農商工連携と六次産業化、制度利用をビジネスに活かす/後編 | RBB TODAY
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農商工連携と六次産業化、制度利用をビジネスに活かす/後編

ビジネス 経営
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★広島県の瀬戸内沿岸エリアで始まった事例から学ぶべきこと

前編(農商工連携):「ネロリの島カフェ」~コンサルティング会社が地域特産品で島をリニューアルする~
後編(六次産業化):「とびしま柑橘工房」~農家との直取引のなかで農家の課題を解決する~


「六次産業化」と「農商工連携」。この2つの言葉の違いをご存知だろうか。六次産業とは、あくまでも農家が単独で生産→加工→販売まで一貫した事業を展開することであり、農商工連携とは、農家が専門の商工事業者と提携した共同事業の形でお互いのノウハウや特徴を生かした商品を開発・製造・販売することである。両者はそれぞれ「六次産業化法(農水省)」と「農商工連携促進法(農水省・経産省)」という制度の中で、補助金、助成金等などの支援を受けられる仕組みになっている。

 広島県中央部の瀬戸内に面した呉市安芸灘地区。この地域の特産である柑橘を手がける農家の所得増・生産性向上による地域活性という同じ目標に向かって活動する2つの事業体がある。農業の六次産業化を標榜する「株式会社とびしま柑橘工房」と、農工商連携による収益事業に取り組んでいる「株式会社HR(ネロリの島カフェ)」だ。特集「六次産業化と農商工連携、制度利用が生むビジネスの形」では前・後編の2回に分けて、具体的な手法や取り組みについて紹介する。

■「とびしま柑橘工房」~農家との直取引のなかで農家の課題を解決する~

 とびしま海道の入口、呉市川尻町で育った秦利宏氏は、29歳の時に地元で独立・起業してケーキやパンの製造販売する「アラビアンナイト」を経営していた。その秦氏のお店には、橋で繋がった島の農家から、農協が買い取らない傷物や形の悪い、いわゆる規格外のレモンが”おすそ分け”で持ち込まれるようになり、秦氏はそれを自分の店で菓子パンやお菓子に変えて農家に”お返し”して配っていた。やがてその”おすそ分け”の量が大量になっていくうちに、親しくなった農家からはレモンだけなく、次第に農家の悩みや相談も持ち込まれるようになった。

「農家の課題は地域の課題」、秦氏は友人と農家の悩み事を聞いているうちに「農家から規格外レモンを相場より高く買取ることができれば、農家は安心・継続してレモンを栽培できるようになるはず。その仕組みを作ることがこの地域の課題解決・活性化となる」と志を抱くようになり、2013年1月、自分のお店とは別に、「愛とレモンで島おこし」を合言葉にする友人たちと共同経営の形で、とびしま柑橘工房(株)を設立し、レモン加工品の販売と飲食を併設した「とびしまcafe」をオープンさせた。

 秦氏たちは、規格外レモン使った加工品に付加価値をつけて高値で流通させて販路を拡大させるには「商品をブランド化すること」が必要だと考えている。「とびしま柑橘」の呼称で自社の加工商品をブランド化し、このブランドの価値を理解・尊重してくれる事業者(商社)にだけ自社商品の取り扱い任せる戦略をとっている。もちろん、商品の付加価値を高め、商品を高値で流通させるには商品そのものが魅力的でなくてはならない。とびしま柑橘工房では商品が陳腐化しないように絶えず既存商品の改善や新商品開発を進めており、その成果の1つとして、2017年1月13日発売の「BRUTUS」が行なった誌上企画【帰ってきた!日本一の「お取り寄せ」グランプリ】にて、とびしま柑橘工房の「れもんげ」は果樹園デザート部門のグランプリを受賞するまでになる。


■地域の事業者が6次産業の形で農家を支える「一般社団法人とびしま柑橘倶楽部」の仕組み

 秦氏らは、規格外品レモンを農家から直接買い取って製造加工・販売するとびしま柑橘工房(株)の収益事業を運営する傍、 一般社団法人の形態で、地域農家の課題を地域の専門家で解決する組織「一般社団法人とびしま柑橘倶楽部」を立ち上げ、志を共にする地域の専門事業者といっしょに6次産業の形で農家の課題解決に繋がる活動を行なっている。

以下、とびしま柑橘倶楽部のHPより引用;

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『とびしま柑橘倶楽部』では農家から 1Kg 数十円という低単価で取引される規格外品の買い取り価格を現在量販店や青果問屋で正規品を購入している菓子製造業者を中心に原材料用として少し正規品よりも安価に直に購入する事や 6 次産業化をチームで行うことで農家の平均収入を上げ事業継承者が生まれるシステムを作る事を第一の目的としています。また農業従事者と地域が抱える問題や課題を共有化し、アイディアを出し合い、共同での広報活動、ブランド化、商品開発、販路拡大につなげていくことで、高齢、孤立、衰退していく傾向にある田舎の地域を会員と共に盛り上げていく利用者全員が共にメリットを享受できるビジネスモデルを目指す集団です。
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 秦氏によれば、とびしま柑橘工房(株)は収益事業として「自社で製造したレモン加工商品のブランド化」に取り組んでおり、一般社団法人とびしま柑橘倶楽部は「地域のブランド化に繋がる活動」をテーマに、収益事業の形態では難しい公共性の高い事業や行政からの委託事業を行なっている。具体的な活動としては、呉市から委託された市の公共施設「View Port Kure」内で、期間限定でとびしま柑橘倶楽部の商品を販売する店舗の受託経営。2017年2月には「黄金の島、再生プロジェクト」と称して、島の耕作放棄地を蘇らせるための苗木や備品を購入する資金を調達するクラウド・ファウンディングを行ない、1ヶ月半で目標金額の300万円を超える約330万円を調達して50本の苗木を購入して休耕地で栽培を始めた。

 秦氏たちの活動は徐々に農家に広がっている。「規格品は農協へ売り、規格外品は秦さんたちに売る。それが自分たちの収入を最大にする」という農家の理解が進み、初年度3件だった秦氏たちの取引農家数は4年を経て40件を超え、地域の約10分の1の農家と取引している。それを裏付けるように、秦氏らが農家から買い取るレモンの量は2013年の初年度は7t(そのうち半数を農協から購入)だったが、翌年は12t → 翌々年27t → 今年度は60tへと増えており、秦氏たちの農家からの規格外品の買取り価格は1kg約35円→約100円に上昇した。

★とびしま柑橘工房(株)がこれまでに活用した補助金

◎小規模事業者持続化補助金:日本商工会議所
・平成25年/30万円

◎ふるさと名物応援事業補助金(地域産業資源活用事業):中小企業庁
・平成25年/140万円
・平成26年/170万円

 秦氏らは、「レモンは栽培が比較的容易、収穫時期が長い、規格品と規格外品の価格差が小さいというメリットがある。レモン栽培農家の増加がこの地区の農業課題を解決する」として、今後は農業体験ツアーの商品化など、「柑橘農家の観光収入」にも取り組んでいくという。


 最後に、秦氏に農業の6次産業化について質問したところ、下記のような回答をいただいた。

==(原文のまま掲載)

 一言で言うと「経営感覚」という事です。

 今までの農家のほとんどは農協に所属し指示の通りに作物を作り納品して農協が決めた単価で使用した農薬や道具、器具の代金を差し引かれ数か月後に農協の口座に振り込まれるというシステムで、自分が栽培した作物が労働力含めいったいいくらのコストがかかっていて、1個あたりいくらの販売価格が適切なのかわかっていない方々がほとんどなのです。

 直営店を持たない農家さんが1個当たり数パーセントの利益を追求する流通業界で原価意識がないまま6次産業化に取り組んだとしても成功をつかみ取ることは難しいと考えています。「原材料を持っているのだから加工を行い販売をすれば利益率は大きく儲けが広がる」という単純な理屈ではなく押さえる事をしっかり押さえ現在、未来のお客様が何を求めていくのか、また自ら開発した商品のニーズをどう切り開いていくのか描けてこそ多くの商品開発や商品改廃ができない農家がやらなければならない6次産業化だと思います。

 組織はそういった課題をクリアできる人、誰を集め、どのような未来を描き、どの順番で、どんな手法で一段ずつ上がっていくかにより形を決めていけば良いような気がします。

 以上、私が感じている柑橘農家の6次産業化についての思いです。

==

<取材後記>
 同じ場所・同じ時期に共通の目的で発足した瀬戸内の2つの小規模事業者。彼らの意欲的な活動によるレモン需要は、食の安全を唱える消費者の国産レモンの総需要増の中では極僅かではあるが、国産レモンの需要が増えて取引価格が上昇したこともあり、「レモンは儲かる」とこの地区の農家に与えたインパクトは決して小さくない。後継者問題等でレモン栽培農家の数は減少しながらも、栽培を継続する農家では休耕地に新たにレモン苗木を植えたり、他の柑橘類からの転換などの結果、レモン総生産量は増大傾向にあり、旺盛な国内需要を下支えしている。
《三浦 真/HANJO HANJO編集部》
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