多言語を習得するメカニズムを“脳科学的”に初調査……東大・MITなど | RBB TODAY
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多言語を習得するメカニズムを“脳科学的”に初調査……東大・MITなど

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発表会の模様。左から一般財団法人言語交流研究所の鈴木堅史氏、マサチューセッツ工科大学のスザンヌ・フリン教授、東京大学の酒井邦嘉教授
  • 発表会の模様。左から一般財団法人言語交流研究所の鈴木堅史氏、マサチューセッツ工科大学のスザンヌ・フリン教授、東京大学の酒井邦嘉教授
  • 言語交流研究所・ヒッポファミリークラブ 理事 全国運営本部長|活動推進本部長 鈴木堅史氏
  • マサチューセッツ工科大学 スザンヌ・フリン教授(言語学)
  • 東京大学 大学院総合文化研究科 酒井邦嘉教授
  • 人間の左脳には言語地図があり、文法・単語・音韻・読解など複数の領域に分かれているという
  • MRIによる結果から、英語が得意な大学生は、脳の言語中枢活動が明らかに低いことがも分かった
  • 最多で60ヵ国語を話せる天才的なドイツ人、Emil Krebs氏。中国のドイツ大使館で通訳として活躍した人物だ
  • 酒井氏の研究結果。言語を習得が得意な人は、文法中枢が非対称で、体積も大きく優位になることを突きとめた
 東京大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、一般財団法人言語交流研究所(ヒッポファミリークラブ)は18日、世界で初めて多言語習得のメカニズムとその効果を脳科学的に調査することを発表した。三者は、今後5年間にわたり研究を進めていく方針だ。

 共同研究では、多言語習得の経験のある幅広い年齢層を1グループで20名ほど集め、モノリンガル、あるいはトリリンガルの脳活動を比較する。具体的な調査は、言語理解と発音把握などについて、「多言語に触れた経験をもつ人の脳が、さらに新しい言語を習得する際にどのような反応を示すのか?」、あるいは「多言語を学ぶと、脳の活動や構造にどんな違いが現れるのか?」といったことについて検証していくという。

 今回の研究に参画する言語交流研究所は、すでに35年前よりヒッポファミリークラブ(https://www.lexhippo.gr.jp/)を通じて「7ヵ国語を話そう」(英語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、中国語、韓国語、日本語)という活動を展開してきた。同クラブは現在、全国700ヵ所で約1万6,000人のメンバーが活動している。

「これら7ヵ国語をべースに、現在は合計21種の言語まで対応している。小学生から93歳の高齢者まで、幅広い年齢層が複数の言語を同時に聞いたり、言葉をまねるプロセスのなかで、音を楽しみながら自然に言語を習得している。いわば赤ん坊が言葉を覚えるのと同じプロセスで言語にアプローチしている」と説明するのは、言語交流研究所の鈴木堅史氏だ。

 同クラブができた当初は「学習しないで本当に語学が習得できるのか?」「母国がしっかり固まらないうちに、多言語を学ぶと混乱するのではないか?」という疑問も聞かれたようだ。「だが何十年も経ち、子どもだったメンバーが大学生や大人になり、マルチリンガルの効果が明確に表れてきた。多言語を習得すると、逆にイメージやクリエイティブの思考も豊かになるようだ」(鈴木氏)。

 ヒッポファミリークラブは、日本のほかに米国、メキシコ、韓国にも支部がある。米国メンバーが、たまたまMITのスザンヌ・フリン教授の講義を聞いたところ、その研究理論が同クラブの活動内容を裏付けるものであり、非常に驚いたそうだ。そして数年前から彼女と交流が始まったという。

 フリン教授は「多言語の獲得が人間にとって、いかに役立つか?」という視点から研究を行ってきた。MITの同僚であるノーム・チョムスキー氏が提唱する「生成文法」(★注1)に基づき、「多言語を話すことは人間にとって自然である」「人間の言語獲得能力には限度がない」といったユニークな学説を唱えている人物だ。

(★注1)すべての人間の言語に普遍的特性があるという仮説をもとにした言語学。普遍的特性は、人間が元来生まれ持っている生物学的な特徴であり、言語を人間の生物学的な器官の1つとして捉えている。

 同教授は「これまでの研究から、第一言語についての習得メカニズムは大分わかってきたが、第二言語以上の習得に関しては、まだ不明な点が多い。特にマルチリンガル(第三言語以上)の習得に関する研究データはほとんどないのが現状だ。今回の共同研究によって、マルチリンガルのデータを集めて、新しい発見ができることを大いに期待している」と述べた。
《井上猛雄》
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