【テクニカルレポート】スマートコミュニティ実現に向けた技術開発の取り組み(前編)……NTT技術ジャーナル | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】スマートコミュニティ実現に向けた技術開発の取り組み(前編)……NTT技術ジャーナル

ブロードバンド テクノロジー
図1 スマートコミュニティ概要
  • 図1 スマートコミュニティ概要
  • 図2 スマートネットワーク構成
 地球温暖化対策としてCO2排出を削減するために、エネルギーの地産地消や、省エネルギー・低炭素型のライフスタイルを目指す、スマートコミュニティというコンセプトが近年注目されています。東日本大震災を受けて、電力の安定供給やピーク電力削減に関する議論も活発化しており、その関心は高まる一方です。ここではNTT西日本の取り組みとして、スマートコミュニティを実現するネットワーク技術や、ホームICT基盤を活用した家庭内の省電力を実現するタップシステムを紹介します。

■NTT西日本 スマートコミュニティとは

 近年、さまざまな電源や電力消費点を情報ネットワークに接続して、電力技術と情報通信技術を組み合わせることで、電力利用の効率化を図るスマートグリッドが注目されています。特に、多数の電力事業者が参入しており、送配電網の信頼性が安定せず、停電も多いアメリカでは、送配電網の運用効率化や、従来は困難であった電力需要側の制御を目的として、電力運用における情報通信技術の活用を進めています。一方、日本では一般電気事業者による発電から配電までの垂直統合的な電力供給が大半を占め、高度に整備されたインフラを用いて電力供給制御も高い精度で実施できるため、すでに十分な品質を保持しているといわれてきました。

 しかし最近では日本においても、CO2排出の削減などの観点から、太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用した分散型電源や、EV(Electric Vehicle:電気自動車)への関心が高まっています。また、EVは「走る分散型電源」と考えることもでき、EVに蓄えた電力を家の中で利用するV2H(Vehicle to Home)等の研究も進められています。発電量が不安定な再生可能エネルギーの利用や、電力負荷でもあるEVの導入が進むと、電力需給の予測が困難となります。特に、需要家が所有する分散型電源の余剰電力などが系統に戻る逆潮流は、系統電力の品質維持に大きな影響を与えます。

 こういった状況の中で、街単位の比較的小さなコミュニティに着目し、コミュニティ内のエネルギー需給を調整し、エネルギーの地域生産地域消費(地産地消)を目指す、スマートコミュニティという社会システムの検討が活発化しています(図1)。スマートコミュニティは、スマートグリッドのように電力だけに着目するのではなく、熱などを含めた統合的なエネルギー管理を目指します。また、このような小さなエリアのエネルギー需給の調整においては、一般家庭や工場などに存在する電源や負荷の情報収集や制御が、ますます重要になってきます。

■スマートネットワーク構築の取り組み
 NTT西日本は、総務省より委託を受け、北九州エリアにてスマートネットワークの実証実験を行いました*1。スマートネットワークとは、スマートコミュニティ内のエネルギー利用の効率化を主たる目的として、多数のセンサや制御対象が収容されるネットワークであり、さまざまな場所に配置されたセンサから送信される大量の情報を収集したり、家の中や外の制御対象に制御指令を送信したりする、社会インフラとなるネットワークです。

 このようなネットワークを新規に構築すると莫大なコストが発生します。低コストで構築するためには、通信事業者が持つ既存の通信ネットワークを有効活用することが考えられます。

 そこで私たちは、広域ネットワーク部分にNTT西日本のフレッツ光ネクスト網を適用しました。また、ラストワンマイル*2の提供方法として、ブロードバンド回線にセンサデータを重畳させる構成と、無線メッシュネットワークにユーザを収容する構成の2つを構築しました。スマートネットワークの全体構成を図2に示します。

 ブロードバンド重畳型ネットワーク構成では、ユーザがすでに利用しているFTTH(Fiber To The Home)に代表される有線ブロードバンド回線を利用します。インターネット接続や映像配信など、すでにユーザが利用しているサービスに加えて、センサデータの通信を同一の回線で行うため、追加コストなしにスマートネットワークを構築で
きます。実証の結果、センサ親機が収集するデータサイズは映像配信のトラフィックなどと比較して十分に小さく、重畳してもサービス利用上問題ない範囲であることが分かりました。

 無線メッシュ型ネットワーク構成では、ノードどうしを無線によって網目状に接続し、マルチホップという転送方式を採用しました。これにより、直接無線が届かないノー
ドであっても、バケツリレー方式で途中のノードを経由して、通信することができます。また、個々のノードは継続的に経路を動的再構成できるため、故障などで一部のノードが使えなくなっても、故障部分を迂回して通信することができます。

 いずれの構成においても、通信プロトコルとしてIPv6を採用し、見える化サーバから宅内センサまでのエンド・ツー・エンド通信をすべてIPv6で実装しました。スマートネットワークは大量のセンサや制御対象を収容します。したがって、これらを識別するために、大量のアドレスが必要になります。これに対して、すでに枯渇が確定しているIPv4アドレスの採用は、スマートコミュニティの持続的な発展に支障をきたすと考え、アドレスが潤沢なIPv6ネットワークとして構築しました。IPv6であればNAT(Network Address Translation)が不要であり、宅内の制御対象を直接操作することができます。また、NATによる余分な変換動作がない分、対応機器を省電力化することができます。

 特に、無線メッシュ型ネットワークにおいては、メッシュプロトコルとして6LoWPAN(IPv6 over Low power Wireless Personal Area Networks)を採用しました。6LoWPANは近隣探索時の通信回数を減らしたり、ヘッダ圧縮により通信データ量を減らすなどの工夫がなされており、装置の消費電力を抑えます。また、ネットワーク層とMAC(Media Access Control)層の中間に位置し、両者のアダプテーションを行うため、ネットワーク層にIPv6を採用したまま、センサ通信に適した、フレームサイズの小さなMAC層プロトコルを適用することも可能です。メッシュルーティング自体を6LoWPAN層で実現する方式(route-over)と、MAC層で実現する方式(mesh-under)がありますが、route-over方式を採用し、メッシュルーティング機能を持たないMAC/PHY(PHYsical)層を適用できるようにしています。

 今回の実験ではMAC/PHY層にIEEE802.11gを用いました。IEEE802.11gは市中製品も多く、実装が容易であったためです。しかしながら、MAC/PHY層の無線方式にはさまざまなものがあります。前述のように、6LoWPANの適用によりMAC/PHY層を柔軟に変更することが可能であるため、今後はほかの無線方式についても実験を行い、ノード数の低減、低消費電力化が可能な適切な周波数帯、変調方式などの適用を検討していきます。


※本記事は日本電信電話(NTT)が発行する「NTT技術ジャーナル(2011年9月号 vol.23)」の転載記事である
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