【テクニカルレポート】ユーザー指向でのユビキタスサービス設計(後編)……OKIテクニカルレビュー | RBB TODAY

【テクニカルレポート】ユーザー指向でのユビキタスサービス設計(後編)……OKIテクニカルレビュー

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図1 モバイル観光情報サービスのための調査項目
  • 図1 モバイル観光情報サービスのための調査項目
  • 図2 提案ツール
  • 図3 旅行に関する情報を事前に調べる度合い
  • 図4 旅行に関する行動を決めるためによくとる方法
  • 表2 おみやげを買う相手とその割合(%)
  • 図5 旅行の情報を得るためによく使う手段(複数選択)
4.モバイル観光情報サービス

 モバイル観光情報サービスとは、携帯電話や専用機などのモバイル機器により観光客に観光地で情報を配信するサービスを指す。国土交通省による自律移動支援プロジェクトやまちめぐりナビプロジェクトなど、数多くの実証実験が各地で行われている。また、東京大学坂村研究室でも、独自開発の端末であるユビキタスコミュニケータを用いて、銀座、上野動物園、東京ミッドタウンをはじめとして多数の場所で実施されている。

 当初の実証実験ではモバイル機器、センサ、ネットワークなどの技術面での検証が主な目的であったが、技術的課題は徐々に解決されつつあり、近年ではサービスとしての事業的価値を確立する点に焦点が移ってきている。2節で述べたように、モバイル観光情報サービスも技術的には大きな問題は解消されてきているが、商用サービスとして継続されている事例がほとんどなく、事業としての継続性が大きな課題となっている。国土交通省によるまちめぐりナビプロジェクトの総括報告書6)では、実証実験を総括して以下の5つの課題を指摘している。

1. 観光客のニーズに対応した観光情報の内容の検討が不十分
 提供している観光情報が観光客のニーズとマッチしていない。地域らしさ、新鮮な情報などを提供する必要
がある。

2. 観光情報を伝える手段・媒体の特徴の認識が不十分
 携帯端末の画面の小ささや操作の困難さにより、効果的な手段となっていない。また機器にかかる経費や貸出手続きが負担となっている。

3.観光の気分や旅の楽しみを盛り上げる工夫や配慮が不十分
 観光情報提供のタイミングや手段によって、観光を阻害する事例も見られた。たとえば、提供される情報量が多すぎることや、メールでの情報提供でタイムラグが生じることなどがある。

4.PDCAサイクル実施による情報提供の改良が不十分
5.地域の観光情報提供が継続的に運営されない

5.ユーザーの調査分析
 東京大学との共同研究として、ユーザー指向でモバイル観光情報サービスを設計し、実証実験による検証を試みた。4節で挙げられた課題の中からユーザーと大きく関わる課題である「1」のコンテンツと「2」のインタフェースの部分を対象とした。サービス設計に際しては対象ユーザーをシニア(60代)と設定した。シニアは旅行に意欲的であるとともにモバイル機器に対しては消極的な傾向があり、コンテンツとインタフェースの問題を共に含むユーザー層である。

 モバイル観光情報サービスがどうあるべきかを考えるため、それの基盤となる旅行およびモバイル機器に関する意識、さらにはユーザーの普段の価値観・ライフスタイルまでさかのぼって調査対象とした(図1)。調査手法としては、定性調査(ヒアリング)と定量調査(文献調査および独自のアンケート調査)を共に実施した。定性調査として、シニアの被験者9名に対して一人ずつ2時間程度で、旅行、モバイルサービス、ライフスタイルについてヒアリングを行った。また定量調査では各種文献から統計データを収集するとともに独自のネットアンケート調査(2009年8月に実施。被験者は60代のモニター400名)を調査会社に委託して実施した。これらの調査より把握できた、シニアにモバイル観光情報サービスを使ってもらうための重要な2つのポイントを以下に挙げる。

(1)訴求力の高いコンテンツ

 携帯電話での情報サービス利用率は、全世代では46.3%であるのに対しシニアは26.3%と低い7)。あまり利用しない理由をヒアリングで調査したところ、外で情報が必要となる局面がほとんどないからという意見が多かった。一般に、携帯電話での情報サービスで利用頻度が高いのはニュース、着うた、交通情報、ゲームなどであるが、シニアがこれらを携帯電話を使って取得したい意欲は非常に低かった。

 一般に高齢になると情報を取得する意欲が低下する傾向があり、特に興味がないものに対しては大きく低下する。したがって、ほどほどに訴求するというレベルのコンテンツではアクセスしない可能性が高い。シニアに情報サービスを使ってもらうためには、個々のユーザーに向けて強く訴求するコンテンツを用意する必要がある。

 シニアが携帯電話での情報サービスを使わない理由として一般的には小型画面による見にくさや煩雑な操作がよく挙げられるが、これは主たる要因とは言えない。たとえば、携帯電話でのメールは、小型画面を使って煩雑な操作を要する点では同様であるが、シニアの利用率は65.6%と高い。ヒアリングでも、メールは使い慣れれば特に操作に支障はないとの意見も多かった。つまり、使いたいコンテンツがあればインタフェースに多少の難点があっても使うのである。逆に、使いたいコンテンツがなければインタフェースが快適であっても使うとは考えにくい。

(2)競合メディアに対するインタフェース面での差別化

 携帯電話の情報サービスで提供されるコンテンツには携帯電話でしか得られないという独自のコンテンツは少なく、新聞やテレビといった他のメディアからも得られることが多い。そうなると、同じコンテンツをどのメディアからアクセスしてもらうかというインタフェース面での競争となり、他のメディアに対してモバイル情報サービスが持つ独自の価値を明確にする必要がある。

 たとえば、シニアが外で見たい情報として、不慣れな場所の地図が挙げられた。携帯電話でも地図・ナビ機能を備えているが、それを利用するシニアは少なく、自宅のPCで地図サイトを閲覧し、印刷して持参する方法をとる人が多かった。その方が手軽で見やすくて持ち運びやすく、特に不便を感じていない。

 モバイル情報サービスは他のメディアと比較すると、リアルタイム性やコンテキストアウェアや膨大な情報の蓄積利用という独自の特長を備えており、これらの特長を最大限活用した情報提供をすることで、利用を促す必要がある。

6.提案ツール

 調査分析で得られた結果を基に、シニア向けモバイル観光情報サービスのツールを設計した。なお、本ツールは実証実験で実際に稼働させて効果を検証するという目的の下で設計しているために開発に制約があり、5節で述べた2つのポイントに十分に対応できているわけではない。

 図2にそのイメージを示す。5節で述べた課題解消のために以下の3つの特徴を備えている。

(1)シニアの趣向に配慮したコンテンツ

 開発リソース上の制約から、本ツールでは訴求力の高いコンテンツを独自に作成するのではなく、既存のコンテンツからシニアに適合したものを選別して修正を加えるという形をとった。また、モバイル情報サービスの特長であるリアルタイム性やコンテキストアウェアなども今回は採用を見送っている。本ツールのコンテンツの特徴は以下の3点である。

●買物情報への特化
旅行に関する情報の取得状況の調査(図3)によれば、観光地の情報や地図は6割の人が事前に調べている。したがって、モバイル情報サービスにより現地で観光地の情報を提供しようとしても既に情報は得ている可能性が高い。一方、おみやげ情報は8割の人が事前に調べておらず、現地での情報提供が有効となる可能性がある。

 さらに、旅行に関する行動を決める方法の調査結果(図4)によれば、おみやげを買う際に特に調べずに決める人が半数近くいる。つまり、おみやげ情報は既存のメディアではあまり参照されている分野ではない。したがって、モバイル情報サービスで効果的に情報を提供することができれば、新たな需要を掘り起こすことができる。

●人へ贈るおみやげの参考情報
 おみやげを買う相手についての調査(表2)によれば、おみやげは自分よりも配偶者や子供に買う割合の方が高いという結果が出ている。そこで配偶者や子供へのおみやげに適した商品の情報を記載している。

●シニアが好むタイプの情報の選別
 シニアに関する各種文献では、シニアが商品・サービスに求める性質には「上質」「懐古」「健康」などの志向があるとされている。既存のコンテンツから情報を選別す
る際に、このような性質を満たす情報を選んでいる。一方で、割引やおまけが付くという一般のコンテンツによく見られる情報は除外している。ヒアリング調査から、これらのベネフィットはシニアへの訴求が低いことが判明している。

(2)音声主体の情報出力
 モバイル情報サービスでの視覚的情報出力手段は、小型画面となってしまい、紙や大型ディスプレイと比較すると視認性が格段に劣る。

 そこで、本ツールではモバイル情報サービス特有である音声での情報出力を主体とした。一般には音声より画像の方が情報伝達手段として優れているとされているが、音声の方がよい状況がある場合にはモバイル情報サービスが優位に立つことができる。

 過去に行われたモバイル情報サービスの実証実験において、画面での情報をずっと見ていると観光や同行者との会話の妨げになるとの意見が寄せられている。このような被験者にとっては音声での情報出力を選択することが期待できる。

(3)パンフレットとの併用
 モバイル情報サービスは特有の長所・短所があり、単独で用いた場合に他メディアと比較して大きなベネフィットを引き出すことは困難である。そこで、本ツールでは紙媒体であるパンフレットを併用して短所を補っている。また、パンフレットは図5に示すように、情報を得る手段としては3番目に位置しており、ユーザーへの親和性が高いメディアである。ユーザーが利用するにあたっての心理的抵抗を和らげる効果もある。

 パンフレットには商店街の全体図が描かれており、各店舗には情報の見出しとバーコードが記載されている。パンフレットという視認性が良く面積も大きい媒体で全容を理解してもらい、さらに詳細な情報を得るところでモバイル機器へ移行する。モバイル機器に移行することで、音声というモバイル機器特有の形態で詳細な情報を得ることができる。

 また、紙媒体からモバイル機器への移行へはレーザー型のバーコードスキャンを採用している。カメラ式のQRコードスキャンやテンキーによる番号入力と比較すると、操作が容易で手順も少ないという利点がある。

7.まとめ

 ユビキタスサービスに必要となる要素技術は進展が目覚ましく、その技術的課題は解消されつつある。そのような状況の中、次にはサービスとしてユーザーに対して具体的にどのようなベネフィットが実現できるのかが問われる段階に入ってきている。

 多様化が進んでいるユーザーに対してベネフィットを実現することは容易なことでなく、教育、娯楽、小売りなどの他のサービス事業においても重要課題となっている。そのためには、定性調査を交えて対象ユーザーを詳細に分析していくことが基本的アプローチとなる。

 また、本研究ではシニアを対象ユーザーと設定し、詳細な分析調査を基にモバイル観光情報サービスの設計を試みた。提案ツールは、松山市の道後温泉にある商店街を使って実証実験を行う予定である。実証実験では、ツールの効果を詳細に検証することを目的としている。その結果についてはまた機会を改めて報告したい。


※同記事はOKIの技術広報誌「OKIテクニカルレビュー」の転載記事である。

■執筆者紹介(敬称略)

・下畑光夫:Mitsuo Simohata. 研究開発センタ
・三樹弘之:Hiroyuki Miki. システムプラットフォームセンタコンサルティング部
・細野直恒:Naotsune Hosono. OKIコンサルティングソリューションズ株式会社
《RBB TODAY》

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