【テクニカルレポート】電気自動車向け充電インフラ整備を支える技術開発……NEC技報 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】電気自動車向け充電インフラ整備を支える技術開発……NEC技報

ブロードバンド テクノロジー
図.1 EV充電インフラシステムの概要図
  • 図.1 EV充電インフラシステムの概要図
  • 図.2 電子マネー決済サービス連携の概要図
  • 図.3 充電ステーションマップ(PC向け)の画面例
  • 図.4 充電ステーションマップ(カーナビ向け)の画面例
  • 図.5 充電器予約登録(携帯電話向け)の画面例
要旨

 電気自動車(Electric Vehicle:EV)は排ガスゼロのクリーンな乗り物として今後の普及が期待されていますが、そのためには充電インフラの整備が必要不可欠です。NECでは遠隔運用保守・エネルギー制御機能、認証課金機能などを備え、事業者が効率的かつ安心して充電ステーションを設置、運用できるEV充電インフラシステムを開発しています。また、充電ステーションをシステムベンダや事業者に依存せず、誰もが使えるようにするための通信規格の共通化に向けた活動も進めています。本稿では、充電インフラ整備を支える弊社の取り組みについて紹介します。


1. まえがき

 近年、排出ガスをいっさい出さない、環境にやさしい乗り物として電気自動車(Electric Vehicle:EV)が注目され、世界中で導入が進んでいます。しかし、より本格的な普及に向けては、誰もが、いつでも、どこでもEVへの充電ができるようにする充電インフラの整備が必要不可欠です。NECでは、充電インフラの整備を促進するために、さまざまなサービス事業者が効率的に、かつ、安心して充電ステーションの設置、運用を行えるEV充電インフラシステムを開発しています。また、さまざまな所で設置が進む充電ステーションを、それを運営するシステムベンダ(以下、ベンダ)やサービス事業者に依存せず、誰もが使えるようにするための通信規格の共通化に向けた活動を、国や地方自治体と共同で進めています。本稿では、これらの充電インフラの整備を支援する弊社の取り組みについて紹介します。


2. 充電インフラ整備に向けた課題

 EV向け充電ステーションは既存のガソリンスタンドとは異なり、電気さえあれば設置することが可能です。そのため、今後さまざまなサービス事業者が参入し、商業施設、娯楽施設、交通施設などのさまざまな場所に充電ステーションが設置されるようになると考えられます。

 このような充電ステーションの中には、無人で運用されるケースが少なくないと考えられます。しかし、現在、無人で運用されている充電ステーションの中には、保守員が定期的に各地の充電ステーションに出向いて稼働状態を確認したり、利用ログの回収などを行う必要があるため、運用コストが増大しているケースが多く見られます。また、出力電力などの充電器の動作設定を素早く変更することも難しく、最近の電力事情に対応した運用を行うこともできません。このようなことから、無人での運用を実現するためには、遠隔からこれらの作業を行えるようにするための機能が重要となっています。

 また、現状の充電ステーションの多くは実証事業が目的で設置されているケースがほとんどであるため、課金の仕組みがなく、充電サービスが無料で提供されている所がほとんどです。しかしながら、今後は利用者から適切な充電サービス料金を回収し、充電インフラ市場の自立的、継続的な成長につなげていく必要があります。このためには、サービス事業者がさまざまな課金メニューを利用者に提供できるようにするための認証課金機能が重要となります。

 これらの課題に加えて、現在、各ベンダ、サービス事業者の間での相互接続性の問題が顕在化しています。現状、設置が進められている充電ステーションの多くは、各ベンダやサービス事業者の個別の仕様で構築されており、各者が連携を行うための共通の通信規格は存在しません。その結果、ベンダや事業者ごとに充電器を利用するための会員カードなどが異なり、それぞれの事業者の会員カードを持っていないと充電ステーションでサービスを受けることができないという状況が見られ始めています。また、どこに充電ステーションがあるのか、空いているのかといった充電ステーションマップに関する情報も、現在は各者で個別に管理されているため、利用者が情報を一覧することが難しい状況になっています。

 以上の課題に対して、弊社では通信機能を備えた急速充電器とクラウドを連携させることにより、サービス事業者が効率的に、安心して充電ステーションを設置、運用することが可能となるEV充電インフラシステムの開発を進めています。また、国や地方自治体などと共同で、通信規格の共通化に向けた取り組みを進めています。第3章でEV充電インフラシステムについて、第4章で通信規格の共通化に向けた取り組みについて紹介します。


3. EV充電インフラシステム

3.1 EV充電インフラシステムの概要
 EV充電インフラシステムは、EV向け充電ステーションをスマートに実現するためのシステムです。本システムの概要図を図1に示します。本システムは、コールセンターやサービス事業者の拠点といった離れた場所から効率的な充電器の保守や充電器の出力制御などが可能な遠隔運用保守・エネルギー制御機能と、利用者へのさまざまな課金メニューの提供が可能な認証課金機能を提供します。更に、利用者の利便性を向上するための各種機能も備えています。以下、詳細機能について説明します。

3.2 詳細機能

(1) 遠隔運用保守・エネルギー制御機能
 通信機能の備わった急速充電器とクラウドの連携により、充電ステーションを設置するサービス事業者は、各充電ステーションに設置されている急速充電器の操作・障害情報を常時監視することが可能です。また、遠隔から充電器の動作状態を変更したり、ソフトウェア更新などのメンテナンス作業を行うことも可能です。これにより、障害対応や充電器の機能拡張及び、EV利用者の操作支援が遠隔地から行えます。

 また、急速充電器の出力をクラウドなどから柔軟に制御可能です。事業者は地域の電力需給状況などを考慮して、遠隔から各充電ステーションの急速充電器の出力を、任意の値に制御することができます。また、事前に設定したスケジュールに基づいて自動制御することも可能です。将来的には、例えば公共施設やビル、店舗、マンションなどの電力管理システムと連携して、急速充電器を経済的に運用するなど、スマートグリッド時代を意識したフレキシブルなエネルギー制御へ応用することも可能です。

 このように、本機能によりサービス事業者は、スタッフが常駐するガソリンスタンドのような専用施設でなくても、充電ステーションを効率的に安心して設置、運用することができます。

(2) 認証課金機能
 急速充電器にはマルチサービスリーダライタを搭載し、FeliCaカードによる会員認証や電子マネーによる課金が可能となっています(図2)。電子マネーによる課金機能については弊社が提供しているクラウド型の電子マネー決済サービス1)との連携により、多様な電子マネー決済機能の提供が可能となっています。また、会員の利用実績をクラウド側で管理し、月単位で事業者に報告する利用状況管理サービスを提供します。事業者は、この情報を元に利用者に利用料を請求したり、充電実績などの情報を提供したりすることができるため、例えば利用者の口座引き落としなど、電子マネー以外の課金決済にも対応することが可能です。

 以上のように、本システムでは多様な充電料金の課金メニューを設定することが可能となっており、本メニューの設定もサービス事業者がクラウドと連携して遠隔から行うことができます。

(3) 利用者の利便性向上のための各種機能
 本システムには、利用者の利便性向上のためのサービスを提供する各種機能が備わっています。充電器の位置情報や現在の利用状況(満空情報)を表示する「充電ステーションマップ」(図3、図4)により、利用者は離れた場所からPCや携帯電話、カーナビなどを使って、空いている充電器を探すことができます。また、同マップから利用したい充電ステーションを選択して、充電器予約登録画面(図5)から事前に利用を予約することもできるため、利用者は充電渋滞に遭遇することなく充電器を利用することが可能です。更に、充電完了時には利用者の携帯端末などに充電完了通知のメールを送信する機能も備わっています。これにより、利用者は充電中に電気自動車から離れて、他の場所で時間を過ごしていたとしても、充電が終了したことがすぐに分かります。


4. 通信規格の共通化に向けた取り組み

 弊社では現在、導入が進む充電ステーションを、ベンダや事業者に依存せずに、誰もがどこでも使えるようにするための通信規格の共通化に向けた取り組みを進めています。

 総務省「ネットワーク統合制御システム標準化等推進事業」スマート・ネットワークプロジェクト2)では、他のベンダが提供するシステムとの会員認証の相互接続を実施しました。また、複数メーカ(NECグループの高砂製作所、株式会社NTTファシリティーズ、日産自動車株式会社など)の急速充電器をネットワークでクラウドに接続してコールセンターなどからの遠隔運用保守を行い、検討した通信規格の実用性や汎用性に関する評価実験を実施しました。そして現在は、さいたま市が推進するEV普及施策である「E-KIZUNA Project」3)の一環として、地方自治体が設置・補助を行った充電ステーションにおける課金や料金徴収モデルの検討に向けた実証実験に参加し、国内の主要なベンダやサービス事業者との、相互接続のための通信規格の検討や、その検証を行う活動を進めています。


5. おわりに

 本稿では、充電インフラ整備を支援する弊社の取り組みについて紹介しました。弊社では、今後もEV充電インフラシステムによる、さまざまな事業者の充電ステーションの設置、運用を支援するとともに、他のベンダ、事業者との相互連携の仕組み作りを早急に進め、誰でも、いつでも、どこでもEVへの充電が可能となる世の中の実現を目指していきます。

●参考文献
1. NEC CRMサービス対応電子決済プラットフォームサービス
2. 「電気自動車用急速充電器をクラウドで連携する通信規格の評価実験を開始」、NECプレスリリース、2011.1.27
3. 「EV充電インフラサービスの自治体モデルの実現に向けた実証実験を開始」、NECプレスリリース、2011.12.21

●執筆者紹介
千原 晋平 新事業推進本部 環境エネルギー事業推進部 主任
石井 健一 新事業推進本部 環境エネルギー事業推進部 マネージャー

※本記事は日本電気株式会社より許可を得て、同社の発行する「NEC技報」Vol.65(2012年) No.1(2月)収録の論文を転載したものである。
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