【連載・日高彰のスマートフォン事情】スマートフォン時代、囲い込みはいつまで支持されるか | RBB TODAY

【連載・日高彰のスマートフォン事情】スマートフォン時代、囲い込みはいつまで支持されるか

 筆者は海外に出かけたとき、現地でプリペイドのSIMカードを入手し、持参したSIMフリーのスマートフォンに入れて使うことが多い。

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サンパウロ市内でSkypeを利用して日本の電話に発信したところ
  • サンパウロ市内でSkypeを利用して日本の電話に発信したところ
  • SIMフリーのDesireにATOKがインストールできた画面
  • 「HTC Desire X06HTII」
  • HTC Desire
  • HTC Desire
  • HTC Desire
  • HTC Desire
  • HTC Desire
 筆者は海外に出かけたとき、現地でプリペイドのSIMカードを入手し、持参したSIMフリーのスマートフォンに入れて使うことが多い。最近はソフトバンクモバイルとNTTドコモが相次いで海外パケット定額を開始したので、海外でパケット通信を使ったからといって通信料が即何万円に上る心配は少なくなったが、そうは言ってもほとんどの場合は現地の事業者が直接提供するサービスのほうが安い。

 スマートフォンでPCと共通のメールアカウントを使用する限り、海外にいても日本にいるときとまったく同じようにメールが送受信できるし、不案内な土地でこそGoogleマップなどのサービスは役に立つ。海外に出ると、ある意味で日本にいるとき以上にスマートフォンの威力を実感できるが、やはりSIMフリーの端末を1台用意しておくと通信料金の心配なく現地でも快適に利用することが可能だ。

 さて、今回はSIMフリー端末自体ではなく、それを利用したときに発見できるちょっとした興味深い現象について見てみたい。

■SIMフリー端末でのAndroidマーケットの挙動

 筆者は海外ではSIMフリー版のHTC Desireを利用している(技術基準適合証明を取得したモデルではないため、日本国内でNTTドコモやソフトバンクモバイルのSIMカードを入れて使用すると法令や各社のサービス契約約款に反することになる)。今回ブラジルに数日間滞在したのだが、現地に到着してからプリペイドSIMカードを購入するまでの間、ソフトバンクのSIMカードを仮に装着していた。

 このカードは、普段日本にいるときはiPhoneで使用している黒色のSIMカードである。パケット通信料が発生がしないよう、データ通信は無線LANでまかなったが、この時点でのSIMフリー版Desireの挙動は、国内でソフトバンクが販売している「X06HT」とほとんど同じように見えた。

 空港で乗り継ぎの飛行機を待つ間、あることを試してみようと思いついた。先日、ジャストシステムが日本語入力ソフト「ATOK」のトライアル版をドコモの「Xperia」と「Galaxy S」専用アプリとしてリリースしたが、SIMフリーの端末でこれはどういう扱いになるのかがふと気になったのだ。ソフトバンクのSIMが入っている間は、当然のことながらAndroidマーケットで検索してもATOKは見つからない。

 しかし、ここで通話用として別に持っていたドコモのiモード携帯電話からSIMを抜き取り、SIMフリーのDesireに装着して再起動してみたところ、マーケットにはATOKが表示され、何事もなくインストールして使用することができたのだ(もちろん、今後この挙動は変わる可能性がある)。

 Androidマーケットでは、ログイン時にどの通信事業者のSIMカードが装着されているかによって、アプリを提供するかしないかを出し分けることが可能だ。この仕組みによって、事業者が「当社だけの独占提供アプリ」を用意し、他社との差別化要素を設けることが可能になっている。今回のATOKの例では、差別化というよりも、ベータ段階のソフトが確実に動作する機種に提供先を限るために選別が行われていると考えられるが、いずれにしても、マーケットに出てくるアプリがSIMカードによって変わることには違いない。

■独占アプリという名の囲い込み

 さて、本稿の趣旨は裏技を紹介することではない(実際、この例では非公開の仕様を突くような手順は一切踏んでいない)ので現象の紹介はこれにとどめるが、筆者が気にかけているのは、今後「○○独占アプリ」という名の囲い込み施策が次々投入されるとして、それはユーザーにとって本当に利益になることなのだろうかということである。

 もちろん、通信事業者やアプリ・サービスの提供者が適正な利益を上げることができなければ携帯電話を利用した事業自体がそもそも成立しないので、ビジネスモデルとしての囲い込みは一概に否定されるものではない。例えば、特定の通信事業者のネットワークでないと実現できないサービスの実現にあたり、端末との緊密な連携が必要なために提供される専用の機種やアプリなどだ。しかし、短絡的にユーザーの利便性を制限することで自社に利益を誘導しようとするようなサービスだとしたら、それは遅かれ早かれユーザーからそっぽを向かれるだろう。

 ここでついでに、もうひとつの実験をしてみた。このSIMフリー版Desireに、以前米国を訪問したときに入手した米AT&TのSIMカードを入れ、AndroidマーケットでSkypeのアプリを検索してみたのである。

 すると、日本では未提供のAndroid版Skypeをインストールし利用できることが確認された。しかも、アプリは完全に日本語化されている。つまり、現状Androidマーケットで日本市場向けのSkypeアプリが提供されていないのは、ローカライズが完了していないからではないということだ。

 ここで誰でも考えつくのは、先のSkypeとKDDIとの戦略提携である。両者の間で結ばれた契約の詳細は非公開のためあくまで想像だが、日本市場においてはKDDI向けの提供を優先するため、他社端末向けの公開は見合わせていると考えることができる。もちろん、KDDIのIS03に搭載されるSkypeは、一定の品質が保証される回線交換でも無料通話が可能というプレミアム要素もあるので、ネットワークと端末が連携する必要があるし、ユーザーにもメリットがあるので、先に挙げたような短絡的な囲い混みというわけではない。

 Skype側の立場から見ると、今回の施策はKDDIとのパートナーシップによって強力なプロモーション展開を行えるというメリットがあるし、時として「電話代をタダにしてしまう、通信キャリアの天敵」と見なされることもあるSkypeをいきなりAndroidマーケットで公開してしまうと、今後の日本市場におけるビジネスが難しくなる可能性も考えられるので、このように通信事業者と歩調を合わせて展開するやり方は現実的と言えるだろう。

 しかし、スマートフォンが一大ブームとなっているこのシーズンに、特定の事業者との関係を強化したことで、他社のAndroidスマートフォンを利用しているユーザーを取り込むチャンスを逃していると見ることもできる。他社ユーザーにとっては、せっかくインターネット上で提供されるオープンなサービスであるSkypeなのに、契約している携帯電話会社によって利用できるかできないかが決まってしまうのは残念な話である。

 最終的にこのようなビジネス展開がSkyepとKDDIの両社、そしてユーザーにとって利益となるのかは、時間が経ってみないと分からない。また、未来永劫KDDIだけにしかSkypeアプリが提供されないということも考えにくい。要はバランスということになるのだろう。

 ただ、繰り返しになるが、ユーザーの利便性を無視した囲い込み戦略は、スマートフォンの時代においては無意味ということは間違いない。年末商戦向けの新製品発表会において、携帯電話各社の幹部からは「スマートフォンにおいても当社ならではの価値を提供する」という趣旨の発言が頻繁に飛び出したが、スマートフォンの重要な価値のひとつが、インターネット上でオープンに提供されているサービスを便利に利用できることだ。その点がどこまで理解されているか、気になるところである。
《日高彰》

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