東京再開発に見る中小のビジネス機運 | RBB TODAY

東京再開発に見る中小のビジネス機運

ビジネス マーケット

三井住友トラスト基礎研究所の室剛朗研究員
  • 三井住友トラスト基礎研究所の室剛朗研究員
  • 室さんが特に注目するのが東京駅と品川駅。オフィス需要が一層進むとともに、後者については周辺地域での職住近接を目的とした、住宅街や生活利便施設の需要も見込まれる
  • 東京駅の八重洲中央口前の三叉路。写真左奥の八重洲二丁目も再開発予定地域の一つ
  • 東京都の「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン2014」。駅周辺での大型計画が相次いでいる
 ブラジル・リオから五輪旗が持ち帰られ、20年の五輪開催がぐっとリアリティを帯びてきた東京。オリンピックに向けて現在、あちこちで大型の駅前開発が進んでいる。ここ最近でいうと、16年8月に「浜松町駅周辺地区土地区画整理事業」の手続きが完了したが、これによって世界貿易センタービルの建て替えを含む再開発が、いよいよ本格着工することになった。このような関連ニュースが、ほぼ毎月のように東京のどこかから発信されている。

 駅前に新たなビルが建てば、商業施設やオフィスが増えれば、それに伴う消費の拡大、新たな人や物の流れが見込まれる。小売や飲食といったサービス業を営む企業にとって、出店立地を見定める上で重要な判断の指針となるだろう。

 16年下半期を前に、いま改めて、注目すべきエリアがどこで、そこが今後どのように活性化し、ビジネスチャンスが見込まれるのか。都心部の不動産開発や関連する社会動向に詳しい三井住友トラスト基礎研究所の室剛朗さんに、東京の駅前開発の現状と今後を聞いた。

■東京の重心は「東京―品川ライン」偏重に

――13年の東京五輪開催決定以来、あちこちで駅前開発のニュースを耳にするようになりました。改めて現在、駅前開発が進む地域を確認させてください。

室 そうですね。実情は、決定以来というよりも、アベノミクスによる景気回復・低金利環境を背景として、建設意欲が高まりやすい素地があったところに、オリンピック・パラリンピックの東京開催が決定したことで加速した、ということだと思います。

 現在、駅前の再開発が進むエリアは首都圏でも相当数あります。主だったものを挙げても10近い地域で計画が進んでいます。

 中でも、一番注目すべきなのは東京駅前の八重洲、JR山手線の品川駅から田町駅間、渋谷駅の3地域。次いで、新橋の駅前の開発に注目しています。

――なるほど。特に注目されているのは、どのエリアになりますか。

室 東京駅から品川駅にかけての一帯です。かつて、東京のオフィスマーケットでは、東京と新宿など副都心で機能を分けた時代がありました。それが00年以降、丸の内ビルディングに代表される東京駅前の開発が進み、ビジネスの中心が東京駅にシフトしました。そして今後、東京駅と品川駅の間の開発が進むことで、さらにプレゼンスが向上していくと考えられます。新橋駅前の開発も予定されており、東京―品川ラインの強化が想定されます。

 一方、70年代から80年代に建てられた新宿の高層ビル群は、今後どう建て替えが進んでいくかが焦点となります。品川にリニア中央新幹線の駅が建設され、JR山手線の新駅もできれば、業務の拠点性がどんどん東に移っていくことも考えられます。よって注目すべきは東側のエリアの再開発だと見ています。

――八重洲、新橋、新宿、品川など、それぞれの駅は再開発後、どう棲み分けると思われますか?

室 そうですね。まず、東京駅周辺はオフィスマーケットでいえば「横綱」なので、品川にリニア中央新幹線が開通したとしても、その機能が取って変わられることはさすがにないと思います。八重洲の再開発の目玉の一つとして、地下に巨大なバスターミナルができることが挙げられます。羽田からバスが乗り入れる拠点ができることで、インバウンドにおける拠点性も高まり、より中心性の高い街になると思います。


――なるほど。ただ、そうはいっても品川の重要性も増す、ということですね。

室 はい。いまの東京と品川の力関係からは、かなり変わることが予想されます。東京の機能の一部を代替し、伍していくような存在に品川はなっていくのではと見ています。

 広域交通の起点駅が建設されるというのはものすごく大きいです。品川に新幹線が停まるようになって、港南口が開発されて、いまの品川があります。これからの品川駅の拠点性の高まりには、目を見張るものがあると想定しています。

 実際、品川駅北口の開発は、公表発表ベースで、オフィスを中心とした複合施設で5棟、高層マンション3棟があり、10万人ぐらいのワーカーが生まれるんじゃないかといわれています。業務機能だけでなく、商業施設なども充実してくるでしょう。

 また、今の段階でもすでに港南口に高層マンションは複数建っていますし、共働き世帯の増加による職住近接のトレンドの中で、生活利便施設が一層求められていくことが想定されます。品川駅隣のJR山手線の新駅に関しては、まだ具体的な計画は分かりませんが、品川駅北口の再開発と一体となって、現在とは一変した姿を見せてくれるでしょう。

――そうなると、受け皿として、品川より南側の地域も住宅地として人気が高まる可能性がありますでしょうか。

室 そうですね。品川へのダイレクトアクセスを意識する人達も増えてくるでしょうから、今後はたとえば、京急蒲田から品川までのエリアも住宅地としての人気が高まってくるかもしれません。東京へのダイレクトアクセスを意識して、城東エリアが住宅地として人気が高まったように、品川に直結する沿線上で動きが出てくるでしょう。

――八重洲、品川と、駅前の再開発による今後の可能性をうかがいました。では、間の新橋はどう見ていますか?

室 新橋はこれから高層ビル2棟が建設される予定です。新橋駅西側のSL広場前、ニュー新橋ビル、港区の生涯学習センターなどが予定地域です。これまでの雑多な感じから一変し、オフィス街の色彩が強まるでしょう。詳細な計画はまだ分かりませんが、もともと新橋が有するポテンシャルと銀座との近接性を考えると、商業集積もそれなりに進んでいく可能性もあります。

■西側の注目・駅前開発地域は渋谷

――東京駅から品川駅にかけて数か所で再開発が進むことで、東京の重心がさらに東に移るというお話をうかがいました。では西側での注目地域、渋谷の再開発についても詳しく教えてください。

室 渋谷はいまもオフィスの市況はいいですね。空室率が低いです。

――渋谷というと、若者や買い物というイメージが強く、オフィスのイメージがあまりないのですが。

室 IT企業の集積が多いです。成長産業であるIT業界に好まれていて、サイバーエージェントやGMO、LINEなど多くの企業が入居しています。その渋谷で大規模再開発が行われています。昔の東急プラザ渋谷周辺の再開発は19~20年には開業する予定になっていて、1階部分には空港リムジンバスの発着場を含むバスターミナルが作られ、観光支援施設も整備されるそうです。段階的に進む渋谷駅街区の再開発も、27年には開業が予定されています。当然、商業施設の集積も高まりますが、相応のオフィスが供給されるため、テナント獲得競争がどうなっていくのか注目しています。


――オフィスビルをIT企業が続々と埋めるというイメージですか?

室 そこには少し疑義があります。IT企業は確かに成長産業ですが、今後どの程度成長し、企業が増加していくかは分かりません。

 もちろん、それだけ大きな再開発が渋谷で行われているということでもありますし、IT企業が集まる地域だからこそ、関連企業が集まってくることも考えられるので、やはり、期待感はあります。

 IT企業の若手社員は比較的、渋谷から近い距離に住むケースが多いと聞いたことがあります。ワーカーの増加に伴い、職住近接を志向して渋谷近隣に住まう人も増加するかもしれませんね。

 それ以外の観点では、今後増えることが予想されるフリーランスの方々向けのシェアオフィスなど、新しい形態のオフィスやフューチャーセンターのようなものもできていくのでは、とも見ています。新しい流れを生み出す装置として、渋谷に期待するところは大きいです。

■駅前開発エリアの背後地にも注目を

――ほかにも注目している動きはありますか?

室 東京駅の背後のエリアの動きですね。00年代半ばに、日本橋や水天宮などの古いオフィスが住宅に建て変わる動きが強まりました。八重洲だけでなく日本橋から京橋、銀座にかけて開発が進められているので、東京駅周辺で働く共働き家庭の職住近接ニーズを受けて、マンションや生活利便施設の新設の動きが、一帯でさらに進むと見ています。

――逆に、懸念する動きはありますか?

室 将来における就業者数の減少の問題です。東京においても20年代半ばないし30年くらいからは就業者の減少が予想されています。不動産需要の総量が減少していく可能性がある時期に、大量のオフィス床が供給されていくことには、一定の注意が必要でしょう。

 いま東京のオフィス空室率は低い水準にあります。これは、新規需要が旺盛というのもありますが、建て替えによる影響や、自社ビルから賃貸ビルに移るテナントが増えた影響が大きいと考えています。

 20年代半ば以降の東京の不動産市場を支えるためにも、国や東京都には本格的に外資系企業の東京進出を促す動きを強めてほしいと願っています。そうしてアジアにおける拠点性を高めないと東京の将来は厳しいものになります。

 今回話にあがった八重洲、品川や渋谷でも外資系企業の取り込みが大きなテーマとなっていくでしょう。外資系のワーカーやその家族が増加することで、これまで東京に十分でなかったサービスが求められていくと思います。東京の「強み」を伸ばし、「弱み」を克服する動きに期待したいと思います。

<Profile>
室剛朗(むろたけお)さん
大学在学中からITベンチャー企業に入社し、主に経営企画・投資家説明等に従事。三井住友トラスト基礎研究所入社後、市場分析、予測業務を中心に調査業務に従事したのち、私募ファンドのデューデリジェンス業務、リスク管理、年金基金の調査を担当。また、海外市場調査部(兼務)にて、海外都市や大規模年金の不動産投資状況に関する調査を担当した。11年より投資調査第2部にて、国内の不動産投資市場、オフィス・住宅市場の調査・研究を担当している。最近では、After2020に想定される不動産需要の質的変化に注目し、ワークスタイル・ライフスタイルについての研究に力を入れている。早稲田大学卒業。明海大学大学院不動産学研究科(専攻:不動産金融工学)修了。

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《塩月由香/HANJO HANJO編集部》

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