【テクニカルレポート】効果的なプロジェクト計画の立案プロセス(前編)……ユニシス技報 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】効果的なプロジェクト計画の立案プロセス(前編)……ユニシス技報

エンタープライズ その他
図1 プロジェクトのフェーズ
  • 図1 プロジェクトのフェーズ
  • 図2 プロジェクトのライフサイクルに対する影響及び支出
  • 図3 プロジェクトに出現するフェーズのオーバーラップ
  • 図4 プロジェクト管理計画の階層
  • 図5 プロジェクト管理計画書のサブセット
  • 図6 プロジェクト計画立案プロセス
  • 図7  要求のベースライン化プロセス
  • 図8 プロジェクトアプローチの例
要約 

 プロジェクトの目標達成のためには「品質」、「コスト」、「スケジュール」、「リスク」等の種々の要素を統合し、総合的にマネジメントしていくシステム、つまりプロジェクトマネジメント(PM)手法を適用することが重要であるが、その中でもプロジェクト計画が鍵となる。

 本稿では、効果的なプロジェクト計画立案における九つのステップを紹介し、更によい計画立案に至るキーポイントと、今後のプロジェクト計画立案への科学的なアプローチの展開について筆者の考えを述べる。

1. はじめに

 「プロジェクト」と呼ばれる目標達成への取り組み方の歴史はそれほど古いものではない。制限された資源を活用しながら、所定の期間やコストの中で品質を保証し、プロジェクトを成功に導くためのプロジェクト管理手法は各方面で応用され、情報システムの開発でも着々と成果をあげている。

 プロジェクトを成功に導くためには、プロジェクトマネジャがプロジェクトの目的やゴールを明確にし、実現のための活動計画と管理目標を策定し、プロジェクト管理計画書としてプロジェクトの関係者であるステークホルダ*1 の合意を得ることが重要である。この合意によって、プロジェクトを運営する上でステークホルダと共通の理解を得ることができ、同じ認識でプロジェクト運営の意思決定ができる。

 当社は1997年に米国ユニシス社から網羅的で完成度の高いIS(Information Services)ビジネス方法論であるTEAMmethodSMを導入、ビジネスプロセスの概念を明確にした。1998年には関連する社内規定と統合し、具体的な実践手続きを示す基盤としてISBP(Information Services Business Process)を構築し適用を開始している。本稿では、筆者が当社のISBP に沿って実施してきたプロジェクト経験を基に、プロジェクト計画段階での重要な成果物であるプロジェクト管理計画書についての立案手法を紹介し、今後のプロジェクト計画立案への科学的なアプローチの展開を述べる。

2. プロジェクト管理計画の位置づけ

 プロジェクト管理計画について考察する前に、プロジェクトとプロジェクトマネジメントの特性について纏めると次のように捉えることができる。

 プロジェクトは独自の成果物を創出するための活動であり、明確な開始時点と終結時点の有期性と以前に行われたことのない独自性がある。プロジェクトが創出する成果物にも、類似性や反復性が含まれていたとしても独自性がある。プロジェクトの開始から終結までのプロジェクトライフサイクルは図1に示す様に五つのフェーズからなる。

 プロジェクトマネジメントの真髄は、プロジェクト関係者のプロジェクトに対する要求事項や期待を充足させること、またはそれ以上の成果をあげるために、プロジェクトライフサイクルを通じてプロジェクトの目標を実現するよう、最適なプロジェクト運営を実施することである。そしてまた、次の相克する要求事項間のバランスを取ることである。

1.スコープ(役務範囲)、スケジュール、コスト、品質
2.各ステークホルダの各々優先する要求事項や期待の優先度
3.明示的な要求項目と暗黙の期待

 この様に、プロジェクトを運営するに当たっては、プロジェクト目標を達成するためのプロジェクト立ち上げ、計画、遂行、コントロール、終結までのプロジェクト計画と管理が重要となる。

 プロジェクト計画を立案するプロジェクト初期段階は図2に示すように後の段階よりもプロジェクトの成果に対してはるかに大きな影響を与える可能性があり、プロジェクトを成功させるためには、プロジェクト計画立案がプロジェクトマネジャの重要な役割となる。

 プロジェクト計画フェーズの成果物であるプロジェクト管理計画書(PMP:Project Management Plan と言い、一般的にはプロジェクト計画書と称する)はプロジェクトに関わるステークホルダの合意とプロジェクト進行中の意思決定の共通資料であり、プロジェクト目標の実現に向けての計画と、実施に当たっての管理の仕組みが定義される。プロジェクトマネジャはプロジェクト計画立案後、プロジェクトメンバによる計画の実施と、プロジェクトの進捗をプロジェクト管理の仕組みに従って評価し、プロジェクトの目標に向けてプロジェクトの是正等をコントロールしながらプロジェクトを統制し、終結させることになる。

3. プロジェクト計画立案プロセス

 プロジェクト計画立案はプロジェクトの初期段階の計画フェーズで実施され、成果物としてプロジェクト管理計画書が作成される。計画策定に当たっては、プロジェクトを遂行するための様々な要素を有効に調和させるが、プロジェクトマネジメントの観点からの重要な側面は、それぞれのステークホルダが持つ相克する要求事項や選択の調整(トレードオフ)である。策定後のプロジェクト管理計画書はステークホルダの合意を得ることが重要であり、合意を得た計画は客観性と説得性を持ち、ステークホルダ全員の共通の認識となる。

3.1. プロジェクト管理計画の概念

 プロジェクト管理計画は、プロジェクト遂行中の全期間を通じて、必要に応じて繰り返し検討と修正が行われる。

 プロジェクトのライフサイクルの各フェーズは明確に分かれるわけではなく、図3に示す様にオーバラップが出現し、プロジェクトが進行しながら計画も詳細化されていく。特に大規模なプロジェクトになるとこの様な形態が必要となる。この様な形態をローリングウェーブ方式の計画(Rolling Wave Planning)という。次節以降に、ISBPによるプロジェクト管理計画の概念と立案プロセスを述べる。

3.2. プロジェクト計画の階層

 プロジェクト計画は必要不可欠なプロジェクト運営に関係する情報を一元化し、先に述べた様にステークホルダの合意を得ることが重要である。プロジェクト管理計画書は計画データと管理プロセスという2種類の内容で構成される。この関係を図4 に示す。

 これらのプロジェクトを運営するためのプロジェクト管理ルールはプロジェクトプロシージャズマニュアルとして標準化され、プロジェクトに関わるステークホルダに示し、プロジェクトのコントロールに寄与する。
1.計画データは、互いに関連を持つ動的な情報の集合であり、プロジェクトに対して、何を、誰が、いつ、どれだけ、を表す。

2.管理プロセスは、プロジェクトチームがどのようにプロジェクトを管理するかを定義する。
・外注管理   ・状況把握/報告アプローチ
・リスク管理  ・作業承認アプローチ
・要求管理   ・その他

3.3. プロジェクト計画サブセット

 プロジェクトが大規模になる場合は、全体のプロジェクト計画より更に詳細な計画を作業単位に作成する。これをサブセットのプロジェクト計画と称する。図5に示す様に主要な作業分野毎にプロジェクト管理計画書の詳細管理計画をサブセットとして策定する。主要な作業分野の例として、以下の作業がある。
・作業構成要素を表すWBS(Work Breakdown Structure)
・組織を表すOBS(Organization Breakdown Structure)
・責任分担を表すRAM(Responsibility Assignment Matrix)
・プロジェクトネットワークとスケジュール
・リソース/予算等

3.4. プロジェクト計画の立案プロセス

 プロジェクト計画を立案するプロセスは図6、ならびに以下の1.から9.に示す9ステップの作業からなる。計画立案作業は受注側と要求側のメンバが参加しプロジェクトマネジャが中心となり進めることが重要であり、立案の成果物はプロジェクト管理計画書である。本節の各項にて九つのステップの作業を解説する。

1.要求のベースライン化
2.プロジェクトアプローチの決定
3.技術的アプローチ
4.作業分析・組織構造の作成
 作業の詳細構造(WBS)、組織の詳細構造(OBS)、責任分担(RAM)、財務統制構造の作成
5.スケジュール、コスト見積の作成
 プロジェクトネットワーク、スケジュール、リソース要求、コスト見積の作成
6.WBS、RAM、財務構造の調整
7.リソースと予算の調整
8.プロジェクト管理ツールの設定
9.プロジェクトの状況把握と報告ルールの定義

3.4.1. 要求のベースライン化(ステップ1)

 プロジェクト計画立案の基となる合意要求を確定することがこのステップの作業であり、合意要求を文章化したベースラインと称する。これらの要求は役務範囲記述書、仕様書、契約上の要求成果物等、即ち契約上の要求、技術上の要求等で示されることが有り、プロジェクトマネジャがこの作業の中心となる。ベースライン決定のプロセスは以下の五つの重要なタスクからなる。プロセスの概念を図7に示す。

・全ての契約/提案ベースライン文書のレビューと理解
・要求事項の不正確、欠落、矛盾箇所の明確化(課題の明確化)
・契約ベースラインを完成させ最終決定するための実行計画の作成
 (責任分担と実施予定日、実施の進捗状況の追跡方法などが含まれていること)
・キーとなるプロジェクト・マイルストーンの期日(確定日)の作成
・最上位レベルの作業詳細構造(WBS)の作成

3.4.2. プロジェクトアプローチの決定(ステップ2)

 プロジェクトアプローチでは主な要員と主要作業のフローを定義する。作業フローはプロジェクト内の各組織が達成すべき項目作業の詳細を定義するための鍵となる。このステップでは作業の詳細構造(WBS)のデータを作成し、更にプロジェクトネットワークの構造を確立する。重要な点は、プロジェクト運営をどの様に行うかについてプロジェクト内部のコミュニケーションを充分にとることである。このステップの例を図8に示す。

3.4.3. 技術的アプローチ(ステップ3)

 技術的アプローチはステップ2 のプロジェクトアプローチの延長で、プロジェクトの各々の主要分野に対する作業フローまたは作業リストを作成する。特に新技術、開発ツールの選択、設計アプローチ、テストアプローチなどの技術的課題を表面化し、解決アプローチを検討し、作業フローまたは作業リストに反映することが重要である。このステップの例を図9 に示す。

3.4.4. 作業分析・組織構造の作成(ステップ4)

 このステップでは詳細なWBS、プロジェクト組織の構造、責任分担、財務統制方法を定義し、プロジェクトをどの様にコントロールするかの枠組みを作ることが重要である。WBS はプロジェクトで実行される作業を成果物指向で階層構造に詳細化したものであり、プロジェクトの全体を表すことから十分に時間をかけ、検討する必要がある。作業は次の手順で進められ、この情報を基にステップ5でプロジェクトネットワークとスケジュールが作られることになる。

1.詳細WBS作成
2.プロジェクト組織(OBS)の作成
3.責任分担(RAM)作成
4.財務統制構造の作成
図10に作業構造化と割り当ての概念を示す。

3.4.5. スケジュール、コスト見積の作成(ステップ5)

 プロジェクトにおけるタスク間の従属性とタスクの所用時間を基にプロジェクトネットワークを作成し、これにリソースの使用可能性を勘案してプロジェクトスケジュールを作成する。これらの情報が図11に示すプロジェクトコントロールやスケジュール進捗管理となる。

 コスト見積はプロジェクト全体を通して、トップダウンかボトムアップのいずれかの方法で行う。トップダウン方式の見積りは、ファンクションポイントや類似システムの類推などによって総見積をとり、それを構成要素に配分させる。基本はWBS に工数の比率を割り当てる。トップダウン方式の見積りは通常概算見積に適用される。ボトムアップ方式の見積りは詳細な見積りが要求される場合に適用され、通常WBS など構成要素の最下位から始まり、工数の見積りを各タスクまたは構成要素に割り当てる。これを積み上げて各レベルの合計が出され、最終的に総計になる。どちらの方式もWBSの構造に依存するため、正確な見積りには正確なWBSが不可欠である(図12)。

3.4.6. WBS、RAM、財務構造の調整(ステップ6)

 これまでに行った計画立案作業のチェックポイントである。プロジェクトネットワークとスケジュールの定義によって、WBS、OBS、RAM、財務統制を変更・調整しなければならない可能性のある多くの問題が表面化する。これらをレビューし問題を明らかにした上で調整を行い確定する。

3.4.7. リソースと予算の調整(ステップ7)

 最初に最上位の予算を決定し、次に詳細なリソースの割り当てを行い、最後にプロジェクト作業毎の予算を作り上げる。プロジェクトの作業毎の予算はプロジェクトのコストと収入を追跡し制御するために必要である。プロジェクトの予算は、プロジェクトマネジャのトップダウンによる配分と、必要なリソースによるボトムアップ見積との調整で決定される。プロジェクトマネジャと開発メンバの各リーダ及び管理者で最終値に到達するまで繰り返し調整する(図13)

3.4.8. プロジェクト管理ツールの設定(ステップ8)

 このステップにて、プロジェクト管理ツールに予算、リソース、スケジュール計画データを入力してプロジェクト計画を完成し、プロジェクトの実行状況の監視を開始する。プロジェクトコントロールのために、財務及び実行状況報告の作成にプロジェクト管理ツールを導入することは必須である。プロジェクト管理ツールをプロジェクトコントロールに生かすためには適切な計画と設定が不可欠である。

3.4.9. プロジェクトの状況把握と報告ルールの定義(ステップ9)

 プロジェクト状況に関する情報の収集とプロジェクト管理ツールから、プロジェクトデータの更新アプローチを明確にし、プロジェクト管理に使用する報告書の形式と内容を決定する。プロジェクトの首尾一貫した正確な状況を把握することが重要である。図14に示す手順で実施すれば、正確な情報がプロジェクトチームから得られ、プロジェクトの管理が容易になる。

■執筆者紹介(敬称略)
・田中修二
技報編集委員会 改修

※同記事は日本ユニシスの発行する「ユニシス技報」の転載記事である。
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