居酒屋の「リピーター獲得」につながるロボット活用……サービス業のIT利用最前線 | RBB TODAY

居酒屋の「リピーター獲得」につながるロボット活用……サービス業のIT利用最前線

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「くろきん神田本店」の「飲みニケーションロボット席」での「Sota(ソータ)」。テーブル上で来客の「飲み友だち」となる
  • 「くろきん神田本店」の「飲みニケーションロボット席」での「Sota(ソータ)」。テーブル上で来客の「飲み友だち」となる
  • 来客が専用アプリを操作することで、さまざまな言葉をSotaに発声させることが可能。「へー」「グラス空いてますよ」「社会って厳しいですよねぇ」などの定型文が登録されており、タップするだけで、会話の途中にSotaが“合いの手”を入れて盛り上げてくれる。30字までなら、自由に入力した文章を発声させることもできる
  • 顔認識機能を持つことがロボットの特長。ユーザー側が能動的に操作し、Sotaに登録するという流れ。飲食店にとって大きな課題である「顧客の顔を覚えること」を解決するための有効な方法といえるだろう
  • 株式会社ゲイト 広報担当 尾方里優氏
【記事のポイント】
▼飲食店において重要である「リピーター獲得」を解決するうえで、ロボットの顔認証機能は有効
▼ロボットに多くの機能をもたせるのではなく、優先順位を絞ることが大切
▼来客の目に見えるテクノロジーであるロボットを店のコンテンツのひとつとする


 インバウンド需要の拡大、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった要因から、「おもてなし」がキーワードとして注目されている。さらに、IT/IoTを活用した「おもてなし2.0」とでもいうべきサービスや製品が、飲食業・旅行業・物販業の領域で、多数登場しつつある。本記事はそうした最新事例を紹介し、自社での導入の参考とする内容だ。

 今回は、東京都内を中心に「居酒屋くろきん」「せかいち」「かざくら」など飲食チェーン4ブランド・13店舗を運営する株式会社ゲイトに焦点を当てる。同社はIT/IoT活用に積極的で、全社員にiPhoneを支給しているほか、業務システム、情報共有・社内マニュアル、店舗のセキュリティなど他方面でデジタル化に注力している。

 そうしたなか、「くろきん神田本店」では、「飲みニケーションロボット席」を開設。スマートフォンと連動するロボットを客席に配置し、客がコントローラアプリを使ってロボットに発話させたり、自分の顔を覚えさせたりする接客サービスを開始した。今回、同社広報担当の尾方里優氏から話を聞いた。

■接客・顔認証する卓上ロボットが提供する“ほっこり感”

「くろきん神田本店」の「飲みニケーションロボット席」は、現在1テーブルのみだが、オプション料金無料ということもあり、予約状況は上々だという。ヴイストン株式会社のロボット「Sota(ソータ)」に株式会社ヘッドウォータースのクラウドロボティクスサービス「SynApps(シナップス)」を実装。これにより、テーブル上のロボットに、さまざまな機能を持たせ「飲み友だちにする」(尾方氏)のだという。ヴイストンはロボット開発大手、ヘッドウォータースは日本国内でも有数のロボットアプリ開発・導入実績をもつ企業だ。

「飲みニケーションロボット席」では、予約席数に応じたテーブルにSotaを設置。あわせて来店した客にスマートフォンを貸し出し、専用アプリ「SynApps Mobile」を操作することで、さまざまな言葉をSotaに発声させることが可能となる。「へー」「グラス空いてますよ」「社会って厳しいですよねぇ」「わかりますよーボクもそう思いますよー」などの定型文が登録されており、タップするだけで、会話の途中にSotaが“合いの手”を入れて盛り上げてくれるイメージだ。また30字までなら、自由に入力した文章を発声させることもできる。たとえば、Sotaに内輪ネタを話させることも可能だ。音声ボリュームは、後ろについたボタンから調整できる。

 さらにSotaは、顔認識機能にも対応しており、席を見回し、登録済みの知っている顔があれば、挨拶したりその人の名前を呼んだりしてくれる。その場でカメラを使い登録することも可能。こうして「常連さん」を認識していくことで、将来的には顧客管理システムと連動させ、「来店頻度による常連優待」「系列店共通の顔認識」「音声認識や自然言語によるFAQ」なども実現したい考えだ。

 ただし現在、Sotaには、自動で会話したり注文を受け付けたりといった機能は用意されていない。「居酒屋でロボットが接客」というキーワードからは、こういったサービスを連想しがちだが、「あえてそういう、大規模かつ高度な機能は採用しなかった」(尾方氏)という。Sotaはスマホからの操作で発声はするが、会話を聞いて勝手に割って入るといったことはしない。これは「飲みニケーションロボット席」が、お客様により喜んでいただけるサービス提供の仕組みづくりを目指したものであり、「不得意な分野には踏み込まない」「お客様が喜ぶかどうかわからないものには投資しない」という判断からだった。


「居酒屋にロボットを置くというアイデアについて約6ヶ月間、企画会議からリリースに至るまで協議を重ねました。話しかけて言語認識をし会話する、といった機能も技術的には可能ですが、騒がしく複数人が喋る居酒屋の席で、そういった機能をムリに持たせることに疑問がありました。また突然喋りだして“場の雰囲気”を壊すことがあるとしたら、それは居酒屋の会話にそぐわないと思いました」(尾方氏)というのがその理由だ。

「なるべくシンプルにして、お客様の反応を見ながら、成長させていくという考えで、あえて自分から喋らせる機能はなくしました」(尾方氏)との判断だった。そうした判断がむしろ、出しゃばらない・空気を壊さない、Sotaの“ほっこり感”(とそれを支持するリピーター客)を生み出したようだ。

■「注文はできないロボット端末」を飲食店が導入する狙い

「ロボットに注文できる機能を持たせる、というのはロボットを導入する際によくある話だそうです。しかし、もともと『ロボットを導入したい』と思ったきっかけが、そこではなかったのです」として、きっかけとなるポイントを尾方氏はあげた。

 ゲイト代表取締役CEOの五月女圭一氏とヘッドウォータース代表取締役の篠田庸介氏は、旧知の間柄だった。ヘッドウォータースは、「ロボットの目新しさによる集客・顔認識機能によるリピーター獲得」でロボット普及に取り組んでおり、一方のゲイトは、顔認識機能を有効活用した顧客との関係強化施策を模索していた。この部分での方向性が一致したことが大きかった。それほど「顧客の顔を覚えること」というのは、飲食店舗にとって大きな課題だった。

「ただ発声を行うロボット」というだけでは玩具的な位置づけで終わってしまうが、サービス向上に向け、顔認証の技術を取り入れるための装置というのが、Sota導入の本質的な狙いなのだ。

 監視カメラなどによる自動顔認証は、個人情報保護の観点から難しいしオペレーションも複雑になる。また店員がカメラを向けて、撮影をお願いしても、抵抗を感じる客がほとんどのはずだ。しかし、ロボットと向かい合って、顔写真をとってもらい、「Sotaと仲良くなる」「Sotaに覚えてもらう」という流れなら、このハードルはずいぶんと低くなる。こうしてうまく、「顧客の顔を覚えること=顔認証」を推進するのが、Sota導入の狙いだといえる。顔認証も自動で行われるのではなく、ユーザー側が能動的に操作し、Sotaに登録する必要がある。これも個人情報などに配慮しつつ、よりシンプルな方向性を摸索した結果として、あえて今の形に落ち着いた。

「名前と顔というデータを、自然にとれるのはSotaだけ。私たちスタッフにできないことを、自然にできるようになってビックリしました」(尾方氏)とのこと。現在はデータとして蓄積している段階で、これをどうスタッフに認識させサービスに結び付けていくかは、今後の“腕の見せ所”だという。現在「くろきん神田本店」は店長を含め5~6名。そういった中での情報共有を目指している。

 来客からの反応も上々だ。「ロボット好きのお客様が、店にロボットがあることに感動してくれる」「常設でロボットがいるのは、やはり珍しい」(尾方氏)とのことで、従来の客層とは異なる客層が来店するようになった。神田駅前は老舗の居酒屋も多く、かなりの激戦区。一方で秋葉原からも近く、ここ数年とくに客層も飲食店も、変化が激しい街だ。そういったなかで、「飲みニケーションロボット席」という目論見は、集客に成功した事例だろう。“Sota指名”で40人規模の宴会の予約が入ったこともあるとのこと。「2時間ロボットと一緒に飲めるのは、ここだけですよ(笑)」(尾方氏)。


■ロボットは「居酒屋にとってのコンテンツ」の一つ

 Sotaを導入したことで予約率は「10%以上向上した」という。しかし実際には、2015年12月の約350人の予約に対し、2016年12月の予約は約590人だったとのことで、10%というのは「かなり抑えめ」(尾方氏)の見積りだ。いろんな要因も考えられるが、実際に1日あたり1、2件の「飲みニケーションロボット席」予約が必ず入っていたので、メインはやはりSotaの影響と見られる。今年に入ってからは、リピーター客も出現しつつある。

「こうしてサービスとして認識されているのは、お客様への喜びを作るポイントになりうる」とする一方で「BtoCだと、まったく知らないお客様が来て、どうしても相手を喜ばせる方法や感情が足りない時がある。もっと顔が見えて、お客様を知ることができればいいなと考えている」(尾方氏)とのこと。ロボットを導入すること自体が、なにかを解決するわけではない。なにをしたいかという目的があり、それが人間だけでは難しい場合に、ロボット、あるいはIoT/ITの導入というのが、堅実な考え方だろう。キープボトルや顧客カードなどのように、“さらにお客様を知るための手段”として、「顔認証=Sota=飲みニケーションロボット席」があるという戦略なのだ。

「データとしての分析ではなく、一人ひとりを見ることが大切だと思います。私たちの考え方としては、年齢・性別・業種が同じでも、お客様はみんな違う。それはデータとして“分析”はできないと思ってます」としつつ「この子(Sota)がいることで、確実にお客様との会話の幅が広がる。人間が不得意なところもカバーしてくれる。それはまぎれもないメリットです」とIoT/ITの意義を、尾方氏は説明してくれた。今後多店舗で展開するのではなく、「くろきん神田本店」での充実や多角化を目指すという。ロボットの種類を増やし、「いろんなロボットが各テーブルにいる。ロボットと飲める居酒屋というのも面白いかな」(尾方氏)というのも、そうした考えからだろう。

 そして最後に「お客様に本当に喜んでもらえる“コンテンツ”として、ロボット導入も見てもらいたい。そこに意味がある」(尾方氏)と、個々人を把握しそれぞれを喜ばせるスタイルを摸索していることを伺わせた。そして、「おもてなしへのIT活用」について、「お客様を見ること」と断言。「あれもできるこれもできる、という技術面が優先されるが、お客様を喜ばせることが第一。“本当にそれが嬉しいですか?”ということを常に問い続けています」と、お客様第一の姿勢を提示してくれた。

サービス業のIT利用最前線!7 “相席”したロボットの「居酒屋のおもてなし」

《冨岡晶/HANJO HANJO編集部》

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