【視点】ニッチ市場を意外性で盛り上げた「もみじ饅頭のお酒」 | RBB TODAY
※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【視点】ニッチ市場を意外性で盛り上げた「もみじ饅頭のお酒」

エンタープライズ その他
開発主任の山本さん 導入された加熱殺菌機
  • 開発主任の山本さん 導入された加熱殺菌機
  • 同社の瓶製品の製造工場
  • 「もみじ饅頭のお酒」シリーズ
  • 主軸商品のひとつ 焼酎 達磨
  • 「もみじ饅頭のお酒」はひとつひとつ手作業で注入される
  • 時代を築いた紙パック製品
  • ベテランによって行われる製品チェック
  • 地域の声を聞きながらの商品開発
 とろっとした舌触りに、ふんわりとしたあんこの優しい甘み。ほんのりとカステラの風味がリキュールの香りとともに口の中に広がる。

 広島県廿日市市の中国醸造株式会社が仕掛けた新感覚スイーツリキュール「もみじ饅頭のお酒」が好評だ。こしあん味に続いて、実際のもみじ饅頭にならってチョコレートや抹茶味も新たに発売されるなど、話題性のみならずリピーターからの支持も抜群。「はこさけ一代」で業界で初めてアルコールを紙パックに入れたことで知られる老舗酒造の斬新な商品開発の秘話と、発売までの道のり、今後の展開について、開発主任の山本泰平さんに伺った。

■酒屋なのに手土産がもみじ饅頭?
 きっかけは上司の一言だった。出張の多い上司は商談に手土産を持っていくことが多いが、広島と言えばやっぱり定番の土産はもみじ饅頭。それが続いたある日ぽろっと上司がもらしたのが「酒屋なのに、手土産がもみじ饅頭でいいのかな?これ、お酒にできない?」の一言だった。

 確かに土産物としての需要も見込めるし、甘いお酒なら女性からの人気も集めるかもしれない。すわ商品開発とは至らなかったが、上司がボトルデザインのアイデアを持ってきたことから急展開、肝心の中身の開発はこれまで様々な商品を手掛けてきた山本さんに白羽の矢が立った。

■「イメージ」を飲料にするための製造ライン
 商品開発の最初の一歩、試作品としてもみじ饅頭をお酒にするにあたり、山本さんは実際のもみじ饅頭を食べないことに決めたという。「どこかのお店のもみじ饅頭の味に似たお酒を造らないために、あくまでもイメージで試作しました。」同商品を口にすると、まるでミキサーですりつぶしたようなまさにもみじ饅頭そのままの味がするが、カステラとあんこの味をどう液体にするかが一番の課題だった。

 もみじ饅頭に必要なのは、あずき、卵黄、はちみつ。もちろん液体にするために、小麦粉は使えない。本来はあずきを茹でてすりつぶし、裏ごしして使うのが正攻法だが、液体にするにはあずきの皮などが喉ごしのネックになる。いろいろな方法を考えた結果、あずきの粉末を利用することに決めた。そこに卵黄やはちみつを加えると、味は意外にもすぐにもみじ饅頭に近づいた。ただし、あずきの粉末が重いため沈澱してしまい、あまりに見栄えが悪い。そのためいわゆる増粘剤を使用することになったが、もともと「ねっとり」したものを作る必要のない酒造では使用することのない添加物のため、現場の調整が必須であった。

 従来の加熱殺菌装置では、ねっとりした液体での熱伝動はうまく行われないため、新たな加熱殺菌装置も導入された。粘り気のある液体を瓶詰めする装置も新たに必要になるなど、発売にこぎつけるまでには、それまでの焼酎や日本酒の製造ラインにさまざまな機械を加えることとなった。

 さらに、女性の好みそうな丸いボトルにつけられる帯状のシールも、いわゆるお酒のラベルのように機械で貼ることができないため手作業でつけられていたり、瓶詰めも自動ではなく一本一本手作業で行われ、各フレーバーの仕込み自体も手作業であったりと、「もみじ饅頭のお酒」の製造は、その甘くふんわりとした味わいからは想像もつかないほど手間がかかる。

 上司のふとした一言から試作ができあがるまでは半年ほどとトントン拍子だったものの、製造ラインを整えるのに3か月以上を必要としながら、「もみじ饅頭のお酒」はついに完成に至った。

■女性のことは女性に聞け…女性をターゲットにしたリアルな販売戦略
 実は「もみじ饅頭のお酒」を一躍有名にしたのが、ラインスタンプだ。もみじ饅頭のお酒を擬人化した広島弁のスタンプは、クリエイターズスタンプの初期だったころもあり、広島ではまたたく間に人気が出た。

 女性をターゲットにしたラインスタンプのアイデアは、社外から。中国醸造では、現在真っ赤な「カープ梅酒」なども販売しているが、女性を意識した商品は必ず社内の女子だけでなく社外の女性グループにも意見を聞くことにしているという。「もみじ饅頭のお酒」開発の際に意見を求めたのは、広島の情報を発信している30代以上の女性が集まったコミニティー「COAKI」。

 女性としての視点からのアドバイスをまめに求めてきた。「カープ梅酒」のときには試飲の段階で差し戻されるなど、厳しい意見をもらうこともあるが、「嗜好品は楽しんでもらわなくてはいけないもの。だから、お客様の意見を聞くのは大切なことなんです。」と山本さん。社外に意見を求めながら新しいものを造り出していく、というオープンさが、結果、予定の3倍から4倍の販売数という成功を導いた。

 また、「もみじ饅頭のお酒」を広島のお土産物として根付かせるために一時も立ち止まらない販売展開も続いている。「もみじ饅頭のお酒」でありながら限定販売の「桜餅」味や、「チョコ」「クリーム」「抹茶」など、いろいろなフレーバーも発表。この秋発売を目指し今後もさらに種類を増やしていくという。

 「お酒や焼酎などでは、大手にはかなわない。だから、ニッチなところで狭く深く展開していきたいんです。」と山本さん。手作業なこともあり、製造本数は月に1~2品種数千本とゆるやかではあるが、それまでの主軸製品であった焼酎や清酒などの販売数の落ち込みを確実にカバーし、業績を伸ばしているという。

■形にとらわれず、自由度の高い温故知新の社風
 「もみじ饅頭のお酒」ヒットの背景として最も印象に残ったのは、やはり中国醸造株式会社の社風だ。同社は数年前、商品の製造と営業企画に分かれていた二つの部署を統合、企画開発ディビジョンとして再編した。

 これによってそれまで商品の開発とマーケティングがそれぞれで動いていたのが、同じ室内でこまめに意見を交換できるようになった。商品開発の担当は、開発中から意見を尋ねることができるし、一方営業企画のほうも開発当初から商品を見守っているので、商品をいかに魅力的に見せるかについての十分な知識がある。自由度のあるチームの再編成が功を奏した形だ。

 また、「もみじ饅頭のお酒」や他のさまざまな意外性のある商品の開発にあたって、これまで上司からも、もちろん社長の白井浩一郎氏からも、待ったがかかることは一度もなかったという。「形にとらわれず、自由度が高いのが、中国醸造の社風なんです」と山本さん。同社の女性向けリキュールkawaiiも、その社風の中で次々と生み出されてきた人気シリーズだ。

 加えて、同商品の製造にあたってさまざまな機械を新たに導入していることも注目に値するだろう。ひとつの新製品を実際に商品化するまでの製造ラインへの投資が、躊躇なく行われている。

 同社は大正7年設立。昭和42年、紙パック自体が認知され始めたばかり中で、ドイツの会社との共同開発による業界初紙パック入りアルコール飲料「はこさけ一代」を発表し時代を築いた経緯がある。臆することなく新しいものに挑戦する社風は、昔から健在だ。

 「今日も新しい試作品を10種類作ったので、飲んでもらうんです。」と目を輝かせて語る山本さんが、入社以来ずっと商品開発へ情熱を持ち続けていられるのも、同社の社風ゆえに他ならないだろう。

 中国醸造はこれまでの主力製品 焼酎「達磨」などの生産はもちろんだが、ブランドを絞り、ニッチな市場を見据えて新たなフレーバーを随時展開していく予定である。また、海外から同社の製品の注文が増えていることから、海外展開の拡大も目指しているという。

 常に消費者に耳を傾け、温故知新で「ちょっと意外な」製品を生み出し続ける中国醸造株式会社の、次なる新商品が楽しみで仕方がない。

【地方発ヒット商品の裏側】「もみじ饅頭のお酒」を生み出した広島県中国醸造の社風……ニッチ市場を意外性で盛り上げる

《築島渉》
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集

page top