【東京国際映画祭】「リトル・ミス・サンシャイン」監督夫妻の映画作りは子育てと同じ | RBB TODAY

【東京国際映画祭】「リトル・ミス・サンシャイン」監督夫妻の映画作りは子育てと同じ

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リトル・ミス・サンシャイン
  • リトル・ミス・サンシャイン
  • ジョナサン・デイトン監督
  • ヴァレリー・ファリス監督
  • 子育て同様、2人ですべての責任を分け合って映画作りを進めているというジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス夫妻
 国内屈指のコンサート・ホールとして知られ、2,000人以上を収容できるBunkamuraオーチャードホール。今年で19回を数える東京国際映画祭だが、コンペティション部門の作品上映で、この巨大なホールの3階席までがぎっしり埋まるのはかつてないことだという。その快挙を成し遂げたアメリカ映画「リトル・ミス・サンシャイン」に、映画祭も余すところあと1日となった28日(土)、満場の観客から惜しみない拍手が贈られた。

 本作はオンボロのフォルクスワーゲンのミニバスに乗り込んで、アリゾナから美少女コンテストの開催地カリフォルニアを目指す一家のロードムービー。人間を“勝ち組”と“負け犬”に分けて、勝つための法則を説いた著書を出版し一発当てようと目論む一家の長リチャードに「恋愛小説家」のグレッグ・キニア、その妻シェリルに「イン・ハー・シューズ」のトニ・コレット、シェリルの兄で自称アメリカ最高のプルースト研究者にしてゲイのフランクに「40歳の童貞男」でブレイクしたスティーヴ・カレル、リチャードの父で老人ホームを追い出された過激なグランパに名優アラン・アーキンが扮している。

 ここにリチャードとシェリルの子どもたち、ニーチェに傾倒し沈黙の誓いを立てている15歳の長男ドウェーンと、ビューティ・クィーンに憧れる9歳の妹娘オリーヴを加えた総勢6人が珍道中を繰り広げる。

 今年からコンペティション作品の上映後のティーチインのスタイルが変わった。一般の観客に記者会見の雰囲気を味わってもらうため、最初にマスコミを対象にした記者会見、引き続き、一般の観客からの質問に答えるティーチインが行われることになり、その流れに沿って「リトル・ミス・サンシャイン」を夫婦で監督したジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリスがステージ上に登壇した。

 まずは、マスコミとのセッションから。デイトンとファリス夫妻には3人の子どもがいるが、「子育て同様、2人ですべての責任を分け合って映画作りを進めている」とデイトン。また、ミニバスが故障し、押しながらしかエンジンがかからず、走って飛び乗らなければならないといった傑作エピソードの数々は、すべて脚本家マイケル・アーントの家族に実際に起きたことなのだそうだ。

 このところ本作同様、「サイドウェイ」「ブロークン・フラワーズ」「トランスアメリカ」と車で旅をして人生を見つめ直すテーマの良質なアメリカ映画が多いという指摘に対しては、「あれだけ広い国なので、いざ違う場所に車で移動しようとすると長い旅になる。そして、道は人生を象徴し、旅そのものも人生や冒険という意味合いがあると思う。また、アメリカ社会にとって車は象徴的であり、この映画の中の車もやはり象徴的なもの。そして、アメリカの家族はよく車で旅に出るが、たとえば目的地のグランドキャニオンよりも、そこに辿り着くまでに起きたさまざまな出来事を思い出して笑ったりする」とファリス。

 映画のタイトルでもある“リトル・ミス・サンシャイン”とは、美少女コンテストの名称。そのコンテストの模様はなかなか刺激的だ。そこに登場する子どもたちやその親たちは、本物のコンテストの参加者で、プロの俳優は一人もいないとのこと。ミスコンを否定する意図があるのかとの問いにデイトンは「個人的には感心しないが、我々は競争社会に生きていて、子どもたちのミスコンというのがその最たるもの」であるという観点から描いたと答えた。

 また、素晴らしい演技を披露した俳優陣への演技指導については、本当の家族として機能させるために撮影開始前の1週間をリハーサルに費やし、ファリスによれば「演じるキャラクターや人間関係について理解を深め、1週間後、家族に見える人間関係ができ上がっていた」という。リハーサルの最終日には、両親役のグレッグ・キニアとトニ・コレットに300ドルを渡して、演じるキャラクターのまま家族でドライブに送り出したそうだ。

 続いて行われた一般の観客からの質問に答えるティーチインでは、最初に、一家の子どもを演じた2人の俳優が話題にのぼった。オリーヴ役のオーディションはニュージーランド、オーストラリア、イギリス、カナダ、アメリカのすべての英語圏で行われ、最終的に、4歳から演技をはじめすでに「サイン」など3〜4本の映画出演の経験があるアビゲイル・ブレスリンを選んだという。兄のドウェーンを演じるポール・ダノについては「自然な演技ができて、何もしていなくても面白い俳優」だとファリスが評した。

 一家が移動手段に使うミニバスが具体的に象徴しているものは何かとの問いにファリスは「家族と同じようにときどき故障して、うまく行かなくなったりするが、なんとか一緒に目的を達成する。全員でミニバスを押すことで家族が一つになる」ことに大きな意味があると答えた。

 そして、ミニバスを押しているのは実際に俳優たちで「特殊効果を使ったり、スタントマンが裏に隠れているわけではない」とデイトン。エンジンがかかって走り出したミニバスに飛び乗るシーンも俳優たちが自らが挑んだという。ただし、「ワイルド・スピード」シリーズを担当したスタント・コーディネーターがついていたというとっておきのエピソードも披露してくれた。

 製作に4年かかったという本作、最初の3年間は大手映画会社で製作していたものの決別し、独立系の会社から出資を受け完成に漕ぎ着けたそうだが、結果的に大成功だったといえる。全米でわずか7館からスタートし、口コミで評判が広がって公開5週目にはボックスオフィスの第3位にランクインする大ヒットを記録したのだ。

 実際の撮影期間は30日間で、通常60〜90日はかかることを考えれば、かなり素早く短期間で撮り終えたことになる。1週間のリハーサルが功を奏し、スムーズに事が運んだということもあるが、「みんながこの物語を気に入って信じていたので、団結して楽しく作業ができた」ことが何より大事だったとデイトンは振り返った。

 さらに、ネバー・ギヴ・アップの精神で必至に突き進む父リチャードに自分が似ていると思うとしながらも、この映画では2つの価値観を描いたとデイトンは強調した。人生を競争として見るか、ダンスとして見るか。それはつまり楽しむことであり、「勝ち負けを判定されない生き方もある」のだと。勝つことだけが人生ではないのだ。

 ミュージック・ビデオやCMで数々の実績を残し、本作で劇場長編デビューを飾ったジョナサン・デイトン&ヴェレリー・ファリス監督の「リトル・ミス・サンシャイン」は、ここ東京でも観客の心を確実に掴んだようだ。映画祭の審査の行方も気になるところだが、正月映画としてロードショー公開が決定しているので、愛すべき一家に劇場で再会できることが何よりも嬉しい。
《齊田安起子》

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