「光の道」構想は公正な競争環境を担保できるのか?――電力系各社が問題点提起 | RBB TODAY
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「光の道」構想は公正な競争環境を担保できるのか?――電力系各社が問題点提起

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出席者。手前より、九州通信ネットワークの秋吉廣行氏(取締役 常務執行役員)、STNetの岡久義隆氏(専務取締役)、エネルギア・コミュニケーションズの国近浩二氏(取締役 通信事業本部長)、北陸通信ネットワークの  松島英章氏(常務取締役)、東北インテリジェント通信の佐藤浩之氏(経営企画部部長)、ケイ・オプティコムの久保忠敏氏(常務取締役)
  • 出席者。手前より、九州通信ネットワークの秋吉廣行氏(取締役 常務執行役員)、STNetの岡久義隆氏(専務取締役)、エネルギア・コミュニケーションズの国近浩二氏(取締役 通信事業本部長)、北陸通信ネットワークの  松島英章氏(常務取締役)、東北インテリジェント通信の佐藤浩之氏(経営企画部部長)、ケイ・オプティコムの久保忠敏氏(常務取締役)
  • ケイ・オプティコムの久保忠敏氏(常務取締役)。公正な競争のもと、民間事業者が切磋琢磨できる環境が必要だと説く
  • 光の道構想の説明。「光の道」整備、国民への「光の道」へのアクセス権の保障、ICT利用促進による「豊かな社会」の実現を総合パッケージとする基本方針が打ち出された
  • ICTタスクフォースでの検討案。NTT東西のインフラを開放・分離し、新アクセス回線会社を設立。メタル並みの料金、メタル撤去・光引込み同時工事などを実現
  • 議論の構図。「アクセス網を構築している事業者」vs.「アクセス網を構築していない事業者」
  • 「光の道」構想は公正な競争環境を担保できるのか?――電力系各社が問題点提起
  • すべての人が光回線を使うとう保証はない。投資回収のリスクや、料金水準の維持に対する疑問の声も
●「光の道」構想は地方の事業者にとって死活問題

 4月22日、港区の電気通信事業者協会(TAC)において、地域アクセス系の通信事業者6社による合同記者説明会が開催された。本説明会は、先ごろ総務省において行われた「光の道」構想に関する公開ヒアリングに関し、地域アクセス系通信事業者の総意を説明したものだ。

 昨年末、総務省は「原口ビジョン」(緑の分権改革プランおよびICT維新ビジョン)の中で、地域の絆を再生するためにICTを徹底活用することにより、2020年までに4900万世帯すべてにブロードバンドサービスを浸透させるという計画を立てた。さらに、この3月には総務省政務三役会議にて、本計画を「光の道」構想として2015年頃までに前倒しで実行する目標が設定された。そして「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」では、「光の道」整備、国民への「光の道」へのアクセス権の保障、ICT利用促進による「豊かな社会」の実現を総合パッケージとする基本方針を5月中旬までに打ち出す方向だ。

 4月20日、これら「光の道」構想の実現に向けて公開ヒアリングが実施されたが、独自のアクセス設備を持つ地域アクセス系通信事業者などの間で、さまざまな問題点の提起がなされている。今回の合同説明会に参加したのは、ケイ・オプティコム、東北インテリジェント通信、北陸通信ネットワーク、エネルギア・コミュニケーションズ、STNet、九州通信ネットワークといった電力系各社で、いずれも地域に根ざして通信事業を展開し、光アクセス網の整備に貢献してきた事業者である。各社は、今回の「光の道」構想を実現するにあたり、最大限の努力をするという共通認識のもと、疑問となる問題点と、いくつかの提言を掲げた。
 まず「光の道」への具体的な実現方策については、「拙速」かつ「不公正」な形での結論が出されないように、十分な情報開示と国民的な合意形成が必要であるという主張を挙げている。

 ICTタスクフォースでの検討は、まだ途上の段階であり決定ではないものの、アクセス網を構築していない事業者からの以下のような提案がなされている。NTT東西のインフラを分離・開放し、国の公的支援を受けた新しいアクセス回線会社を設立する。これによりメタル並みの料金、メタル撤去・光引込み同時工事、社会計画的な工事、DSL事業者のビジネスモデルの維持などを実現できるという。

 しかし、これまで地方で光アクセス設備を独自に構築してきたインフラ事業者にとって、この提案は事業撤退をも余儀なくされる死活問題となりうるものだ。冒頭の挨拶で、関西電力系のケイ・オプティコムの久保忠敏氏(常務取締役)は「“光の道”構想そのものは、我々の方向と合致するもので、実現に向けて貢献したいという思いは強い。しかし、実際に20数年に渡ってインフラを整備してきたものにとっては懸念も大きい」と説明した。

●過剰な投資が国民にまわる懸念

 まず、DSL事業者が提案している1400円のアクセスコストは、あくまで理想的な条件ではじき出された数字であり、有線/無線さまざまな通信サービスの選択肢がある中で、すべてのユーザーが必ずしも光回線を使うという保証はない。前提が崩れた場合に投資回収が不能になるリスクがあるという。さらに光ファイバーを「8分岐」として算出したコストに基づいて「1分岐貸し」を行うことになると、インフラの減価償却面からも、将来的なサービス面からも立ち行かなくなる危険があるという。

 久保氏はあくまで推測としながらも、「この政策によって利益を得る業者は、ADSLから光ファイバーへビジネスモデルの変化がなく乗換え可能なDSL事業者(ソフトバンク、イー・アクセス)と、さらに現行よりも安くなった料金で市場シェアを伸ばせるNTTだ。最終的に過剰な投資のツケが国民にまわり、一部の事業者のみに利益が集中する構図となるのではないか」と怒りをあらわにした。

 先の関係各社も「この提案は、今後の“光の道”構想に“暗い影”を落としてしまうのではないか」と危惧している。今回の議論は、「光の道」構想には直接関係のない「NTT組織問題」がクローズアップされる中で、本来議論されるべき「インフラの問題」が置き去りになっていると問題点を指摘。NTTと競争事業者の対立ではなく、「アクセス網を構築している事業者」と「アクセス網を構築していない事業者」との対立という構図だという。

 このような中で、具体的な「光の道」への実現方策の検討にあたり、議論を広く公に浸透させるべく、関係各社は以下の5つの提言を総意として掲げて説明を加えた。

1.公正な競争環境のもと、民間事業者が切磋琢磨し、設備・サービス両面で競争できる状況をつくること

2.9割を占めるインフラ整備済みエリアは利活用の議論が重要であり、インフラ整備の議論は不要。その一方で、残り1割のインフラ未整備エリア(条件不利地域など)については、民間事業者に対して各自治体を通じた公的支援を行い、整備を推進することが適当である

3.国の支援を前提とした独占的な光回線敷設会社の設立や1分岐貸しは、インフラの投資インセンティブをなくし、光アクセス網の進化を止めることになりかねないため、行うべきではない

4.全家庭一斉に光ファイバ施設を行う案は、使わない設備を大量につくってしまい、将来に大きなツケを残す。多様なアクセス手段から利用ニーズに則したものを選択できることが引き続き求められる

5.光アクセス網の議論の中で、NTT事業会社の統合をバーター的に進めるべきではない。NTTグループに対しては、マーケットシェアの観点から何らかの規制を検討することが必要

 インフラを構築しない接続事業者の主張は耳触りがよく、全国規模の大手事業者の主張は迫力がある。しかし、地方のインフラ事業者の主張は地味で中央まで届きにくい。インフラの議論は国民全体の財産として、しっかり議論していく必要があるのではないだろうか。今後も関係各社は、長年にわたり地に足を付けてアクセス網を構築してきた事業者としての立場から、「疑問を投げかけ、さらに現実的な施策の提言を続けていく」として、合同記者発表会を終えた。
《井上猛雄》
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