【視点】町工場の経営を救った鋳物ホーロー鍋!口コミ効果で売上げ増 | RBB TODAY

【視点】町工場の経営を救った鋳物ホーロー鍋!口コミ効果で売上げ増

エンタープライズ その他

土方邦裕社長
  • 土方邦裕社長
  • バーミキュラ
  • 鍋底にはリブ加工が施されている
  • バーミキュラで無水調理したカレー
  • ホーロー工程_うわ薬吹き付けのようす
  • 加工工程_バリ取りのようす
  • 鋳造工程_注湯のようす
  • 愛知ドビー外観
 女性を中心に人気を集めている鋳物ホーロー鍋。鉄と炭素の合金である鋳物に、ガラス質のエナメル(ホーロー)をコーティングした鍋で、保温性や耐久性が高いのが特徴だ。中心価格は2万円台と高価ながら、煮込み料理がおいしくでき、またカラーバリエーションが豊富とあって、愛用者が増えている。そんな鋳物ホーロー鍋市場は5年前まで『ル・クルーゼ』『ストウブ』『シャスール』のフランス製が大半を占めていた。ところが2010年に発売された日本製『バーミキュラ』によって、勢力図が変わった。

■従業員の士気向上と独自ブランドの確立
 バーミキュラが画期的だった点は、フタと本体の密閉性にある。その精度は0.01mm以下。水をほとんど使わず、食材が含む水分だけで無水調理ができる。発売からほどなくして「誰でも簡単に素材本来の味を引き出した料理ができる」と評判になり、一時は入荷まで最長15カ月待ちとなった。そんなヒット商品を生み出したのは、愛知県名古屋市にある愛知ドビー株式会社。1936年創業の老舗鋳造メーカーで、社名が示すように、ドビーという織機を製造していた。1970年代以降、国内の繊維産業の衰退によって、ドビー織機製造から撤退。工業メーカーの下請けへと転身を図り、油圧部品や真空ポンプ部品を手がけるようになった。

 調理器具にはおよそ縁のない町工場が、鋳物ホーロー鍋を手がけるきっかけとなったのは、経営の先行き不安からだったという。大手商社で為替ディーラーをしていた土方邦裕氏が愛知ドビーの社長になったのは2006年。「当時、景気は悪くなかったが、先のことを考えると、下請けだけでやっていくのは難しいと思いました。従業員の士気を高めるためにも、大きな挑戦が必要でした」(土方社長)。その挑戦とは、もう一度メーカーになることだったという。

 危機感が募る矢先に、たまたま土方社長の目にとまったのが当時話題になっていた鋳物ホーロー鍋。鋳物に含まれる炭素は、遠赤外線効果を生み出し、食材の組織を壊すことなく芯から温めることができる。そのため煮込み料理に向いている。ただ、『フィスラー』をはじめ無水調理ができるステンレス製の多層構造鍋を支持する声も多い。密閉性という点では鋳物ホーローよりステンレスの方が有利だからだ。「ならばステンレス製並みに精巧な鋳物ホーロー鍋をつくって無水調理ができるようにすれば、世界最高の鍋として売れるのではないか。鋳物であれば、愛知ドビーの設備や技術をいかすことができる。差別化を図ればメーカーとしてやっていける」と土方社長は確信した。

■0.01mm以下の精巧さは、熟練の職人技によって実現
 下請けを続けながら、「世界一の鍋をつくる」と旗印を掲げた愛知ドビー。気を吐くも、鍋づくりのノウハウはまったくない。まずはあらゆる鍋を片っ端から集めた。「大学の教授など各分野の専門家に協力してもらいました。海外からも論文を取り寄せ、翻訳をしながら勉強した」(土方社長)と、まさにイチからのスタートだった。

 目標である無水調理をできるようにするには、まず水蒸気が逃げないように本体とフタの密閉性を高めなければならない。従来の鋳物ホーロー鍋でも、フタの重さで、ある程度の密閉性は確保されていたが、無水調理ができるレベルには及んでいない。本体とフタのわずかな隙間をいかになくすか。その技術開発が一番の難関だったいう。

 「鋳物の段階で密閉性の高い鍋をつくっても、ホーローを吹き付けると鍋自体が歪むのです。一般的に鋳物の変態点は720度前後。対して、ホーローを鋳物に焼き付ける温度は800度。そのために金属の調合など、鋳造工程から見直す必要がありました」(土方社長)。分量、温度、気温など、工程ごとにうまくいったときといかなかったときの差を細かく数値化しながら微調整を繰り返した。

 開発期間は当初3か月を見込んでいたが、実際は3年以上かかった。鋳造工程では1500度に溶かした鉄に13種類の金属を配合し、砂でつくった型に流し込んでいく。どんな金属をどんな割合で配合させるかは、もちろん企業秘密だが、この工程では、通常の鋳物よりも格段に厳密な成分調整と、鉄を流し込むスピードや温度の管理が求められるという。そして冷却されて型から取り出された鋳物は、職人がひとつひとつ鍋の縁を削って磨く。この熟練の職人技こそが愛知ドビーの強みだ。0.01mm以下という精巧さは、老舗鋳造メーカーならではの卓越した“腕”で実現する。

■鍋底や取っ手にも創意工夫
 バーミキュラの売りは、密閉性の高さだけではない。鍋底に施されている凹凸のリブ加工は、食材と鍋の接触面積を小さくすることで焦げ付きや煮崩れを防ぐとともに、遠赤外線効果を高めるために考えられたもの。また、本体とフタそれぞれについた取っ手の形状および角度は、メインユーザーの女性への配慮から設計されたもの。鋳物ホーロー鍋は総じて重い。バーミュラは直径22cm・容量3.5リッターのもので4.2kgある。その重さは鋳物という特性上、どうにもならない。そこで「重さをできるだけ感じないようにすればいい」(土方社長)と考えたのが、その形状と角度なのだ。取っ手には指4本がすっと入り、本体側とフタ側の両方を挟み込むように持ち上げると、実際の重さよりも軽く感じる。しかも取っ手自体が丸みを帯びているため、指への”あたり”が優しい。

 「バーミキュラのヒットに大きく貢献したのは、料理研究家やレストランのシェフなどプロからの評価が大きい」(土方社長)。商品が完成すると、サンプルを送り、試しに使ってもらった。ブログやSNSでプロに商品の魅力を宣伝してもらったことから、料理好きな一般ユーザーの目に留まり、その口コミ効果で売り上げはどんどん伸びていった。

 修理などアフターサービスが充実しているのも、人気を後押し。発売当初はインターネットでの販売がメインであったが、今では百貨店など全国200箇所以上で販売されるまでになった。「数年前に日本で放送されたテレビ番組が、海外のテレビ局で再放送されたこともあり、海外からの注文も増えています。特に台湾・香港をはじめとしたアジアのお客様が増えているので、空港の免税店などでの販売も考えています」(土方社長)。生産設備や人員の強化で国内の入荷待ちが解消されたのを受け、土方社長が次に考えるのは海外展開だそうだ。

【地方発ヒット商品の裏側】鋳物ホーロー鍋の勢力図を塗り替えた「バーミキュラ」

《DAYS》

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