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【テクニカルレポート】大規模災害における移動通信サービスの輻輳解決に向けた取り組み……NEC技報

ブロードバンド テクノロジー
図1:拠点内の通信サービス構成変更技術の全体イメージ
  • 図1:拠点内の通信サービス構成変更技術の全体イメージ
  • 図2:拠点間の通信サービスの連携制御技術の全体イメージ
  • 図3:OpenFlowによるモバイルトラヒックの優先制御技術
  • 図4:通信サービスの品質維持技術

3. OpenFlowによるモバイルトラヒックの優先制御技術

 大規模災害発生時などに、重要な音声通話、メールなどの通信サービスにおいて、その時点で最も重要な通信サービスを特定し、その通信サービスを優先的に転送するために、通信サービスの動的な優先度割り当てに基づくトラヒック制御が必要です。通信サービスの優先度に応じてトラヒックを処理するには、それぞれのトラヒックの優先度を把握することが必要となります。しかしながら、現状の移動通信網におけるコア網と基地局間で交換されるトラヒックは、音声通話、メールといった重要通信とそれ以外とを識別する機能がないため、災害時に重要通信を優先させる制御を実施することができません。また、障害の発生時に発生事象に応じて柔軟な迂回経路を設定するためには、ネットワーク上に発生するイベントだけでなく、トラヒックの優先度に応じた経路制御を行う必要がありますが、現状は宛先のIPアドレスだけを用いた制御を行っているため、このような経路制御を行うことは不可能です。

 このため、サービスの優先度に応じて低優先トラヒックに対する抑制を可能とするとともに、ネットワークに発生したリンク断や新規ノード接続などの各種イベントの収集と、トラヒック種別やQoS(Quality of Service)などの特性に応じたトラヒックを個別フローとした経路制御を行い、優先度の高い基本通信サービスのためのネットワークリソースの動的な再構成を可能とする必要があります。

 我々は、通信サービスの優先度に応じてトラヒックを処理するために、移動通信網にOpenFlowを適用する方式を研究開発しています。OpenFlowはIPパケットのレイヤ1からレイヤ4までのフィールドを柔軟に組み合わせてフローを定義することが可能であり、トラヒックの優先度に応じた柔軟な処理を実現するのに有効です。また、仮想マシン上で動作する音声通話やパケットの通信サービスを仮想ネットワーク上で分離して運用する際にも、OpenFlowはレイヤ1に当たるスイッチのポート単位で完全に分離した仮想ネットワークを実現することができます。

 移動通信網の基地局から通信サービスまでのネットワークにOpenFlowスイッチを導入することにより、1)局舎内網の再構成、2)通信サービス網の再構成、3)通信サービスの優先度に応じた帯域割り当てを実現します(図3)。

4. 通信サービスの品質維持技術

 前述のサーバ仮想化技術を用いた柔軟な構成変更技術を実際の通信サービスに適用しようとした場合、仮想化に伴う処理時間の「ぶれ」やオーバヘッドなどを考慮・解決する必要があります。そこで、我々は、通信サービス処理の品質維持を可能とするよう、通信サービス処理がサーバ上の処理に関して一定の品質を維持するための下記の技術に取り組んでいます(図4)。

・通信サービス配置のリアルタイム性評価技術
 リソース競合を発生させる通信サービスを1つの物理サーバ上に極力配置しないように、配置のリアルタイム性を評価する

・通信サービス処理の品質保証技術
 サーバ上で実行される通信サービス群が所望の品質を維持できるように、通信サービスへの適切なリソース割り当てをする

 これらの技術のうち、通信サービス処理の品質保証技術では、通信サービスの計算リソースと、割り込みなど通信サービスの処理時間に影響を与える処理に対する計算リソースの割り当てを分離することにより、通信サービスの処理時間を安定化させるスケジューリング方式を実現します。

5. おわりに

 本稿では、LTEネットワークの通信サービスを対象に、ネットワークとサーバの仮想化技術を利用して通信サービスの耐災害性を強化するための技術を紹介しました。今後は、本方式の実装・評価を通じ、有効性を検証します。本技術の確立により、大規模災害時においても「つながる」通信サービスの実現を目指します。

 なお、本研究は、総務省の委託研究「大規模災害時に被災地の通信能力を緊急増強する技術の研究開発(大規模通信混雑時における通信処理機能のネットワーク化に関する研究開発)」、及び、総務省の委託研究「情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発」(平成23年度一般会計補正予算(第3号))として実施中です。

*1:LTEは、欧州電気通信標準協会(ETSI)の登録商標です。
*2:OpenFlowは、Open Networking Foundationの商標または登録商標です。

■著者紹介
菅原 智義(中央研究所 クラウドシステム研究所 主任研究員)
水越 康博(中央研究所 クラウドシステム研究所 主任研究員)
岩田 淳(中央研究所 クラウドシステム研究所 所長代理)

参考文献
1) 3GPP-Keywords&Acronyms-LTE
http://www.3gpp.org/article/lte
2) N. McKeown et al, “OpenFlow: enabling innovation in campus net‐
works”, SIGCOMM Comput. Commun. Vol.38, No.2, pp69-74, 2008.
http://www.sigcomm.org/sites/default/files/ccr/papers/2008/April/1355734-1355746.pdf

※本記事は日本電気株式会社より許可を得て、同社の発行する「NEC技報」Vol.65(2013年2月) No.3収録の論文を転載したものである。
《RBB TODAY》
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