【COMPUTEX TAIPEI 2012 Vol.19】米クアルコム、「Snapdragon S4」を新分野にも展開 | RBB TODAY
※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【COMPUTEX TAIPEI 2012 Vol.19】米クアルコム、「Snapdragon S4」を新分野にも展開

エンタープライズ モバイルBIZ
Qualcomm CDMA技術部門のSteve Hortonシニアディレクター
  • Qualcomm CDMA技術部門のSteve Hortonシニアディレクター
  • 電話からWebブラウジング、ゲームに至るまでモバイル機器に必要なさまざまな機能をワンチップに統合したSnapdragon
  • Snapdragon S4シリーズを4カテゴリに細分化。タブレット向けの「S4 Pro」、テレビ向けの「S4 Prime」などを用意
  • 従来Android端末での採用が多かったが、今回の説明会はむしろWindows一色の内容となった
  • 端末ベンダーやソフトウェア開発者に配布しているリファレンスモデル。「S4 Plus」カテゴリのプロセッサだが動作は軽快
  • MPQ8064を搭載したセットトップボックスのデモ。大画面でフルHD動画を再生しながらのブラウジングも余裕
 米クアルコム(Qualcomm)は、「COMPUTEX TAIPEI 2012」の開催にあわせて会場近くにプライベートブースを用意し、同社のSnapdragonプロセッサに関する報道関係社向けの説明会を行った。今年から提供を開始している最新世代の「Snapdragon S4」シリーズをターゲット機器別の4カテゴリに分類し、タブレットやスマートテレビなど新しい領域の端末に向けたモデルも積極的に強化していく考えを示した。

 同社CDMA技術部門でプロダクトマネジメントを担当するSteve Hortonシニアディレクターは、独自開発の高性能プロセッサコアに加え、携帯電話回線に対応したモデム技術、グラフィック機能など、モバイル機器に必要となされるさまざまな技術をワンチップに搭載していることがSnapdragonの強みであると説明。特に他社ではプロセッサとLTEモデムが別チップになっている製品も多く、LTEスマートフォンではSnapdragonは大きなアドバンテージを発揮している。既に70以上の機器メーカーから370機種以上のSnapdragon搭載製品が発売されており、現在も400以上の新製品が開発中。また、開発中の製品のうち35機種以上がタブレット型の端末だという。

 ARMアーキテクチャをベースとしたSoC(System on Chip)は無数の製品が世に存在するが、他の多くのチップメーカーはARMの設計した標準コアを採用しているのに対し、Snapdragonはそれらと互換性を持つものの、より高性能な独自設計のプロセッサコアを搭載しているのが特徴。特にSnapdragon S4では、それまでの“Scorpion”コアに代わる第2世代の“Krait”コアを新たに採用しており、動作周波数あたりの性能を60%以上向上させたという。

 また、2個または4個のプロセッサコアそれぞれについて、異なる動作周波数と電圧を動的に設定することができるのも独自設計ならではの特徴だ。ライバルとなるNVIDIAのTegra 3はARMの標準コア4個に低消費電力の「コンパニオンコア」1個を加え、アイドル時はコンパニオンコアのみの動作とすることで消費電力を削減しているが、標準コア4個はオン/オフを切り替えることはできても、オンの状態のコアはすべて同じスピードで動作する。これに対してSnapdragon S4の場合、ゲームなどのスレッドを実行中のコアはフルパワーで動かしながら、メール作成や音楽再生など低負荷のスレッドが割り当てられたコアを低速に設定できるので、プロセッサ全体では消費電力や発熱を抑えることが可能で、コンパニオンコアのような仕組みは必要ない。Qualcommでは、Snapdragonのアプローチのほうがシンプルで効果的とアピールしている。

 Snapdragon S4に含まれるモデルとしては「MSM8660A」が5月に発売されたKDDIの「HTC J」に搭載されているほか、LTE対応の「MSM8960」が今月以降発売されるNTTドコモのXi機種の多くに搭載されるなど、スマートフォンでの採用が進んでいる。しかしQualcommでは、Snapdragon S4の採用をタブレットやテレビなどより大型のデバイスにも拡大すべく、タブレット型・ノート型端末向けの高性能Snapdragon S4を「S4 Pro」、スマートテレビ向けの最上位モデルを「S4 Prime」の名称でカテゴリ化した。

 また、従来のスマートフォン向けモデルにも「S4 Plus」のカテゴリ名が付けられたほか、Snapdragon S4シリーズのエントリー製品で、普及価格帯スマートフォンをターゲットにしたモデルを「S4 Play」と呼んでいる(ただし、S4 Playは独自コアではなくARM Cortex-A5コアを搭載している)。

 各カテゴリを性能の高いほうから並べるとS4 Prime、S4 Pro、S4 Plus、S4 Playの順になるが、実際にはS4 PrimeおよびS4 Proを搭載する機器はまだほとんど存在しておらず、現時点で市場に出ている機器の大多数はS4 Plus以下(それでもスマートフォンとしては最高クラスの性能)のカテゴリの端末だけだ。にもかかわらずQualcommが上位製品のカテゴリ化を進めるのは、ARM対応版Windowsの「Windows RT」を搭載したタブレットが今年中にも登場すると見込まれていることが背景にある。

 今回の発表会では同社が開発したWindowsタブレットのリファレンス設計モデルが披露された。このリファレンス機はS4 Plusのカテゴリに属するMSM8960を搭載しており、Windows RTが十分快適に動作することが示されていたが、PCの世界では現在においてもCPUの性能向上が止まらないように、タブレットでも利用シーンが広がるにつれてさらなるスピードが求められるようになるのは確実だ。現在はハイエンドの端末でも動作周波数は1.5GHz程度だが、Kraitコアは最大2.5GHzでの動作を想定して設計されており、まだまだ性能向上の余地はある。このタイミングでS4 Proカテゴリを設けたのは、スマートフォンより大画面で高いパフォーマンスを求められるタブレット端末に向けて、同社は既に提供可能なソリューションを用意しているとのアピールとも考えられる。
 
 また、最上位の「S4 Prime」は、まだ世の中にない新しい市場を開拓するための製品だ。このカテゴリに属するプロセッサは現在「MPQ8064」の1モデルだけで、これはS4 Proに属するクアッドコアプロセッサ「APQ8064」をベースとしながら映像やサウンド関連の機能を強化したものだといい、テレビやセットトップボックスへの搭載を想定している。フルHDのコンテンツ、3Dデザインを多用したユーザーインタフェース、ゲーム機並みのグラフィック性能を要求するアプリなどに対応できる性能を有している。

■組み込みCPUにも求められるブランディング戦略

 ただし、このようなカテゴリ分けを行ってもなお、どのプロセッサがどれだけのパフォーマンスを有しているか、エンドユーザーにとってわかりやすいとは言いがたい状況にあることには変わりがない。例えば最大1.7GHz動作・LTE対応のMSM8960と、1GHz動作で3GのみのMSM8227とでは大きな差があり、同じ「Snapdragon S4 Plus」でも個別のチップ名を確認するまでは性能を正しく知ることができない。このためS4 Plusというカテゴリ名よりもチップの型番のほうがユーザーの関心事となり、せっかくのSnapdragonというブランドが活きてこない。
 
 もちろんモバイル機器の価値を決定するのはプロセッサだけではないため、ひとつのパーツに過ぎないチップの仕様をそこまで前面に押し出す必要があるのかという議論はあるだろう。しかし、PCがたどった歴史をスマートフォンやタブレットも繰り返すのだとすれば、プロセッサの種類は消費者が機器を選択する際の主要なファクターになっていく可能性は高い。CPU、グラフィック、周辺機能のチップなどに無数の組み合わせがあるPCに対して、多くの機能がワンチップに統合されているモバイル機器においては、むしろその重要性は一層高いとも言える。チップベンダー間の競争が激しくなる中、各社が製品の性能をどのようにしてエンドユーザーへ伝えていくかも今後は注目ポイントとなっていくだろう。
《日高彰》
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集

page top