安否を確認するだけでなく、緊急時に従業員に対してさまざまな連絡を取る手段としても有効である。今回の震災後、特に首都圏においては鉄道網を中心とした混乱が続き、通勤に多大な支障が発生したが、安全第一とした出勤ルールの通達など、緊急連絡手段としても有効性を示した。安否確認システムについては、震災後、多くの顧客から問い合わせが寄せられている。

4.3 在宅勤務での事業継続

 日立グループは、情報セキュリティやワークライフバランスの観点から、以前よりセキュリティPCを用いたシンクライアントシステムの導入を進めている。前述のように一部のシステムでは障害が発生したものの、全般的には震災前後を通じて重要なオフィスインフラの一つとして稼働している(図5参照)。

 シンクライアントシステムを導入し、日常の業務で使用することで、スムースに在宅勤務に移行できる。日立グループは、シンクライアント端末であるディスクレスのセキュリティPCを約70,000台導入しており、その大規模な運用実績の面でも注目され、多くの顧客から問い合わせがある。

 在宅勤務での事業継続については、2009年に流行した新型インフルエンザ対策の際に検討が進んだ。通勤時やオフィスでの感染防止策として在宅勤務は有効であるが、図らずも今回の震災で現実となった計画停電に伴う大幅な鉄道運行本数削減に対しても有効性が示された。

 このように、事業継続対策はある種の災害を想定したものであっても、そのほかの災害で活用できるケースが多々ある。データセンターへのITシステム集約および二重化とともに、今後さまざまなケースを想定した事業継続対策を進めていく。

5. 情報システムの機能維持に向けて

5.1 機能維持の考え方

 企業における情報システムの機能維持において最も重要な観点は、事業継続を可能とするための業務実行環境の確保である。広域災害が発生した場合、業務データを守ることはもちろんのこと、業務の継続に必要な環境をいかに確保するかが重要となる。

 業務継続に必要な環境を整えるためには、次のような機能の維持が最低限必須になると考える。
(1)コミュニケーション機能……社内外との情報連絡・通信手段を確保するメールなどの機能
(2)デスクトップ機能……日常業務において利用している情報システムの環境を保全し、利用可能とする機能
(3)モバイルワーク機能……日常の執務場所以外(自宅など)からでも、場所によらずデスクトップにアクセスできる機能

 また、東日本大震災の経験を通し、ユーザー企業側の情報システムの機能維持に対する考え方にも変化が現れた。

 従来は、社内情報システムの高信頼化による機能維持という、社内に閉じた考え方であった。震災後は、一極集中型システムのリスクを回避するため、社外資産も組み合わせて情報システムの機能維持を図る考え方へと視点が変化している。

 したがって、社外資産の活用も含めてコミュニケーション機能、デスクトップ機能、およびモバイルワーク機能を維持する考え方が重要となる。

5.2 維持すべき機能の実現策

 これらの維持すべき機能を実現するためには、次のような具体化策が考えられる。

(1)コミュニケーション機能の具体化策……広域災害に直面してもメールシステムの稼働を確保できる、遠隔拠点間でのシステムおよびデータの二重化と高速ネットワークでの接続
(2)デスクトップ機能の具体化策……堅牢なデータセンターでのデスクトップ環境の構築と、万一の場合に備えた実行基盤であるVM(Virtual Machine)の移行先となるバックアップサイトの確保
(3)モバイルワーク機能の具体化策……日頃から利用しているデスクトップ環境に、場所によらずにアクセスできるシンクライアントやモバイル端末のアクセス手段の整備

5.3 日立グループが提供する技術・ソリューション

 情報システムの機能維持に向けた取り組みを支援するため、日立グループはさまざまな技術・ソリューションを提供している。

(1)「データセンタ・ソリューション」……事業継続性を重視して設計されたデータセンターと、事業継続に不可欠な基幹システムデータの遠隔地での冗長化(二重化)を支援する「データマネージドサービス」(高性能・高信頼ブロックストレージ向けサービス)による、情報資産の保守、運用サービス
(2)ディザスタリカバリシステム構築サービス……横浜と岡山のデータセンター間を高速・冗長通信回線で接続することによる、大規模自然災害を想定したディザスタリカバリサイトの構築(図6参照)
(3)シンクライアント/モバイルソリューション……センター内システムアーキテクチャにより、ユーザーの自宅やサテライトオフィスなどさまざまな場所で、スマートフォンやシンクライアントを活用したセキュアで高信頼なクライアント環境を提供

5.4 今後の展望

 今後は、インメモリDB(Database)やストリームデータ処理技術を活用した、ディザスタリカバリ対応の堅牢なデータ管理基盤の実現、スマートフォンやタブレット端末など手段を選ばないモバイルアクセス技術の活用を推進する。また、グローバル仮想データセンターの実現に向けた広域対応仮想化技術と運用管理技術で、グローバルクラウドサービスを実現し、企業における情報システムの機能維持に貢献していく。

6. おわりに

 ここでは、情報システムの機能維持に関するグローバル企業・金融機関の取り組み事例と、日立グループでの震災対応の事例、情報システムの機能維持に向けた取り組み、およびそれを支える技術について述べた。

 今後、事業継続マネジメントの取り組みは多くの企業にとっていっそう重要な課題になるものと考える。日立グループは、顧客情報システムの機能を維持するため、引き続き先進の技術とソリューションでトータルに支援していく。


●執筆者紹介
中村 輝雄 1983年日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(現 株式会社日立ソリューションズ)入社、日立製作所 情報・通信システム社 経営戦略室 所属。現在、クラウド事業戦略に従事。情報処理学会会員。

秋沢 充 1986年日立製作所入社、情報・通信システム社 経営戦略室 所属。現在、Harmonious Cloudコンセプトに基づく製品企画に従事。ACM会員、IEEE会員、情報処理学会会員。

中田 順二 1988年日立製作所入社、情報・通信システム社 経営戦略室 所属。現在、BCMソリューションの事業推進に従事。

※本記事は株式会社日立製作所より許可を得て、同社の発行する「日立評論」2012年3月号収録の掲題論文を転載したものである。
《RBB TODAY》

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