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【視点】岐阜発のヒット商品!油問屋×和菓子職人による「かりんとう」誕生ヒストリー

エンタープライズ その他
山本佐太郎商店であつかう食用油
  • 山本佐太郎商店であつかう食用油
  • かりんとうを手揚げするようす
  • 大地のかりんとう
  • 大地のおかしシリーズ
  • 店頭に並ぶ商品
  • 山本慎一郎代表
  • 山本佐太郎商店外観
 小麦粉、卵、砂糖を主原料とし、油で揚げてつくる伝統菓子、かりんとう。その起源は諸説あり、古くは奈良時代の貴族がかりんとうの原型となるお菓子を食べていたという。一般的にひろがりを見せたのは明治初期。そのころに登場したのが、馴染み深い黒糖を絡めた棒状のかりんとうだ。以降、さまざまな種類のかりんとうが発売されているが、今、岐阜の油問屋「山本佐太郎商店」が手がけた「大地のかりんとう」がヒットしている。発売3年でシリーズ累計30万個を売り上げ、オンラインショップでの販売は約4か月待ち。ヒット商品の開発にはどんなストーリーがあったのか。山本佐太郎商店4代目店主の山本慎一郎氏に聞いた。

■和菓子職人との出会い
 岐阜市内の飲食店約500店に食用油を卸す油問屋の老舗「山本佐太郎商店」。明治9年創業で約140年の歴史を持つ。1999年に先代の父が急逝し、山本氏は22歳で店を継ぐことになった。

 当時、山本佐太郎商店の従業員は5人ほど。山本氏は先代からの取引先を守りつつ、新たな取引先も増やしていき、順調に売り上げを伸ばしていった。ところが、食用油の原材料である菜種やトウモロコシ、麦などの高騰によって、次第にこれまでのやり方だけでは利益を上げるのが難しくなってきた。

 「利益は出ていたけれど、いつまで続くかはわからなかったので、常に危機感を持っていました」と山本氏は当時の心境を語る。何か新しいことを始めたいと思っていたときに出会ったのが、岐阜県内の和菓子職人、町野仁英氏だ。

 山本氏は町野氏の和菓子づくりへの情熱や、素材や製法、食感や味にいたるまで、一切の妥協を許さない姿勢に魅力を感じたという。

 「同い年で、音楽などの趣味も合う。ビジネスパートナーとしてというより、最初は友人として意気投合しました。いろんな話をしていくなかで、彼と一緒に仕事をしたいと考えるようになっていったのです」

■コストよりも品質を重視した商品づくり
 油問屋と和菓子職人が組んで何ができるか考えたところ、日本人に馴染み深い油菓子のかりんとうをつくってみようということになった。目指したのは、昔ながらの駄菓子としてのかりんとうではなく、これまでにないような新しいかりんとうだ。

 スーパーなどに並ぶ手ごろな価格のかりんとうには、保存料や着色料を使用し、揚げ油には酸化防止剤などの添加物が含まれている安価なパーム油が使われている場合が多い。2人は「大人が子どもに安心して食べさせられるかりんとう」をコンセプトとしていたので、これら添加物は一切使用しないと決めた。材料には素材の風味を損なわない石臼挽き小麦全粒粉、一般的な卵よりも甘みとコクがある平飼いの有精卵、化学精製されていない洗双糖などを使うこととし、揚げ油には太白ごま油を選んだ。太白ごま油は焙煎されていない上質なごまを使っているので、一般的なごま油特有のにおいはなく、しつこさのない、上品な風味が特徴だ。

 地元の縁日や祭りで、簡素なパッケージにいれて400円で提供してみたところ、評判は上々。自信につながった。これがきっかけで、商品化に向けて本格的に動き出すことになった。より素材のよさを強調するため、商品名をそれまでの「油屋のかりんとう」から「大地のかりんとう」に変更した。また、地域に貢献したいという思いもあり、揚げ油をアフリカ産の太白ごま油から東海3県で生産された米のぬかを使った米油に変えた。ほんのりとした甘みが特徴で、太白ごま油同様、かりんとうを揚げることに適している。さらに、油の酸化を抑制するアルミパッケージを採用した。

■社会福祉法人がブレークスルーの鍵に
 問題もあった。生地を揚げてみると、毎回硬さが微妙に違ったり長さが均一にならなかったりしてしまうのだ。試行錯誤を繰り返すうち、原因は気温や湿度にあることがわかった。ちょっとした気温や湿度の違いが、生地の固さを変えてしまう。ゆえに、時間を固定して揚げようとすると、固さがまばらになったり、途中で折れてしまうのだった。理想のかりんとうをつくるには、毎日水分の割合を調整し、生地の質をチェックしながら手揚げをするほかなさそうだった。

 手間も時間もかかるこの製法に賛同してくれる生産工場はなかなか見つからなかった。そんなとき町野氏から紹介されたのが、岐阜市内にある社会福祉法人「いぶき福祉会」だ。油菓子や焼き菓子を手作業でつくっており、大量生産には不向きだが、そのノウハウを活かすことができる。また、一つひとつの仕事が大変丁寧だったので、同施設に委託することにした。

 「大量生産ができず、コストも高くなりますが、それよりも品質を重視した商品づくりがしたかった」と山本氏は語る。こうして納得のいくかりんとうをつくることができるようになった。味は定番の黒糖のほか、塩、ほうじ茶の3種類。80g入りで価格は420円とした。

■カフェや雑貨屋などで販売
 販路の開拓として、まずは地元のスーパーに営業をかけた。しかし、商品を見た担当者の反応は芳しくなかった。担当者の話では、一袋あたりの内容量が少なく、パッケージも小さい。そして他のかりんとう商品に比べて高価であるという点で、多くの商品が並ぶスーパーでは来店客の目に留まったり、手に取ろうと思う人は少ないだろうということだった。

 「実際に陳列棚には大地のかりんとうと比べて倍の量が入っていて、価格は半額程度のものがいくつも並んでいました。試しにいくつか店頭に並べてもらいましたが、あまり売れませんでした」と山本氏は当時を振り返る。

 ならば、無農薬野菜を使った料理を提供するカフェや、おしゃれなハンドメイドのアイテムを並べている雑貨屋など、商品のコンセプトに近い場所に置いてみてはどうかと考えるようになった。すると、この選択が吉と出た。パッケージに描かれたどこかほっとするような可愛らしいイラストが来店客の興味を引き、手にとってもらえる機会が増えた。そして実際に食べた人からは「安心して子どもに食べさせられる」、「しつこくないので食べ飽きない」などと評判になり、口コミでじわじわと話題を集めていった。やがてタウン誌やテレビなど、地元メディアからも注目されはじめ、人気を後押ししていった。

■見本市への出展、引き合いは100件以上
 国際食品・飲料展のフーデックスやお土産展のギフトショーといった、国内で開催される見本市に出展したことも商品の知名度を上げる要因となったという。特に昨年東京ビッグサイトで開催された国際ギフトショーに出展したことが、大きな一歩となった。同イベントには雑貨や家具、アクセサリーなど2000社以上が出展。食品関連は200社ほど出展があったが、それら全てがひとつのフロアに密集していた。少しでも差別化を図りたかった山本氏は、日本伝統のものづくりをテーマとしたブースへ出展することにした。

 期間中、バイヤーからの評価も上々だった。イベント終了後には100社以上から問い合わせがあり、そのうち、販売店として契約に至ったのは50社以上あった。販売店は順調に数を増やし、今では北海道から沖縄まで、全国100以上の店頭に大地のかりんとうが並んでいる。

■新商品を続々ラインナップ
 現在、山本佐太郎商店は大地のかりんとうのほか、芋けんぴの「おいも泥棒」、大豆と小麦を原料としたおからかりんとうの「うのはな日和」など、味の違いを含めて14種類の油菓子商品を展開しており、今年新たに2種類がラインナップする。大地のかりんとうは今後もいぶき福祉会で製造するが、そのほかの商品は工場と提携して、大量生産できるようにした。油問屋の仕事も忙しくなり、5人程度だった従業員もこの1年でアルバイトを含めて10人となった。

 山本氏は「今後も商品ラインナップを増やしていき、大地のかりんとうに負けないお菓子をつくっていきたい」と意欲を見せる。

~地方発ヒット商品の裏側~岐阜の油問屋と和菓子職人が手がけた「大地のかりんとう」

《DAYS》
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