SaaS版「電車でGO!」?——富士通らのフルHD鉄道運転シミュレータ | RBB TODAY
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SaaS版「電車でGO!」?——富士通らのフルHD鉄道運転シミュレータ

エンタープライズ その他
富士通と音楽館の関係。システム構築など大部分は富士通が担う。音楽館は主にコンテンツを担当する。
  • 富士通と音楽館の関係。システム構築など大部分は富士通が担う。音楽館は主にコンテンツを担当する。
  • 富士通株式会社アウトソーシング事業本部 Webソリューションセンター ネットワークアプリケーション部 部長 池田尚義(いけだ ひさよし)氏
  • Aシステム。モックアップ部分は鉄道車輌メーカーや車体艤装会社に委託する。
  • Bシステム。簡易運転台部分は鉄道会社が余剰の車両部品を流用する場合も対応する。
  • Cシステム。訓練センターで乗務員に一斉に周知する事項がある場合などを想定。
  • Dシステム。個人で練習したいという要望に配慮。予算の乏しい中小鉄道会社にも手が届きそうだ。
  • 株式会社音楽館
代表取締役 向谷実(むかいや みのる)氏
日本を代表するフュージョン・バンド「カシオペア」のキーボード担当として、あるいは日本の鉄道趣味界の代表的存在である。
  • 参考例として東急東横線のシミュレータを実演。これはゴールデンウィーク中に開催されたイベント用に開発したバージョン。実際に鉄道会社に提供されるシステムのうち、運転部分をシミュレートしたコンテンツ部分にあたる。この他に運転評価システムや障害発生訓練などのプログラムが組み合わされる
 富士通と音楽館は8日、フルハイビジョン実写映像とSaaSシステムを組み合わせた鉄道運転シミュレータシステムを発表。同日より提供を開始した。個人向けのエンターテイメント作品とは一線を画し、安全装備、保安情報、災害訓練などを視野に入れた完全なる業務向けパッケージだ。採用を決めた顧客は明らかではないが、すでに鉄道会社に向けた営業を開始しており、好感触を得ているという。また、将来は鉄道博物館などの運転シミュレータシステムや、鉄道分野に限らずマラソンの風景などを使用した映像動機型のトレーニングシステムにも応用する考えだ。

 富士通はユビキタス最先端アプリケーションサービスとして、サンリオピューロランド、愛・地球博、青梅マラソンなどで映像とIDタグを使用したサービスを提供してきた。また、音楽館は鉄道運転シミュレーションゲームの第一人者として、MAC、PC、PS3などで本格的な鉄道運転ゲームを制作してきた。音楽館はこのノウハウで東急電鉄の運転訓練システムや交通博物館のSLシミュレータを開発した。今回は鉄道会社各社の路線ごとの訓練プログラムを音楽館が制作し、富士通がSaaS技術による業務アプリケーションを提供する。納期は商談成立から半年程度が目標。仕様を調整することで納期短縮にも対応する。

 富士通株式会社のアウトソーシング事業本部Webソリューションセンター、ネットワークアプリケーション部長の池田尚義氏によると、業務用鉄道運転シミュレータシステムに着手した背景として、鉄道事業者から「より現実的な訓練システムを導入したい」、「運転訓練だけではなく、業務システムやコミュニケーション機能の連携が必要」、「最先端のシステムを短期間、低コストで導入したい」という要望があった。

 また、音楽館が持つフルハイビジョン実写映像による可変速再生技術によって実務に使い環境が再現でき、これと富士通が持つSaaSシステムのノウハウを組み合わせて、eラーニングシステムと連携し、教材の更新や訓練履歴の管理、成績の一元管理ができる。訓練センターなどの大型施設だけではなく、運転士の待機所やノートPCなどでもトレーニングでき、ネットワークで常に情報を更新できるメリットがある。さらに、実写映像とCGの組み合わせにより、臨時列車の運行や事故、災害などの緊急時訓練や車掌業務との連携についても訓練できるという。

 今回発表された鉄道運転シミュレータシステムはAシステムからDシステムまでの4種類。Aシステムは実物大の車両モックアップを使用して運転士と車掌の訓練を実施できる。Bシステムは簡易運転台を用いて乗務員詰め所に設置できる省スペース型。CシステムはPCにインストールして簡易ハンドルコントローラを接続し、CAI教室などで使用する端末型。Dシステムは高性能ノートPCにインストールし、運転士が待機時間などでいつでも利用できるモバイル型。

 路線の映像データは1920×1200ドットのフルハイビジョンで、数十ギガバイト以上になるため各端末にインストールされる。工事や線路の配置変更、ダイヤ改正などがあった場合はSaaSシステムによって差分の映像データが配信される。実写映像データとCGの組み合わせによって、時間や天候の変化による運転特性の変化にも対応できる。

 音楽館の代表取締役の向谷実氏は、「本来、動画は等速でも早回しでも、定速で再生されることを前提としており、再生速度を変化させるという技術は誰もやってこなかった。音楽館が鉄道運転ゲームを発売して以来、リアリティを追求するために開発を続けてきた技術が役に立つ」と語った。また、従来の業務用鉄道運転シミュレータについて「第一世代はレーザーディスクで提供されていた。しかしレーザーディスクでは30分が限度で、全区間の再現はできなかった。そこで第二世代はCGを使ったシステムになったが、CGは制作コストがかかる上、実感に乏しいという現場の声が強かった」とし、自社のシステムに自信を見せた。

 従来の鉄道運転シミュレータシステムは、鉄道会社ごとに専用設計で開発されていた。しかし、富士通と音楽館のシステムは路線の映像撮影や車両の特性データなどをカスタマイズするだけで、基本的な動作システムは共通となるため、鉄道会社は専用設計システムよりも低コストで導入できる。また、業務アプリケーションをSaaSシステムで提供することで、契約した顧客に対して同時にアップデートが可能となるほか、技術的なサポートを一元化できるなどのメリットがある。

 SaaSシステムを使うメリットは、複数の路線を持つ鉄道会社や相互乗り入れを実施している会社などで発揮されそうだ。路線ごとにこのシステムを配備した場合、車両が別の路線に転属する場合はSaaSシステムで車両データを配信すれば迅速に対応できる。鉄道会社の直通運転の場合、原則として運転士は自社の区間だけを担当するため、乗り入れてくる車両すべてに乗務することになる。各社が共通のシステムで訓練すれば、その中のひとつの会社が新車を導入すると、その動力特性データを乗り入れ先の会社すべてに提供できるというわけだ。ダイヤが乱れた場合の使用車両の変動にも対応できる。

 鉄道業界では近年、国土交通省の主導により鉄道安全設備の拡充が求められている。また、災害だけではなく、テロ対策も重要な課題となっている。今回のシステムは鉄道関係者以外には見えない部分だが、安全性の向上という形で多くの鉄道利用者が恩恵を受けることになるだろう。
《杉山淳一》
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