【テクニカルレポート】LED照明駆動用IPDの開発……パナソニック技報(前編) | RBB TODAY
※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【テクニカルレポート】LED照明駆動用IPDの開発……パナソニック技報(前編)

ブロードバンド テクノロジー
第1図 LED照明駆動回路の比較
  • 第1図 LED照明駆動回路の比較
  • 第2図 LED照明駆動用IPDのブロック図
  • 第3図 出力電流の分布
<要旨>

 LED(Light Emitting Diode)照明市場の発展に伴い、高力率や調光に対応可能なLED照明への要望が増えている。そこで力率補正機能や調光機能を内蔵し、フィードバック回路を使用しない定電流制御が可能なLED照明駆動用のIPD(Intelligent Power Device)を開発した。本製品は変換効率80 %以上、力率0.9以上の高力率を実現し。トライアック調光器に対応できる。

1. はじめに

 LED照明は低消費電力や長寿命という特徴があり注目されている。LED出力電流の増加に伴い、AC-DC電源と定電流回路を組み合わせた電源が製品化されている。

 当社ではスイッチング電源の小型・軽量化を目指して、高耐圧パワーMOS-FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)とそれを制御する制御回路や保護回路をワンチップに集積化したインテリジェント・パワー・デバイス(以下、IPDと記す)の開発を行っている。当社のスイッチング電源用IPDは待機時消費電力の削減に有効であり、高い評価を得ている[1]。これまでに、本IPDの集積技術を応用して、LED照明駆動用IPDを製品化している[2]。

 第1図(a)に示すように,従来の一般的な構成のLED照明機器の駆動回路には下記のような課題があった。

・変換効率
・入力平滑コンデンサが必須
・高力率駆動
・調光機能

 省エネへの対応として、一般的に高効率であることが求められるが、一般的な回路構成ではAC-DC変換した後にさらに定電流ICを使用して定電流化を行うため定電流精度はよいが、変換ロスが増えるため変換効率が低い。

 そこで、従来のLED照明駆動用IPDは部品点数削減と変換効率向上を目的として開発したが、いくつかの課題が残った。例えば、入力ラインに平滑用のアルミ電解コンデンサを必要とする。一般的にアルミ電解コンデンサは寿命が短いため、LED照明機器に使用されているとLED素子の長寿命というメリットを生かすことができない。

 また、電気機器の省電力化を目的とした米国のエナジースターレベルでは、出力電力Po>5Wの照明器具には力率PF(Power Factor)>0.7が必要とされる。一般的に力率改善のためには、 専用のPFC(Power Factor Correction)回路が必要になるが、部品点数が多くなり、小型・コスト面で課題が生じる。また、電球型LED照明器具の場合、主用途が白熱電球の置き換えであるため白熱電球用の調光器に対応する必要がある。さらに、部品点数削減のためにフィードバック回路レス方式としたが、出力電流の定電流精度が課題であった。

 そこで著者らは、入力平滑用アルミ電解コンデンサを用いない力率改善やトライアック調光に対応でき、フィードバック回路レスで高精度な定電流制御が可能なLED照明駆動用IPDの開発を行った。

2. LED照明駆動用IPDの概要

 本製品は、第2図のブロック図に示すように制御回路部とパワーMOS-FETを内蔵し、パワーMOS-FETのドレインピーク電流値が一定となるように制御する。したがって、LEDにはドレインピーク電流値と等しいピーク電流が流れることになる。従来のLED照明駆動用IPDとの違いは下記の4点である。

(1)スイッチング制御方式
(2)ドレインピーク電流値の調整
(3)入力電圧に応じた間欠発振制御
(4)定電流精度の向上

 以下にその内容について述べる。

2.1 スイッチング制御方式

 電源入力部に平滑用アルミ電解コンデンサを接続しない全波脈流波形で使用する場合、ドレイン電流波形の傾きは高入力電圧時に急峻であり、低入力電圧時は緩やかになる。

 従来の電流モードPWM(Pulse Width Modulation)制御では動作周期が固定されるため、低入力電圧時にドレインピーク電流検出値に達する前にターンオフし、正常な制御ができない期間が発生する可能性があった。

 本製品の制御方式は、パワーMOS-FETのオフ時間を固定してドレインピーク電流検出値を検出するまでオン時間を延長するオフ時間固定制御方式である。したがって、ドレインピーク電流検出値が一定の場合、高入力電圧時のオン時間は短く、低入力電圧時のオン時間は長くなり、確実にドレインピーク電流値を検出することができる。

2.2 ドレインピーク電流値の調整

 従来のLED照明駆動用IPDではドレインピーク電流検出値はあらかじめ決定された値から変化することはできない。

 本製品では、CL端子に印加される電流値が増加すると、IPDはその電流値に応じてドレインピーク電流値を高く設定する。この制御により外部信号に応じてドレインピーク電流を調整することが可能である。

2.3 入力電圧に応じた間欠発振制御

 さらに本製品は、CL端子への印加電流がある閾値(しきいち)以下の場合にパワーMOS-FETの発振を停止する。この機能を使用することにより入力電圧が一定レベル以下の期間に応じて、IPDの動作期間を調整することができる。

2.4 定電流精度の向上

 従来のスイッチング電源用IPDを使用した定電流制御は、出力電流を定電流回路で検出し、その情報を制御回路側にフィードバックして発振周波数やオン時間を調整する。このような回路構成の場合、高い定電流精度を得られるが、回路が複雑で部品点数が多く駆動回路の小型化を実現する上で課題となっていた。

 当社の新規LED照明駆動用IPDを用いた方式は、パワーMOS-FETのオン時間はLEDに流れるピーク電流値を検出して決定され、オフ時間はあらかじめIPDで設定されているため、フィードバック情報を必要としない。また、ピーク電流検出値はCL端子に印加される電流値に応じて変化するが、最大のピーク電流検出値はEX端子への印加電流値によってあらかじめ設定することができるので、セットの仕様に応じて調整することが可能である。

 なお、本製品の駆動回路は、非絶縁降圧チョッパー回路構成を基本としているので、フライバック電源と比較するとトランスが不要なため電源変換効率が高い。

 一方で、定電流精度はあらかじめIPDで設定されたピーク電流検出値やオフ時間に依存し、それらの値は製造ばらつきを含むため、フィードバック回路方式よりも低くなってしまう。

 そこで、今回この課題に対応するため、まず、特定の定数の駆動回路を用いて、実際の出力電流値とその出力電流値を決定するIPDのパラメータ(ピーク電流検出値、オフ時間など)から算出される推定出力電流値を比較した。次に、その結果を反映して、推定の目標出力電流値に近い値になるように、出荷前の検査工程でトリミング手法を用いてIPDのパラメータの合わせ込みを行うことにした。

 第3図に、入力電圧:AC 100V、出力電圧:37V、出力電流:315mAに設定された駆動回路を使用した場合の出力電流値の分布結果を示す。トリミング手法を用いIPDの個体差ばらつきを抑えることで、±5.0%以内の高い出力電流精度が得られた。※後編(7月1日掲載予定)に続く


■参考文献
[1] 高橋理 他、“待機電力を大幅削減できる電源用素子”電子材料、vol.40、no.6、pp.40-44、2001.
[2] インテリジェントパワーデバイス(IPD)アプリケーションノート LED照明駆動用、パナソニック(株)、第3版、2008.

■執筆者紹介
國松 崇 Takashi Kunimatsu
デバイス社 半導体事業グループ
河邊 桂太 Keita Kawabe
デバイス社 半導体事業グループ
石田 敏文 Toshifumi Ishida
デバイス社 半導体事業グループ

※本記事はパナソニック株式会社より許可を得て、同社の発行する「パナソニック技報」2012年4月/Vol.58 No.1収録の論文を転載したものである。
《RBB TODAY》
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集

page top