【立入勝義の米国レポート】アップルの責任と自覚 | RBB TODAY

【立入勝義の米国レポート】アップルの責任と自覚

 ここのところ世間を賑わすことの多いテロ事件。最近ではブリュッセルとパリで大きな事件があったが、アメリカでも先日筆者が住むロサンゼルス近郊で14人もの命が奪われる銃撃事件があり過激思想との関係性が問われた。

IT・デジタル セキュリティ
立入勝義氏
  • 立入勝義氏
  • 「iPhone SE」
 ここのところ世間を賑わすことの多いテロ事件。最近ではブリュッセルとパリで大きな事件があったが、アメリカでも先日筆者が住むロサンゼルス近郊で14人もの命が奪われる銃撃事件があり過激思想との関係性が問われた。

 その時に逮捕された犯人が持っていたアップル製スマートフォンで、そのセキュリティロックをFBIが自前で解除できないことから抜け道、いわゆるバックドアを設けるようにと要請したがアップルはユーザーのプライバシー保護の観点から断ることに

 個人情報保護と国防という2大テーマを巡り世論は紛糾。ニュースは世界を駆け巡り、セキュリティ業界の生ける伝説ジョン・マカフィーがそれに言及したことも話題になった。曰く、アップルはそんなことをする必要がない、この私が仲間とそのiPhoneのロックを破ってみせよう、と。しかし結果的にFBIは(日系関連企業とも言われる)某企業の技術協力により、端末のアンロックに成功したと発表。事態はひとまず収束をみた。

 以前マイナンバーのところでも書いたが、犯罪者集団から消費者のプライバシーを守るのはアメリカでは政府より民間会社の方が強いイメージがある。昨今アメリカの消費者がLIFELOCKやIdentity Guard、Last Passという個人情報管理サービスや自己の与信を管理するクレジット・モニタリングに毎月費用を投じて適した自衛策を講じるのは必須となっている(日本でも詐欺被害が蔓延している割には、まだまだそうした意識は薄いのではないか)。

 今や世界中で大量の個人情報が保管されている端末を製造だけでなく、ソフトを通じて管理もしているアップルの舵取りが及ぼす社会的インパクトは計り知れない 。同社はこれまでにも何度も当局の犯罪捜査のためのアンロック作業には協力してきており、犯罪者のプライバシーまで過度に守ろうという意図があるわけではない。

 今回問題となったのは個別の端末をアンロックすることではなく一般的な「バックドア」を設けることを要求されたためであり、これは逆に犯罪増加を促すという論を展開しているにすぎない(今回の事件を聞いた犯罪者がアップル社製の端末に乗り換えるという噂がネットを賑わせたのも何とも皮肉な話である)。もちろん、これは世界中にいる不特定多数のユーザーのプライバシーを脅かすことになる。FBIは単独でもこの技術(UFED)を用いて解除できたのだが、ことを大きくして一般大衆の合意を取り付けたかったのではないかとも噂されている。3月21日の製品発表イベントでアップルCEOのティム・クックは同問題を巡るジレンマについて冒頭でコメントした。折しも今年は大統領選挙。国防論で過激な発言を繰り返すトランプ氏が大統領候補として優位な地位を築きつつあることもあり、セキュリティとプライバシー、民間企業対政府を巡る議論は今後も続きそうである。特にアップルはスマート・モバイル時代を切り拓いた責任と自覚をもち、プライバシーとセキュリティのジレンマに悩み続けるだろう。

●著者:立入勝義 氏
世界銀行元ソーシャルメディア広報担当官。元ウォルトディズニーリゾートデジタルプロデューサー。北米で、ライセンシング交渉、M&A、法務交渉(対米国起業)、ローカライゼーションなど起業支援コンサルティングを行う。日本語での著作は4冊、米キンドルストアでは100冊以上を出版。
《RBB TODAY》

関連ニュース

特集

page top