【視点】日本酒市場は価値を倍にすれば規模が広がる……アンカーマン社長・和田直人氏 | RBB TODAY

【視点】日本酒市場は価値を倍にすれば規模が広がる……アンカーマン社長・和田直人氏

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海外では珍しいという利き酒に盛り上がるツアー参加者
  • 海外では珍しいという利き酒に盛り上がるツアー参加者
  • 日本酒を醸すタンクに入る体験メニューも
  • 酒蔵見学ツアーで蔵元から日本酒の作り方を学ぶ参加者
  • ツアーでは利き酒が宴会に転じることも少なくないという
  • 訪日客と日本酒の可能性を語るアンカーマン 和田直人氏
【記事のポイント】
▼20~50代の欧米カップル客に好評で8割が購入
▼伝統的な雰囲気と探検のような楽しみを兼ね備える
▼訪日客の期待に応えるため高価格の商品が必要


■酒蔵ツアーの成立エリアは都心から片道2時間まで

 海外に進出する日本酒を、国内から、しかも訪日客の視点から見たら、どう見えるのか。訪日客向け日本酒の酒蔵ツアー会社「アンカーマン」を起業した和田直人社長はこう語る。

「たとえば彼ら向けに、1本100万円の日本酒があってもいいと思うんです」

 証券マンから転身し、若干25歳で起業。2年間でこれまで提携する首都圏近郊の10蔵に約1500人の訪日客を案内してきた。インバウンドが急増のこの貴重な2年間で得た経験からみると、訪日客向けの日本酒は安すぎるのだという。では、耳にするようになった酒蔵ツアーとはどういうものなのか。

 アンカーマンが行うツアー内容はこうだ。酒蔵の最寄駅で訪日客と待ち合わせ。徒歩で酒蔵まで移動し、約1時間半から2時間半かけて、蔵元からの日本酒造りの解説、利き酒、販売までを体験する。

 利用者は個人客が中心だが、会議で訪日中のビジネス客30~50人といった団体客からの依頼があったこともあるという。起業当初、ホテルのコンシェルジェに売り込みをかけ、コンシェルジュからの紹介やホテルに置かれたチラシを見て参加者が集まるようになった。現在は、平均して週に2、3日、各回5~10人の訪日客を、和田氏やスタッフが通訳兼ツアーガイドとして提携する蔵に引率する。

 酒蔵からは紹介料やマージンは取らず、客からのツアー料1人150ドルが収益だ。ツアー先の蔵は現在、「箱根山」で知られる神奈川県の井上酒造、300年続く千葉県「甲子正宗」の飯沼本家、そして数少ない東京の地酒「金婚」の豊島屋酒造など、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県にある10社。蔵元の都合や人数と蔵との相性もあるため、ツアー先を客が指定することはできない。

 自社のメディア露出が増えるにつれ、酒蔵からの売り込みも増えてきた。その中でも、和田氏が蔵を選ぶルールが3つあるという。それは「アクセスが良いこと、酒の質が高いこと、伝統的な雰囲気が残っているかどうかということ」

 アクセスに関しては、最寄り駅集合のためだ。「遠いと、それだけでハードルになる。(客にとって)片道2時間が限度」。それでも、少なくない時間を割いて、異国の地で公共交通機関を活用し、自力で最寄り駅まで来るタフで好奇心旺盛なツアー参加者たちが確かにいる。

 そうした参加者に異国情緒を味わってもらうためには、「日本の伝統的な雰囲気が必要」だ。探検ともいえる酒蔵ツアー最後のご褒美、SAKEを心から美味しいと思ってもらうために、大の日本酒好きという和田氏が実際に味を確かめ、蔵を選んできたという。


■顧客満足度高め、北半球から南半球まで口コミ拡散

 では、そうして選ばれた10蔵に来るツアー客とは一体どういった客なのか。客層としては欧米やオーストラリアの20~50代のカップル客が中心だ。可処分所得が高い客が比較的多いという。欧米客は子ども連れではなく夫婦二人での旅行を好む傾向があるため、酒蔵ツアーとの相性もいいという。

 参加者たちはツアー中、「杉玉、伏流水の試飲、利き酒」の3場面で盛り上がるのだという。

「海外だとメニュー表に『SAKE』と書かれた1商品のみがあることが珍しくない中で、何種類もの日本酒を一度に味わえるのは、皆さん喜ばれます。また酒造りに欠かせない地下水、いわゆる伏流水が水道をひねれば手に入る。地方に行けば井戸水が手に入る日本人と違い、安全な水が貴重な海外の人にとっては、水だけでも驚きの反応を得ることができます」

 利き酒からそのまま蔵の一角で宴会が始まることもしばしば。そのため、コースの終わり時間は明確には設けていない。蔵元の都合とその場のノリで流れを整える柔軟性も同社のツアーの魅力だ。顧客満足度を高めれば、その後の参加者の口コミ力も倍増する。あるオーストラリア人の参加者に参加理由を聞いたところ、半年前にツアーに参加したスイス人の友人に「日本に行ったら絶対参加したほうがいいと聞いたので」といった答えが返ってきたこともあったという。

■訪日客に日本酒はもっと高くで売れる

 では、ツアーは参加者は実際に酒を買うのか。和田氏によると、客の8割が利き酒ののち酒を購入するという。売れ筋は4合2000円台。だがこの現状には、もどかしさを感じるという。ツアー料金に対して蔵側が提供する酒の価格が安いからだ。和田氏はこう語る。

「ほとんどの蔵は1本1000円台から2000円台の商品しかそもそもないんです。だから客は、せっかく来たのだから、と高い方を買います。でも正直、現地にまで来てもらって、さあどうぞと購入を勧める酒の価格が彼らにとってリーズナブルって、どうなんでしょうか。参加者は実際のところ、がっかりしているのではないかと自分としては気がかりなんです」

 せっかくなら、現地でしか買えない、希少価値のある高価な商品を買いたいという気持ちは、海外旅行先で浮かれて高額商品を購入したことのある読者には想像がつくだろう。

 和田氏がこれまで実際に見てきたツアー参加者の中には、たとえば、ある香港から来た客はその場で2ダース購入したという。その客は、フランスの有名なワイナリーにも行ったことがあり、日本酒の数倍の価格のワインを現地で購入したとも話していた。

 そうした実際に和田氏がツアー中に見聞きした話が、記事冒頭の「たとえば1本100万円の酒」という発言につながっている。キャリーで持ち帰る際の酒が数本に限られている国もあることから、蔵側に、いまより倍の価格設定の酒を準備してもらえないか提案しているという。

 自身が夢を賭けた日本酒業界の将来を思うからこそ、「日本酒の市場は、価格を倍にすることでもっと規模を広げることができる」と話す和田氏。ツアー先の酒蔵は「あと10蔵は増やす」予定だ。

 そして今後は、この2年間でどのようにすれば訪日客が喜ぶか、より高い酒を最後に購入させるにはどんな風に声をかければよいか、ノウハウを蓄積した分、全国各地の地方の蔵元が自社でツアーを開催できるように、ノウハウを教える側に回ることも検討しているという。

 訪日観光客は今年も過去最高のペースで増加。その中でゴールデンルートから地方へ、団体ツアーから個人ツアーへ、訪日客のニーズは移行している。各地の蔵元がそれぞれ、本業と同時に訪日客の受け入れを行うには、同社のようなサポートを賢く利用したい。

~Sakeの海外戦略:2~酒蔵ツアーに見る海外ニーズ

《塩月由香/HANJO HANJO編集部》

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