【特集・NGN】KDDIに聞くNGN——「NGNは“次世代インターネット”ではない」 | RBB TODAY

【特集・NGN】KDDIに聞くNGN——「NGNは“次世代インターネット”ではない」

ブロードバンド その他

KDDI 技術渉外室 企画調査部長 三澤康巨氏
  • KDDI 技術渉外室 企画調査部長 三澤康巨氏
  • KDDI 技術渉外室 企画調査部長 三澤康巨氏
 この特集では、今何故“NGN”が叫ばれているのか?NGN(Next Generation Network)の要はどこにあるのか?などNGNに焦点を当てて、業界のキーマンにインタビューをしていく。今回は、KDDI 技術渉外室 企画調査部長 三澤康巨氏に、キャリアの立場から、NGNで実現するサービスについて語っていただいた。

 キャリアがNGNに取り組むようになった背景について、三澤氏は次のように話した。「今や移動体通信を含めた通信事業そのものが成熟産業になってきていて、設備を効率化しなければビジネスが成り立たなくなってきています。そこへちょうど、回線交換ネットワークも老朽化してきた。しかし、機器を交換しようにもベンダーは回線交換用の機器を製造に消極的ですし、交換したとしてもまたこの先10年は同じネットワークを使い続けなければならない。であれば、莫大な資本を投じるのだから、新しいサービスを提供できるネットワークを構築しよう、となったわけです。今すぐNGNに置き換える必要性に迫られているわけではありませんが、10年先までは待てない、という状況なのです」。

 KDDIは、2005年6月に「ウルトラ3G構想」を発表した。これは、移動と固定の統合によってコスト競争力のあるインフラを構築し、放送を含めた様々なサービスをシームレスに提供する、いわゆる「FMBC(Fixed Mobile and Broadcast Convergence)」を目指したものである。現在、既存回線交換ネットワークをソフトスイッチへ置換する作業を進めており、2007年度末には世界に先駆けて固定電話網のオールIP化を達成する予定だ。


 KDDIのNGNはこのウルトラ3G構想に基づいて構築されるものだ。三澤氏はIP化について、「我々はIPを単に技術として使うだけであって、目的は、IPを利用することによって安いコストでネットワークをつくること」と話す。また、KDDIがこの「コスト」と並んでNGNの技術的なカギと考えているのが「相互接続性」である。「もちろん我々のNGNはNTTと相互接続できなければなりません。世界のNGNの先頭を走るNTTは標準に準拠しているとしていますが、正直、若干の日本ローカルな部分ができるのではないかとの懸念もあります。我々はトライアルへの参加を通じて、グローバル準拠の相互接続を目指しています」。


 「NGNはトランスポート層とサービス層の2層で構成されます。トランスポート層はQoSやセキュリティを高めたルータネットワークで、サービス層では現在移動と固定で分かれている顧客情報が統合データベース化されます。同じくサービス層のIMS/MMD(Multimedia Domain)はコンポートネント化され、提供サービスに応じて追加実装可能にします。その上に位置するSDP(Service Delivery Platform)は、サービスをつくり易くするためのものではありますが、一部開放を検討しています」と、三澤氏はオープン化の可能性を語る。

 しかし次のようにも続ける。「NGNは“次世代インターネット”ではありません。NGNができたからといって、インターネットが影響を受けるという話では全くないのです。ここのところが広く誤解されていて、ISPさんから批判の声をいただいたりするのですが、NGNは本来クローズドな回線交換ネットワークの置き換えです。ですから、IPベースになったからといって自動的にオープン化するというのは、インターネットを基準にした完全な誤解です。NGNの原点はクローズドな回線交換ネットワークなのです。」ただしSDPとか出せる部分は増えてくるので、そこは前向きに取り組むと。

 しかし、完全にクローズドなネットワーク、というわけではないようだ。既存の固定電話網においても、KDDIは既に一部を開放している。その一例がセコムの「ココセコム」である。これは、GPS機能を利用して、ユーザの居場所を確認できたり、外出先で不慮の事態が発生した場合にセコムスタッフを急行させるサービスであるが、ネットワークインフラにauを使っていると言う。「あるパネルディスカッションで、“NGNでも垂直統合モデルをやるんですか”と質問されたことがありますが、IP化するからといってこれまでのモデルが自動的に崩れることはないのです。NGNも基本は垂直統合です。ただし、ココセコムのように、ビジネス的に双方にメリットがあれば一緒にやっていく、という考えは従来と変わりません」

 では、KDDIとしてはどのようなビジネスモデルのもとに一部開放を展開していくのか?、の問いに三澤氏は、「NGN自体、技術的にはいろいろな実験を進めていますが、ビジネス的には“構想”の域を出ていない状態で、現時点では何らスキームが決まっていません。明確なビジネスモデルを打ち出せれば前述のような誤解を解消できるのかもしれませんが、残念ながら今はまだ試行錯誤の時期です」と語る。また、パートナーの動向については、「皆様からオープン化を望む声は多く聞かれるのですが、具体的にどのようなサービスを展開したいのかとなると、はまだ1つも要望をいただいていないのが現状です。今後具体的な要望をいただけば、それがNGN展開のトリガーになってくる可能性はあります」

 FMBCサービスの実現に向けて、KDDIでは2006年2月、大阪地区中心部にてモバイルWiMAXの実用が可能であることを確認し、また、モバイルWiMAXとEV-DO、ADSLなどを併用した世界初のシームレスハンドオーバーにも成功した。さらには、同年12月に「EV-DO Rev.A」を導入し、上り速度が従来の144kbpsから1.8Mbpsへ大幅に向上した。三澤氏は「EV-DO Rev.Aのエリアが広がれば、モバイルWiMAXとともにNGNのアップリンクとして使える可能性が出てきます。我々が移動体アクセス網のスループットを高めることにより、ユーザは家でも外でも情報を自在に操作できるようになる。NTTは光を前面に出してNGNを展開していますが、我々は固定と移動の統合でNGNを示していきたいと考えています」

 通信の統合はサービスの統合にもつながる。「今は“au”と“ひかりOne”といった別々のブランドが存在し、それを“まとめて請求”サービスなどでバンドルしているにとどまっていますが、固定電話、携帯電話、データ通信、放送、全てのサービスを統合ブランドとして提供する方向へ向かうのでしょう」と三澤氏は予想する。現在、放送に限ってみても、ひかりoneTVサービスとケーブルテレビ会社との協業など、それぞれが独立して提供されているが、ウルトラ3G構想が現実のものとなれば、いずれ統合されると見られる。

 ブロードバンドを生かしたNGNのサービスとして、どのようなものがユーザから求められるか?という問いに対し、三澤氏は「まだ具体的なニーズは出てきていませんが、私が個人的に、NGNの特長を大きく示すことができると思っているのは、ビデオ会議に大乗される映像を使ったコミュニケーションです」と答える。それにはまず「コンシューマ向けよりも、法人向けサービスが立ち上がるのでは。これも個人的な意見ですが、今は企業が自らPBX設備を持ったり、イントラネットを構築したりしていますが、ますますブロードバンド化が進展してNGNも登場すると、企業は自社網をアウトソーシングしはじめるのではないでしょうか。アウトソーシングによって企業は本来のビジネスにより集中できるようになり、我々も新たなビジネスチャンスをつかめると考えます」

 では一般消費者には、NGNによってどのような変化が起こってくるのか?三澤氏は「いろいろ議論はありますが、携帯電話機は既にインテリジェント化しているので、携帯電話端末の機能自体にはそれほど違いが出てこないのではないでしょうか。最も違いが出やすいとすれば“情報家電のネットワーク化”です。情報家電がNGNの端末として使われるようになり、自宅の情報家電と外出先の携帯電話でシームレスな操作が可能になってくる。今、大型テレビの売れ行きが好調ですが、テレビが情報端末として使われるようになるのは自然の流れだと思います。これまでの携帯電話機のインテリジェント化が、家電を含めた固定端末へ波及化し、様々な端末間における情報の共有によって新たなサービスを利用することができるようになるでしょう」と1つのシナリオを示す。

 三澤氏は「世界的には、2010年に入ってから機器の交換が本格化するのでは」と見ている。そして、「KDDIとしてはNTTに遅れないようにNGNに取り組み、ユーザにとって使いやすいサービスを提供できるキャリアネットワークを構築していきたい」と述べた。
《柏木由美子》

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