「組込みシステム」再考——クラウドの対極にあるもの | RBB TODAY

「組込みシステム」再考——クラウドの対極にあるもの

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携帯電話のソフトウェア開発環境の例(ソフィアシステムズ)
  • 携帯電話のソフトウェア開発環境の例(ソフィアシステムズ)
  • JTAGエミュレータの例(ソフィアシステムズ
  • Atomプロセッサ用の開発システムの例:基本的なPDAの機能を備えている
  • GPSユニットやバッテリなどが拡張可能
  • システムの概要説明
  • 富士通によるAndroid端末の試作品デモ:カメラで撮影したカタログ情報から情報を検索する。この部分は開発用のPDAインターフェイス部分のみ
  • デモ端末の画面をモニタにつないだところ
  • 試作品の本体部分(ターゲットマシンのメインボード)
 世はSaaSやクラウドブームだ。もちろんこれだけ騒がれるのは、それ相応の背景やニーズもある。もはや、クライアント環境にOSやハイスペックコンピュータは不要だ。アプリケーションプログラムもHTTPベースのサービスやAPIを組み合わせるだけで実現できる。そんな中で、この流れに全く対向する領域に「組込みプログラム」(Embedded Programming)がある。

 業務システムやデスクトップコンピューティングのスタイルが、ネットの向こう側に流れるトレンドの中で、あくまでクライアント環境にすべての機能を搭載するのが「組込みシステム」といえる。デジカメ、携帯電話、炊飯器や冷蔵庫、エアコンに掃除機などは、ウェブとの連携が浸透してきているとはいえ、デバイスや制御機構に特化したプログラムを端末側に持つ必要がある。スマートフォンやカーナビなどはWindowsなどの標準OSを搭載することも珍しくなくなってきており、クラウドとの親和性は高そうだが、筆者個人としては、こういった機器を「PC化」させる動きは一定のレベルで留まるのではないかと思っている。ガジェットやアプリをダウンロードすれば機能の拡張性が高まり、インターネットとの密結合により「なんでもできる万能マシン」になるという発想は、PCがOAやビジネスの主流になり始めたころのスローガンと同じではないか? なんでもできるがなにかをやらせるための「方向付け」が面倒で「なにもできない」と同義になりがちだったり、結局、柔軟で可能性は無限大ともいえるPCによるコンピューティングスタイルは、SaaSやクラウドに変わろうとしている。SaaSやクラウドは、サーバーやホストによる集中管理という意味では大昔の大型コンピュータに近い(じつはインターネットの基本設計思想である自律、分散とも反する)。少なくともエンドユーザーからは、端末の先が大型コンピュータなのかクラウドなのかは重要ではないはずだ。

 話が大仰になってしまったが、つまりは、パラダイムシフトとかなんとかいっても、全体がそれに染まるまでには時間が必要だし、例外なしの適用は難しいということだ。

 たとえば、以下の写真は11月に開催された組込みシステム関係の展示会で撮影したものだが、携帯電話の開発環境だったり、JTAGエミュレータだ。Atomプロセッサ用のPDA向け汎用開発システムなどもあった。Atomプロセッサの評価ボードは他にもいくつかの会社が展示やデモを行っていた。Androidの開発環境のデモもあった。

 一般にプログラム開発は「抽象化」が高いほど効率がよいとされる。メモリのアドレスよりも変数名、変数名よりオブジェクト、というようになるべくハードウェアやOSの存在を意識しないで済めば、目的とする業務のアルゴリズムに集中できるからだ。しかし、これらの開発環境やデバッグツールは、ここでもその流れと逆行している。厳密にいえば、これらのシステムも開発対象となるOSの種類やハードウェアの違いをソフトウェア的に変更できたり相当な抽象化を行っているのだが、見た目は携帯電話の形をしていたり測定器のようなものを接続したり、積極的にデバイスを意識するような構成、開発スタイルは完全にはなくならない。

 ところで、この「測定器のようなもの」が、ICE(In Circuit Emulator)の一種であるJTAGエミュレータというデバッグツールだ。CPUなどプロセッサの代わりにこの機器を接続し、その処理や機能をエミュレートしメモリやレジスタなどのシステムの内部状態を調べる。ソフィアシステムズという会社はICE製品の老舗といえるメーカーだ。JTAGは、プロセッサのデバッグ用信号線の標準規格だ。小型、高密度化が進むLSIは、信号線の入出力端子(ピン)にデバッガのプローブを接続することが困難、あるいは不可能になったため、LSI内部の状態がわかるいくつかのデバッグ用の信号線を規定している。

 ハードウェアを積極的に隠蔽しないからか、組込みシステムというと一部では古臭いイメージを持たれている。しかし、インターネットもここ10年、際立った技術的イノベーションは起きていない。もし、クラウド化がPCなどのデスクトップアプリ、業務アプリを衰退させていくのならば、そういったプログラマはひょっとするとPCの代わりにいろいろなデバイス、端末のプログラムをしなければならなくなるのかもしれない。
《中尾真二》

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