【テクニカルレポート】ユーザー指向でのユビキタスサービス設計(前編)……OKIテクニカルレビュー | RBB TODAY

【テクニカルレポート】ユーザー指向でのユビキタスサービス設計(前編)……OKIテクニカルレビュー

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表1 RFID応用分野における普及度合いと拡大・阻害要因
  • 表1 RFID応用分野における普及度合いと拡大・阻害要因
 ベネフィット(便益)の実現が重要なポイントとなる。ベネフィットを実現するサービスを構築するためには、ユーザーを詳細に調査して意識や行動を把握することが不可欠である。本論文ではシニア向けのモバイル観光情報サービスを適用事例とし、ヒアリングを交えた詳細なユーザー調査とそれに基づくサービス設計について紹介する。

1. ユビキタスサービスの概況

 ユビキタスサービスとは、状況や個人の要求に合わせて安心して手元で利用できるサービスを表しており、OKIではユビキタスサービスの実現を企業ビジョンとしている。OKIからの寄付金を基に東京大学大学院に設立された「OKIユビキタスサービス学」寄付講座では、坂村健教授の指導の下でユビキタスサービスの普及を推進するための研究活動を行っている。その研究活動の一つとしてモバイルサービス、センサネットワーク応用、RFID応用といった代表的なユビキタスサービス事例の調査を行ってきた。その調査より「技術面では性能・コストとも商用レベルに達しているが、技術以外の点により普及度合いに差が生じている」という状況が多くみられた。

 たとえば、RFID応用においても、タグやリーダ機の価格低下と性能向上が進んでいるが、表1に示すように、各応用分野の普及度合いには大きな差が見られる1)。同じ技術であっても対象ユーザーが異なれば求める効果や払ってもよい対価が異なり、同じ技術を用いたシステムであっても導入するかどうかが分かれる。

2.ユビキタスサービスの課題である「ベネフィット」

 ユビキタスサービスの拡大においては、費用対効果、インフラ、ビジネスモデル、プライバシ問題などの技術以外の側面が大きな課題となることが多い。これらの問題を改めて考えてみると、ユーザーへのベネフィットの実現が重要なカギとなっている。性能やコストの面で導入自体は可能であるとしても、効果が小さければ導入には至らない。ビジネスモデルもユーザーやサービス事業者に提供するベネフィットを明確にしないと設計できない。

 さらに、ユビキタスサービスには競合する既存技術がある場合がほとんどであり、成熟度の高い既存技術と比較された上でベネフィットを実現しなければならないという障壁もある。先に述べたRFID応用では競合技術としてバーコードがよく持ちだされる。RFIDタグには汚れに強いことや一括読み取りができるといったバーコードにはない利点があるものの、読み取りエラーが避けられないことやタグのコストがかかるといった短所もあり、比較された場合に大きなベネフィットを実現することは容易ではない。

 このベネフィットの実現ということはユビキタスサービスに限ったものでなく、小売、教育、観光といったサービス事業全般における共通的使命でもある2)。しかもベネフィットの実現は近年難しくなったといわれている。モノやサービスの飽和化により競争が密になって差別化が難しいことや、消費者の多様化により多数の人に共通するベネフィットを実現することが難しいことが理由である。ICT分野も以前は機能の向上がそのままユーザーへのベネフィットに直結していたが、近年は機能以外でのベネフィットが求められることが多い状況にある。

 ユビキタスサービスも当初は技術的課題が大きかったために、技術面の解決に注力されてきた。しかし、現在は技術課題はクリアされつつある段階である。一般のサービス事業と同じくユビキタスサービスも技術面以外でのベネフィットの実現にも注力すべき段階に入ってきたと言えよう。

3. ユーザーへの詳細な調査分析に基づくサービス設計

 2節で述べたように、ユビキタスサービスを含む多くのサービス事業においてユーザーのベネフィット実現が重要課題となっている。ユーザーへのベネフィットを実現する商品・サービスを設計するにはユーザーを深く知る必要があり、そのための調査分析が必要となる。ユーザーのベネフィットを探る調査で重要となるポイントを2点挙げる。

1. ヒアリング・観察等の定性調査の導入
ユーザー調査では、アンケート等による定量調査のみで分析することが多い。定量調査は全体的な実態の把握に役立つが、その実態の背景を詳細に捉えることが困難である。詳細に捉えるためにはヒアリングや観察といった定性調査も併せて実施する必要がある。

ヒアリングでは被験者とのインタラクティブな対話
を通して要因を深く探ることができ、観察では被験者
の無意識下での行動を見ることができる。

2. ユーザー視点での調査
調査に臨むにあたっては、ユーザー視点に立ってユーザーの事を教えてもらうという姿勢が重要となる。対象商品・サービスをいかに使ってもらうかというベンダー視点の調査では、あらかじめ想定していた仮説の検証が主眼となってしまい、ユーザーのベネフィットが見つからないことが多くなる。

 このようなユーザーへの詳細な調査分析をベースとして商品・サービス開発に適用している2つの代表的手法を以下に紹介する。

(1)エスノグラフィ
 エスノグラフィは“民族誌学”を意味し、元々は異民族の文化や行動様式を理解するための質的調査法の一つである。簡単にいえば、ユーザーの行動を深く理解するために、ユーザー側に歩み寄った立場で個別ユーザーに質問をしたり行動を観察したりすることである。これをビジネス向けに応用し、ユーザー調査の手法として製品開発に導入することが欧米で盛んに行われている。ICTの分野でも数多くの企業がエスノグラフィを活用して商品開発を行っている。主な事例としては、コンピュータ(ノート、デスクトップ)、PDA、医療機器などがあり、ユーザーの状況を観察することにより、機能、形状、インタフェースを設計している3)。また、観察を活用した国内のICT分野での事例については三樹らによる特集記事4)が詳しい。

(2)ペルソナ手法
 ペルソナは開発中の製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデルを指す。ペルソナ手法では、まず顧客モデルであるペルソナを作成し、次にペルソナを関係者で共有しながら、ペルソナに対するサービス・商品の開発に活用する。これにより、常に対象顧客を意識してサービス・商品開発をすることができ、顧客に対して一貫性と訴求力がある商品開発が可能となる5)。ペルソナ手法は、ウェブインタフェースのデザインや広告戦略の立案などによく用いられている。

 ペルソナは個人単位での深いユーザー調査を通じて作成する。その際に、単に対象製品・サービスと関わる部分だけを調べるのでなく、生活様式、価値観、ライフゴールといった根元的な部分にまで踏み込んで調査する。設計されるペルソナにはこういった根元的な部分の設定も含まれる。

 このようなユーザー調査分析は実施者にスキルが要求されることと、時間と手間がかかるために多人数への実施が困難という難点がある。しかし、近年はRFIDタグやセンサを搭載した機器を活用して、基礎データ収集の手間を省力化する試みが多くなされている。

※同記事はOKIの技術広報誌「OKIテクニカルレビュー」の転載記事である。

■執筆者紹介(敬称略)

・下畑光夫:Mitsuo Simohata. 研究開発センタ
・三樹弘之:Hiroyuki Miki. システムプラットフォームセンタコンサルティング部
・細野直恒:Naotsune Hosono. OKIコンサルティングソリューションズ株式会社
《RBB TODAY》

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