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【テクニカルレポート】スマート社会実現のためのOKIのセンシング技術(後編)……OKIテクニカルレビュー

ブロードバンド テクノロジー
(図3)顔と人物の検出結果の統合
  • (図3)顔と人物の検出結果の統合
  • (図4)実験システムの構成
  • (図5)運動履歴可視化例
  • (図6)高齢者見守りへの適用例
■映像からの人物追跡・計測技術

 近年、マーケティング情報の収集や混雑状況の把握を目的として、人物の通過人数を映像認識システムにより自動計測するニーズが高まっている。従来は人手で行ってきた人数計測を自動化することで、月単位、季節単位など長期レンジでの通行人数の変化を把握できるため、例えば施設利用者数や店舗来店客数の確実な把握が可能となる。ここでは、先に紹介した「RESCAT」に搭載されている人数計測技術を説明する。

 人数計測の測定誤差を最小化するためには、人物の検出と追跡を正確に行う必要がある。人物の検出精度が十分でなく見逃しが多い場合、実際の人数に対してシステムの計測人数が下回る結果となる。また人物を追跡する精度が十分でなければ、同一人物を何度も計測するなどして実際より計測人数が上回る結果となる。RESCATではFSEを利用した顔の検出と追跡に加え、人物の検出と追跡、およびそれらの結果の統合により高精度な人数計測を実現している。

 人物の検出は、主に輪郭線の形状を特徴としたパターンマッチングにより行っている。多数の部分特徴パターンによる投票を行うため、混雑などで体の一部が隠れていても人物を検出できる。人物の追跡は、過去の検出位置の周辺探索および移動軌跡を利用した予測探索を組み合わせて行っている。これにより、すれ違いなどが原因で人物が完全に隠蔽された後に再度出現した場合でも、追跡を継続することができる。さらに、顔と人物の検出・追跡結果を元に、それらの位置関係から同一人物であるか否かを判定する(図3)。

 人数の計測結果は以下の3種類の値の合計とする。
1 顔検出と人物検出の両方で見つかった人数
2 顔検出のみで見つかった人数
3 人物検出のみで見つかった人数

 なお、RESCATでは追跡結果の軌跡から人の移動方向も測定できるため、例えば店舗の入場者数と退場者数をそれぞれ個別に計測することも可能である。

■装着型の加速度センサによる行動認識技術(※2)

人に加速度・角速度センサを直接取り付け、センサから得られるデータの時間的変化を解析すると、人の行動や状況を認識することができる。装着型センサによる行動認識技術として、2010年度に都内フィットネスクラブにて実証実験を実施し、技術的検証を行ったものがある[3]。

 この実証実験のサービスは、クラブ内の多様な運動習慣を、センサと行動認識技術を用いて自動的に収集・可視化することと、それによる運動の啓蒙効果を狙ったもので、実験参加者は、片腕の上腕にセンサの入ったバンドを1本装着するだけで、クラブ内の詳細な運動履歴を自動的に取得可能となる。このサービスを実現するため、フィットネスクラブ・データセンター・インターネットを結ぶ図4のシステムを構築し、行動認識技術を核とする仕組みで運動履歴を生成・提供した。具体的には、まずセンサから得られる加速度・角速度データを、行動認識技術により運動の種別(18種類、インターバル含む)と運動ペース(速度・回数)に即座に変換し、その後、消費カロリー・運動バランス・種別ごとの運動量等として集計、これら集計した運動履歴を、SNS(※3)上に可視化(図5)する仕組みである。

 実験はクラブ利用の一般の方を対象に約4ヶ月間実施し、期間中のべ830回の利用、総計15,560時間分のデータをリアルタイムに認識した。利用継続者を対象としたアンケートでは、回答の約75%に運動啓蒙への効果が認められ、約87%に実験継続意向が確認できるなど概ね好評で、本技術の健康サポート活用に一定の効果を確認する結果となった。

 本技術は、前述のとおりフィットネスクラブでの運動履歴だけに特化したものではなく、人の行動に基づく生産性や購買行動の分析や、自然なユーザーインタフェースなどへの応用が可能である。工場での生産性分析を例にあげると、作業員の行動を認識することで、作業リズムの把握や作業内容の推移などが可視化できるほか、長期間収集することで、過去との比較による作業習熟度合いや疲労状態などの推定にも繋がる。携帯電話などへの加速度センサ導入が進んでいる昨今の状況から、裾野の広い展開が期待できる技術である。

■環境設置型の電波型センサによる状況認識技術

 電波が人などの物体に当たり反射すると、物体の動きによる揺らぎが生じる。この揺らぎを分析することで状況を認識する技術が、電波型センサによる状況認識技術である。室内に壁掛け等で設置したアンテナから空間に電波を放射し、空間中の様々な物体で反射した電波を受信すると、そこには複数の物体の動きによる周波数変化(ドップラー効果)や振幅変化が観測できる。これに周波数解析による信号分離や統計的なモデリング手法を用いることで、様々な状況の認識を行う。

 現在、呼吸や心拍などのバイタル情報を一種の状況と捉え、これを推定する技術を研究開発している。呼吸は0.3Hz前後の周期性をもつ胸腹部の振動現象であり、心拍は1Hz前後の周期性をもつ全身の微細振動現象である。電波に波長の短い10.5GHz帯や24GHz帯を用いると、これらの微細な変動を受信信号の位相変化として捉えやすく、実際に、数m程度の遠隔から効率よく捉え得ることを確認している。またドップラー効果はスピードガン等で利用される原理であり、対象の速度を検知可能である。これを応用し、物体の落下や人の転倒などが発生した際に観測できる速度変化のパターンから、それら事象の発生を検知することも可能である。

 呼吸や心拍が精度良く推定できると、ベッド等での簡易的なバイタル取得に利用できるほか、従来の赤外線型人感センサでは実現の難しいバイタルに基づく安静中の人の検知や、状態変化・心的ストレスの推定等への応用が可能となる。認識技術以外の利点もある。センサ部を露出させる必要がないため、プライバシー空間での利用に抵抗感が少ない。住環境での利用を想定すると、家具や布団を透過する死角の少なさ、暖房機器等の熱源や環境温度変化への強さ、水蒸気・熱環境の多様な浴室環境で使えることも利点に挙げられる。

 これらは、一般宅内や施設内での人(高齢者、病院患者など)の見守り(図6)や監視に適した特徴だが、このほか、オフィス・工場での従業者、動物を対象とした農業畜産での状況把握など、多様な環境下への用途拡大が期待できる技術と考えている。

(※2)本研究の一部は、平成22年度総務省委託研究「ユビキタスサービスプラットフォーム技術の研究開発」の一環として実施したものです。
(※3)SNS(Social Networking Service:ソーシャル・ネットワーキング・サービス):人と人とのつながりを促進・サポートする、コミュニティ型のWebサービス。

■あとがき

スマート社会実現のためにOKIで開発している高度なセンシング技術について概要を説明してきた。今後は、スマートアウェアネスを合わせたこれらの技術の高度化・高精度化のための研究開発を継続しながら、各種の実証実験や先進的な実用システムなどにこれらの技術を適用し、その実用性の検証と研究開発へのフィードバックを進めていく。

■参考文献
3)OKIプレスリリース:「OKIとスポーツクラブNAS、総務省プロジェクトの一環でユビキタス健康サポートサービス「からだ
サイズ?」の実証実験を開始」,2010年11月9日
http://www.oki.com/jp/press/2010/11/z10084.html

●筆者紹介(敬称略)
保田浩之:Hiroyuki Hota. 研究開発センタ
須崎昌彦:Masahiko Suzaki. 研究開発センタシステム技術研究開発部
前野蔵人:Kurato Maeno. 研究開発センタシステム技術研究開発部

※本記事は沖電気工業株式会社より許可を得て、同社の発行する「OKIテクニカルレビュー」2012年4月/第219号Vol.79 No.1収録の論文を転載したものである。
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