バックカントリーの遭難者を減らせ!専用IoT端末「TREK TRACK」が“ニセコルール”を補完する | RBB TODAY

バックカントリーの遭難者を減らせ!専用IoT端末「TREK TRACK」が“ニセコルール”を補完する

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「ニセコを初めて訪れる外国人の方にも、安心・安全にリゾートを楽しんでもらえたら」と話す、博報堂アイ・スタジオ TREK TRACK推進室 室長の川崎順平氏
  • 「ニセコを初めて訪れる外国人の方にも、安心・安全にリゾートを楽しんでもらえたら」と話す、博報堂アイ・スタジオ TREK TRACK推進室 室長の川崎順平氏
  • 手のひらサイズのIoTデバイス「TREK TRACK」(右側の青い端末)。スマホやタブレットから現在地が正確に把握できるほか、自身が滑走した軌跡なども記録できる
  • ニセコモイワスキー場のイベントブースにおいて、TREK TRACKの貸し出しサービスを実施。ロビーの大型サイネージには、滑走者の軌跡が表示されていた
  • 自動撮影システム「capture」のトライアルも実施
  • 取材中には来日外国人が写真を受け取りに来ていた。リフトの高い位置からの撮影に「cool!!」を連発し、満足げな様子だった
  • captureのサンプル写真。非常に鮮明に写っているのが分かる
  • NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 BBX マーケティング部 新ビジネス創造担当の宮田貴史氏
  • ニセコ雪崩調査所 所長の新谷暁生さん
 その良質な“パウダースノー"を求めて、世界中からスキーヤー/スノーボーダーが殺到している雪山がある。北海道のニセコリゾートだ。遭難者の増加に備え、山ではIoTデバイス「TREK TRACK」の本格的な導入を検討し始めた。現地で担当者に話を聞いた。

手のひらサイズのIoTデバイス「TREK TRACK」(右側の青い端末)。スマホやタブレットから現在地が正確に把握できるほか、自身が滑走した軌跡なども記録できる
手のひらサイズのIoTデバイス「TREK TRACK」(右側の青い端末)


■「TREK TRACK」とは?

 TREK TRACKは、リアルタイムに位置情報が取得できる小型のデバイス。スマホやタブレットに映した3D地図上に、利用者の現在地を表示できる。自身が滑走した軌跡をSNSにアップする、それを友人と共有する、といった使い方にも対応する。博報堂アイ・スタジオが提供する同デバイスは昨年9月に、山梨県の奥秩父にて登山者向けに提供を開始した(参考URL:
https://www.rbbtoday.com/article/2017/08/22/154038.html)。ニセコでは2月10日から3月11日まで、ニセコモイワ、ニセコアンヌプリ、ニセコひらふの3箇所にイベントブースを設けてデバイスの貸し出しサービスをおこなう。

ニセコモイワスキー場のイベントブースにおいて、TREK TRACKの貸し出しサービスを実施。ロビーの大型サイネージには、滑走者の軌跡が表示されていた
ニセコモイワスキー場のイベントブースにおいて、TREK TRACKの貸し出しサービスを実施。ロビーの大型サイネージには、滑走者の軌跡が表示されていた


■自動撮影「capture」も登場

 今回の取り組みに際し、博報堂アイ・スタジオでは自動撮影システム「capture」のトライアルも実施した。これは同社が開発した機械学習を活用したアプリで、カメラの前に訪れた人物を自動撮影できるのが特徴。人の手を借りずに撮影できる、写真が撮りにくい位置にもカメラを設置できる、機械学習により人物以外は撮影しない、といったメリットがある。

自動撮影システム「capture」のトライアルも実施
自動撮影システム「capture」のトライアルも実施


 ニセコでは撮影した写真をイベントブースのデジタルサイネージに表示するだけでなく、無料のプリントサービスにも対応。なお写真に印刷されたQRコードを読み込むことで、フルサイズのデータもダウンロードできる趣向だった。こちらのトライアルは2月23日から25日まで、ニセコモイワスキー場のみで実施された。

取材中には来日外国人が写真を受け取りに来ていた。リフトの高い位置からの撮影に「cool!!」を連発し、満足げな様子だった
取材中には来日外国人が写真を受け取りに来ていた。リフトの高い位置からの撮影に「cool!!」を連発し、満足げな様子だった


■TREK TRACK×captureで実現できること

 現場ではデバイスを提供する博報堂アイ・スタジオ、ネットワークで協力するNTT 東日本、雪山の事故防止に取り組むニセコ雪崩調査所の3者に詳しい話を聞いた。

 博報堂アイ・スタジオの川崎順平氏は、TREK TRACKのトライアルにこの地域を選んだ理由について「ニセコは特に、バックカントリーに入られる方が多い。外国人観光客の間でも、パウダーを滑るならニセコ、という認識がある。今回のモデルケースとして、スキーヤーのデータを取るのに適していた」と説明する。

「ニセコを初めて訪れる外国人の方にも、安心・安全にリゾートを楽しんでもらえたら」と話す、博報堂アイ・スタジオ TREK TRACK推進室 室長の川崎順平氏
「ニセコを初めて訪れる外国人の方にも、安心・安全にリゾートを楽しんでもらえたら」と話す、博報堂アイ・スタジオ TREK TRACK推進室 室長の川崎順平氏


 イベントブースではiPadアプリを利用して、3ステップほどで簡単にTREK TRACKを貸し出せるようにした。今シーズンに取得したデータを分析して、来年度以降の雪山の安全につなげていきたい考えだ。

 一方でcaptureについては「新規で開発した。分かりやすく言うと、ディズニーランドのスプラッシュマウンテンで撮影してもらう感覚。自分で撮影することが難しいシチュエーションで利用して欲しい。新しいユーザー体験とニセコでの楽しい思い出を、写真という目に見える形にして持ち帰っていただければ」と話す。

 なお博報堂アイ・スタジオでは、TREK TRACKとcaptureの併用も想定している。川崎氏は「バックカントリーの入り口にはゲートがある。ここにcaptureを設置しておけば、通過する人の写真を(TREK TRACKで取得した)位置情報とともに残しておける。すると遭難事故が起きたときの有力な情報になる。また、こんな日のこんな天気ならこんな属性の人が多い、といった統計情報も得られる。スキー場の業務効率化と安全管理の取り組みにつなげられる」と説明していた。

captureのサンプル写真。非常に鮮明に写っているのが分かる
captureのサンプル写真。非常に鮮明に写っているのが分かる


■NTT東日本が橋渡しに

 「様々な企業と協業して、サービスの価値を高めていく取り組みを進めている」と話すのは、NTT東日本の宮田貴史氏。ニセコ町から「バックカントリーの事故が多い」と相談をもちかけられ、良い解決策がないか探していたところ、TREK TRACKの存在を知ったという。そこでNTT東日本ではイベントスペースに「ギガらくサイネージ:NTT」を提供、またcaptureで撮影した写真を「ギガらく WiFi」で「フレッツ・あずけ~る PRO プラン」のストレージにアップロードできる環境も整えた。

NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 BBX マーケティング部 新ビジネス創造担当の宮田貴史氏
NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 BBX マーケティング部 新ビジネス創造担当の宮田貴史氏


■ニセコ雪崩調査所でも期待を寄せる

 こうした企業の意欲的な取り組みに、ニセコ雪崩調査所でも期待を寄せている。雪山捜索のスペシャリストで、調査所の所長を務めている新谷暁生さんにも話を聞いた。同氏は、ニセコエリア全域の雪崩情報を毎朝提供する活動を、すでに30年近くも続けている。比羅夫、アンヌプリ、ニセコビレッジ、周辺の山も含めたエリアを毎朝4時半から6時前まで、雪質を確かめながら圧雪車で周っているという。

ニセコ雪崩調査所 所長の新谷暁夫さん
ニセコ雪崩調査所 所長の新谷暁生さん


 かつて、ニセコは日本でいちばん遭難事故が多い山だった。20年ほど前には、毎年のように犠牲者を出していたとのこと。なぜだろうか。その理由について、新谷さんは「山が簡単だからでしょう。リフトですぐに上まで上がれる。頂上でロープをくぐり谷に向かえば、誰でもパウダースノーが楽しめる」と説明する。なんとか遭難事故を防止できないか。関係者で議論を重ねた結果、あるルールが生まれた。それが2001年に作られ、いまでも世界中のスキーヤー/スノーボーダーから支持されている「ニセコルール」だった。

 ニセコルールの重要なポイントは「滑る人たちのコース外滑走の自由を尊重する」「遭難事故を起こさないように、山の詳細な情報を提供する」の2点。スキーヤー、スノーボーダーには禁止も強制もしない、というのが基本的なスタンスだ。たとえば、登山届の提出も義務付けてはいない。その上で、今日の雪山のリスクはどこにあるか、何に気をつければ良いかの情報を提供している。「山っていうのは、毎日、表情が違うわけです。先週良くても、今日良いとは限らない。そこで最新の情報をWEBやデジタルサイネージで告知する。日本語と英文を併記にしています」(新谷さん)。

■雪山の安全を実現するモデルケースに

 『GPSなら、携帯電話やスマートフォンでも利用できるじゃないか』。つい、そんなことを思いがちだが、実際はプライバシーの問題から、他人の位置情報を第三者が閲覧するのは容易ではない。TREK TRACKならその部分をクリアしている。スマホにはバッテリーの問題もあり、また山中では満足に電波が届かないケースも多い。

 新谷さんは「遭難者から連絡が入ることもありますが、多くの場合、本人の主張する場所にはいない。真逆の場所にいることもあり、捜索活動を困難にする。スマホのバッテリーを温存するため、長電話もできないんです」と説明。その上で、「TREK TRACKは位置情報の特定に特化している。迷子になった人の正確な現在地が分かれば、捜索する側としては非常にありがたい」として、その効果に期待する。ちなみに同端末はマイナス60度の環境でも、3~4日は位置情報を発信できる仕様だ。

 最近はモイワの山だけで、シーズン中に10名は遭難するという。昨春には、ついにバックカントリーで外国人による初めての遭難死亡事故が起きた。禁止区域を滑り、雪崩に巻き込まれたようだ。「ここ数年で、ヨーロッパからの訪日外国人がニセコ周辺の山に一気に増えました。それにともなう事故も急速に増え始めています」と新谷さん。IoTデバイスから取得できる正確な位置情報と滑走の軌跡は、雪山の捜索にどのくらいの効果をもたらすだろうか。ニセコの山でおこなわれている安心・安全の取り組みに、他のリゾート地も注目している。
《近藤謙太郎》

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