講習では、まずは携帯電話と衛星電話の通信経路の違いについて解説があった。東日本大震災の際に、なぜ携帯電話が使えなくなったのかという理由などを説明。基地局設備が損害を受けて使用できなくなったり、地上の有線部分の通信インフラが途絶したケースなどを紹介。一方で、衛星電話であれば、基地局に相当するものが人工衛星となるので、地上での災害の影響を受けにくいこと、仮に地球局が被害を受けても、他の地球局経由で通信を迂回できるので、携帯電話や固定電話とは別に通信経路を確保できるメリットなどに触れた。 仕組みや使用方法などの講義ののち、実際に衛星電話を使った発信操作も行った。NTTドコモのワイドスターの場合、衛星の方向(南上空)にアンテナを固定し、電波状態を確認できれば、その後の発信操作は通常の携帯電話と同様に取り扱うことができる。しかし、携帯電話で発信できてもワイドスターでは発信できない番号があることなども知識として知っておく必要があるとし、例えば警察に発信する場合は「110」ではつながらず、各都道府県の識別番号を付けた上で発信する必要があることや、消防の「119」では東京消防庁につながってしまうため、地域の消防・救急に接続するケースでは発信先番号を事前に確認しておく必要があることなどを学んだ。 一方、震災以降に急速に配備が進んでいるIsatPhone Proやスラーヤなどは世界で通信可能なグローバルサービスであるため、国内の携帯電話とは異なり、国際電話を発信するように操作しなければ電話が掛けられないといった注意点があることなどが説明された。具体的には、日本の固定電話に発信する場合は、「00(または+)」「81(日本の国番号)」「市外局番の0を除いた電話番号」という順にダイヤルしなくてはならない。国際電話を掛け慣れていない人にとっては、こうしたグローバル仕様の衛星電話を使った発信操作は戸惑うことも考えられる。そのため、いざというときに間違いなく使用できるよう、操作の体験をしておくことが望ましいという(工藤さん談)。 こうした衛星電話は緊急時に有効な通信手段であるとして、現在各地の自治体などが導入を進めているが、衛星電話が一度に通話・通信できるキャパシティは携帯電話に比べると限定的であり、衛星電話が一斉に使われるようなシチュエーションになれば輻輳(回線の混雑)も想定される。そうなってしまうと、緊急通信としても役立たないことになる。緊急時といえども、地上の通信網が利用できる限りは優先的に地上通信網を利用し、衛星電話のネットワークは本当に緊急通信を必要としている人たちが優先的に利用できるよう、無用の利用には配慮するといった心がけも必要だ。 今回の衛星電話を取り扱うための講習会は、青森県防災士会と、同会に加盟する防災士である工藤さんが自主的に企画し、実施されたものである。大災害時に通信手段をいかに確保すべきかというのは、どんな地域においても切実な課題である。衛星電話を配備している自治体等に、こうした取組みが広がることを期待したい。
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