【インタビュー】“電子”から“紙”へ……これまでとは真逆の電子出版ビジネスの可能性 | RBB TODAY
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【インタビュー】“電子”から“紙”へ……これまでとは真逆の電子出版ビジネスの可能性

エンタープライズ 企業
マイクロマガジン社 マンガごっちゃ編集部 編集長 関戸公人氏
  • マイクロマガジン社 マンガごっちゃ編集部 編集長 関戸公人氏
  • 投稿型Webコミックサイト「マンガごっちゃ」
  • 「マンガごっちゃ」では電子ブックのオーサリングと閲覧プラットフォームとして、「ActiBook」を利用している
  • 「ごきげんビジネス出版」ロゴ
  • 「ごきげんビジネス出版」アプリ 作品詳細画面
 電子ブック作成ソフト「ActiBook」を提供するスターティアラボは、『週末起業』(ちくま新書)などを執筆した藤井孝一氏(株式会社アンテレクト 代表取締役社長)らと共同で、「20代のビジネスパーソンを元気にする」というコンセプトの電子出版企画「ごきげんビジネス出版」を展開している。

 同企画は、アンテレクト社が企画全体のプロデュースと著者の募集、育成を行い、スターティアラボが提供する「ActiBook」の技術をベースにした電子書籍アプリにて書き下ろしの電子書籍を販売していくというもの。先述の藤井孝一氏や、ネットエイジを立ち上げた西川潔氏など、ビジネス書の人気作家や著名な経営者が特別に書き下ろしを行ない、紙では読めないスマートフォンアプリ限定の電子出版となっている。また、元アクセルマーク代表取締役社長の小林靖弘氏が企画アドバイザーとして、電子書籍販売におけるプロモーション、マーケティング活動の支援を行なっている。そんな同サービスのスタートとして、iPhone/iPad版アプリの提供が8月8日に開始された。

 通常、出版物は紙を出版したあとに電子化されて販売されるが、「ごきげんビジネス出版」ではまず電子書籍限定で販売することが特徴といえる。こうした、“紙”から“電子書籍”ではなく、“電子書籍”から“紙”という逆の流れで数年前からビジネスを行なっている出版社がある。それが、「マンガごっちゃ」という投稿型のマンガ媒体サイトを立ち上げ、人気コンテンツを単行本化しているマイクロマガジン社だ。

 同社は、もともとコミックやゲーム書籍、サブカル本などを主に手掛けていた出版社。コミック部門の強化戦略のひとつとして、電子コミックはどうだろうかという話になったとき、手を挙げたのが、現「マンガごっちゃ」編集部 編集長の関戸公人氏。その関戸氏に、「マンガごっちゃ」立ち上げの経緯やコンセプトについて聞いた。

■投稿型で新人を発掘し育てる“雑誌”の機能をもったサイト

 「マンガごっちゃ」は2年ほど前にオープンしたサイトで、投稿が可能なアカウントを持つユーザー数は2500人以上。ちょっと乱暴な言い方をすれば、2500人の作家を抱える投稿マンガ雑誌(サイト)ともいえる。作品の閲覧はすべて無料である。投稿型としたのは、「プロやプロを目指す作家の卵の人たちと読者との交流の場を提供したかったのと、投稿型にすることで色々なマンガを誰でも簡単に読んでもらえるようなサイトにしたかったからです」と関戸氏は言う。マンガ原稿は、PDFやJPEGなどの標準的なグラフィックフォーマットになっていれば、だれでも(要アカウント登録)投稿できるようになっている。電子書籍やCGなどの知識や器材がなくとも、手描き原稿をスキャンしたもので十分だそうだ。

 この間口の広さ、敷居の低さも関戸氏の狙いである。「マンガごっちゃは、連載マンガを単行本化するしくみがあることで、従来の雑誌としての機能を持っていると思います。ただ、我々としてはむしろ、新人やアマチュアへの間口を広げることで、将来の人気作家を発掘したり、すでに他で活躍している作家さんにも利用してもらって、コンテンツの幅や層を広げることと、それによって多くの人にマンガを読んでもらうことを考えています」

 つまり、投稿サイトとして門戸を開放しておいて、新人からベテランまで原稿を送ってもらい、電子版として立ち読み感覚で多くの読者にマンガを読んでもらいながら、人気の高いタイトル、評判のタイトルについて単行本化することで出版社のビジネスと電子ブックをうまく補完させながら活用しているわけだ。現在アップロードされているタイトルは500以上で、その中から毎月1冊を目安に単行本化が行われている。

 新人やデビュー前の作家にとっては、既存の出版社が直接運営する電子ブック投稿サイトから単行本化、さらにはアニメ化といった展開という新しいメジャー化のルートが開拓されたという意味も大きいかもしれない。「マンガごっちゃ」からメジャーデビューという例では、「琴浦さん」(えのきづ作)、「蒼い世界の中心で 完全版」(クリムゾン作)、「奇異太郎少年の妖怪絵日記」(影山理一作)などがある。「琴浦さん」は発行部数10万部以上で、TVアニメ化が決定、また「蒼い世界の中心で 完全版」もTVアニメ化の動きがあり、放送に向けて準備が進められている。その他にもメディア展開を予定している作品があるという。

■「マンガごっちゃ」の電子ブックプラットフォームは「ActiBook」

 そんな「マンガごっちゃ」のサイトは、電子ブックのオーサリングと閲覧プラットフォームとして、スターティアラボの「ActiBook」を利用している。サイトを公開した当初は、JPEGやPNGに変換された電子ブックデータをポップアップさせて1枚ずつ画像表示させる方法で閲覧できるようにしていたそうだが、この方法では手作業も多く、リンク情報などの確認の手間などが膨大なものだった。

 ポップアップでコンテンツを表示させる方法は、サイト公開から3、4ヵ月ほど続いたが、このような作業は非効率であるとして、電子ブックのソリューションは公開当初から各社のものを検討していた。その中から「ActiBook」を選んだ理由について、関戸氏は次のように述べる。

 「まず、だれでも投稿可能でだれでも簡単に読めるということが前提としてありましたから、特殊なビューアーを必要とするものや、特殊なフォーマットのものは使えません。ユーザー側の使い勝手は当然として、運営側もオーサリングやコンテンツの管理のしやすさも重要でした。さらに、作家さんのニーズに応えるため、キャプチャやコピーにプロテクトがかかるなどセキュリティの機能も必須です。これらを総合的に評価して、いちばん使いやすかったのが『ActiBook』だったということです」

 実際の読者の反応としては、ビューアとしての分かりやすさに加え、紙のマンガのようにページを見開きで読めることや、コマ割もページ単位で見られて、それをめくっていく動作を評価する声が多いという。

 また、「『マンガごっちゃ』のユーザー層は10代~20代の若い世代が多く、スマホを中心としたモバイル端末からの閲覧が全体の20%程度になっています。『ActiBook』では、1つのファイルを作成すれば、PCにもスマホにも同時対応できる点も効率が良く、助かっています」と、スマホ対応の面でもメリットが出ている。そのほか、「ActiBook」は他社の電子出版サイトでも様々に利用されている。それを知るユーザーに、「大手出版社が利用し、著名な作品も公開されているシステムを自分も使っている」という意識が芽生え、投稿のモチベーションアップにもつながっているとのこと。

 「ActiBook」導入後、読者数・投稿数が飛躍的に増え、それに伴って作品自体の質も高まってきているそうだ。

■作業時間の短縮・シンプルなライセンス・サポート体制も重要

 運用面では、「オーサリング作業については手間が半分くらいになりました。余計な手間が減るということで、リンクミスや簡単なエラーもなくなりましたね」との効果を挙げた。コスト面では、シンプルなライセンスもメリットが高いという。電子ブックシステムやオーサリングシステムによっては、コンテンツの閲覧やダウンロードごとに料金が発生するようなものもあるが、「マンガごっちゃ」のような電子ブックコンテンツで直接ビジネスを展開していない場合は、このようなライセンスでは現実問題として利用しづらいだろう。

 「ActiBook」にはSaaS版も存在するが、パッケージ版ならば一度購入すれば基本的に追加費用は発生しない。もちろん購入後のサポートも受けられる。スマートフォン対応や新機能のリリースも「ActiBook」のバージョンアップサービスを利用できるので、導入後のiPhone対応やAndroid対応も問題なくできたそうだ。

 さらに、ベータ版ながらHTML5版の電子ブックも作成可能となり、ブラウザのみでの閲覧環境もよくなっている。

■今後のビジネス展開

 「電子雑誌を刊行したいと思っています。『マンガごっちゃ』では、作家別、新着タイトル、ジャンル別に作品を単体で読むスタイルになりますが、これを人気作家の連載や新作などをまとめてひとつのコンテンツとして読んでもらうことを考えています。今後もユーザーにより良く『マンガごっちゃ』を利用してもらえるよう、『ActiBook』を活用していきたいですね。1つ要望としては、ビューアでの表示の際、読込みスピードがもう少し速くなればいいなと思います。読者の敷居を下げる点でも重要なので」

 取材を通じて、電子ブックをビジネスとして成功させるには、キラーコンテンツや魅力的なリーダ端末だけでなく、電子ブックをあくまで媒体のひとつとしてとらえる考え方もあると認識した。紙をとにかく電子化するのではなく、まずは、読者・作者双方に対して出来る限り敷居を下げた電子書籍からスタートし、多くの人の目に作品が触れるようにする。そこで得られる反応、情報を蓄積してから最適な場所・方法・タイミングで書籍化する、といったスキームが実は有効なのではないか。この「マンガごっちゃ」や、冒頭に触れた「ごきげんビジネス出版」のような新しい電子出版ビジネスが、どのように成長していくのか今後も注視していきたい。
《中尾真二》
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