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【対談:田中慎弥×光石研】芥川賞作家と俳優の“結末のわからない”共通点

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光石研(左)、田中慎弥(右)/写真:黒豆直樹
  • 光石研(左)、田中慎弥(右)/写真:黒豆直樹
  • 光石研(左)、田中慎弥(右)/写真:黒豆直樹
  • 光石研/写真:黒豆直樹
  • 田中慎弥/写真:黒豆直樹
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
光石:僕が「これがおれの生業なんだ」と意識するようになったのは正直ここ10年くらい、40を過ぎてからですよ。円の役作りと通じるけど、俳優ってどうしても独りよがりにナルシシスティックに「一人で表現できる」と考えがちだけど、実はスタッフや共演者全員で作り上げていくことが素晴らしいんですよ。10代の頃からそういう経験をさせてもらってたのに、それを意識できるようになったのはここ最近なんです。そこで初めて「おれはプロの役者として生きるんだ」と思った。極端なことを言えば、僕は演技プランも何も持たず、風邪ひかずに電車に遅れずに現場に行けば、みんなが役へと導いてくれるから心配ないと思ってます。壁にぶつかったこと? そりゃあります。30代前半に何年も仕事がない時期がありましたね。でもそんなの誰でもあることですよ、きっとサラリーマンでもね。“乗り越える”ということでもなく、そこで何を感じ、考えるか。やめようとは思わなかったですね。他にやれることないですから(笑)。しがみつくしかなかったですね。

 一方「いまだにプロ意識のようなものは持てない」と言う田中。デビュー作に続く2作目の生みの苦しみの経験がいまの自分を作ったと明かす。

田中:2作目が大事と言われていて、かなりヘトヘトになりながら130枚ほどの作品を書いたんです。それなりの自負を持ってはいたんですが、手書きの原稿がワープロ打ちされて戻ってきたんです(笑)。「読み直せ」と。編集者からいくつか提案がありつつ、さらに「後半に何かが足りない」と言われまして。それが何かも教えられずに何をどうしていいか分からぬまま、1週間ほど書いては捨ててを繰り返して、何かをこじ開けるように書き上げた。それがかなり暴力的な描写でして、このときの経験が僕の作品の暴力描写に繋がっているのかも。「何か出せ」と言われてひねり出したことで、作家として火を点けられたのかもしれない。

 描写という点だけでなく、自らを追い込んで答えを探していくというスタイルの原点がそこにあったと言える。

田中:こないだ、2年半ほどの月間連載を終えたんです。それも「自分には連載なんて無理!」と思ってたんですが、ちょうど話が来た頃は仕事がない時期で、先ほどの光石さんの話じゃないけど「しがみつくしかない」と。とりあえず「やります」と返事して、そこから資料読むのを始めて、月に約30枚、何とか穴を空けずにやりきりました。それは「辿り着ける」と思って辿り着いたんじゃなくて、やりながら積み重ねて行って到達した。書く力を付けるには書くしかないんだって実感しましたね。書く力が付くのを待つのではなく、力がないので書いてみる。結局、その連載は千枚を超えたんですが、千枚書く力を付けるには千枚書くしかないんだなって。まずは10年やって一人前の世界なので、そうやって10年やったときにどうなるか? ですね。

光石:映画の面白いところは、みんなで台本という設計図を前に「こうしよう」「こうなったらいいね」と話すけど、現場に入ると時間や天候に左右されて「結局、ここに辿り着いちゃったね」となるところ。さっきの話と同じで役も「こうやろうかな」と思っても、共演者から想像以上のものが出てきて化学反応が起きて、全く違うものになったりする。でも、それが面白くて僕の映画作りのモチベーションになってるんです。

田中:僕も小説を書くときは結末を決めてないんです。というか、見えないんですよ。原稿用紙4枚くらいの小説ですらどうなるのか自分でも分からない(笑)。結末が分からないから書かなきゃいけないという感じなんです。

光石:書き始めたらどんどん物語が浮かんでくるんですか?

田中:でも、何もない真っ白なところに自分で書いているというのとは違いますね。どこかに答えが埋まっているはずだと、掘り起こしていく感じです。ないかもしれないけど、掘っていけばあるはずだと言い聞かせながら……具体的には谷崎(潤一郎)ならどう書くか? ドストエフスキーならどう展開するか? などと考えながら書いてます。

光石:面白いですね。そういえば、映画を見て先生と(主演の)菅田将暉くんが似てるなと思いました。

田中:菅田くんのファンに怒られます(苦笑)。

《黒豆直樹》
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