活動歴20年の専門家に聞く“防犯ボランティアの理想形” | RBB TODAY
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活動歴20年の専門家に聞く“防犯ボランティアの理想形”

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安全インストラクターの武田信彦氏。「一般市民ができる防犯」に関する講演、執筆を中心に活動している。20日には近著『もしもテロにあったら、自分で自分の命を守る民間防衛マニュアル』(ウェッジ)の発売が予定されている(撮影:防犯システム取材班)
  • 安全インストラクターの武田信彦氏。「一般市民ができる防犯」に関する講演、執筆を中心に活動している。20日には近著『もしもテロにあったら、自分で自分の命を守る民間防衛マニュアル』(ウェッジ)の発売が予定されている(撮影:防犯システム取材班)
  • 「うさぎママのパトロール教室」の活動の1つである自転車用パトロールプレートデザインの作成&提供。プレート制作の場合は、1枚当たり500円(送料別&税別)となっており、メールでのデザインデータのみの提供であれば無料だ。かわいいデザインを採用することで、見守り的なやわらかなで明るいイメージを打ち出すことを目的としている(撮影:防犯システム取材班)
  • 武田氏が防犯ボランティアとしての活動を続けていく上で、重要視するのが、「見守り」的な視点を持つことと、地域の警察、自治体、住民がそれぞれ役割分担し、連携していく「協働」だ(撮影:防犯システム取材班)
 7月末に警察庁が発表した犯罪統計及び犯罪情勢を見ると、刑法犯認知件数は、平成27年度も1,098,969件と戦後最小の数字を記録した。

 物騒で悲しい事件の報道を見聞きするたびに、体感的な治安はむしろ悪くなっているようなイメージを持つかもしれないが、数字の上では戦後最も治安が安定しているのが、現在なのだ。

 そうした近年の犯罪数の減少に貢献しているといわれているのが、防犯パトロールなどを行っている民間のボランティアの活動だ。7月末に警察庁が発表した「平成26、27年の犯罪情勢」を見ると、全国で活動する防犯ボランティアの団体数は、平成27年度が48,060団体で、構成員数は275万9千人。構成員数こそ前年比で減少しているものの、団体数はここ13年で最大の数字となる。

 しかし、課題もある。それは防犯ボランティアに従事する人たちの高齢化であり、今後の活動を担う若手ボランティアの確保と育成だ。

 今回は、分かりそうで実はよく分からない防犯ボランティアについて、防犯ボランティアの創成期から20年近く活動を続けてきた安全インストラクターの肩書きを持つ武田信彦氏に、豊富な経験をとおして見える防犯ボランティアの現状や展開について話を聞いてきた。

●スタンスはあくまでも“見守り”

 武田氏は、現在、「一般市民による防犯」を広く伝えるためのプロジェクト「うさぎママのパトロール教室」の主宰を務め、各世代にむけての講演やセミナー、ワークショップを全国各地で行う一方、執筆やメディア出演を行っている。防犯ボランティアに関わったきっかけは、大学在学中の1997年に参加した国際的な犯罪防止NPOへの参加で、渋谷や池袋で防犯パトロールを行っていた時まで遡る。そこから活動を本格化させ、2006年に独立しフリーの講師となり、2008年に「うさぎママのパトロール教室」を開設した。

 そんな武田氏が長年の活動のなかで軸にしてきたのは、“一般市民として防犯活動の一線を越えない”ということ。

 「防犯」というと、一般的にはどうしても“監視”や警察の活動の延長線上にあるものと、とらえられがち。パトロールを行うボランティアたちも、「防犯」だからと必要以上に身構えてしまい、トラブルに遭うことや、世間から思わぬ誤解を受けることもあるという。行き過ぎた防犯活動は、予期せぬかたちで被害者になる、加害者となるケースもあり得ると、武田氏は危惧する。

 そうならないために武田氏が提唱しているのが、“見守り”というスタンスに徹すること。例えば、コンビニなどで若者たちがたむろしていたとしても、頭ごなしに「注意」や「叱る」といった対応ではなく、あくまでも「あいさつ」や「会話」にとどめるといった見守り的な意識を持った対応が望ましいという。

 監視的な視点で見れば、コンビニなどにたむろする若者や子どもたちは何か良からぬことをしそうな「注意すべき対象」となるが、見守り的な視点で接すれば、彼らもまた犯罪に巻き込まれかねない「守るべき対象」となる。

 実際、たむろなどしている子どもたちは、居場所となる環境がないことも多く、注意する、叱ることは、そんな彼らをさらに追い詰めるだけだと武田氏はいう。であれば、ゆるやかなコミュニケーションをとおして、顔見知りとなり、自分を心配してくれる大人たちの存在を知らせることが重要なのだ。

 そうしたスタンスに対して、なかには「手ぬるい」「もっと厳しく」という意見を受けることもあると武田氏はいうが、“防犯ボランティアは、あくまでも一般市民としてできること、そして、自分のできる範囲内で行うべき”と理解して、そのスタンスを守るべきだと語る。

●困ったら警察&消防へ通報

 しかし、防犯パトロールを継続的に行っていれば、時にはケンカや迷惑行為など、さまざまなトラブルに遭遇することも想定される。そうした時にはどうすべきなのか?

 武田氏は、そこでも「見守り」というスタンスから逸脱する必要はないという。例えばケンカなら、110番通報や所轄の警察署に連絡をする、事故などでケガ人がいれば救急車などを呼ぶことが、防犯ボランティアができること。餅は餅屋ではないが、対処できる機関にゆだねた方が確実だからだ。また、不審な動きをしている人がいる、何か不審な物が置いてある時なども、直接対応せずに警察へ連絡するのが望ましいという。

 こうした警察などへの通報や連絡は、武田氏の言葉を借りれば“防犯の協働”となる。地域における防犯活動は、ボランティア、警察、自治体、地域住民と、それぞれの立場の人たちの理解と協力があってこそ機能する。防犯ボランティアとして出来ること(出来ないこと)をしっかり確認し、その範囲を超えた場合は、本来対応すべき機関に委ねるというのが“防犯の協働”の基本理念となる。

●防犯ボランティアにお墨付きはいらない

 しかし、武田氏が安全インストラクターとして全国各地の防犯ボランティア研修会で登壇していると、参加者の中には、「警察や役所などからのお墨付きをもらいたい」、「身を守るために警棒などを持ちたい」という人たちが少数ながらいるという。

 まず、お墨付きに関しては、防犯活動への信頼が増すなどのメリットもあるが、一方、活動に対しての義務感が強まり、「やらされている」「やめたくてもやめられない」といった不満が生まれやすくなる。活動に対する“責任”は大事だが、あくまでも“一般市民としての自発的な活動”というスタンスを守ることこそが、逆に活動を長続きさせるコツだという。

 続いて警棒などの護身具に関しては、一般市民の一線を超えかねないという点を危惧する。防犯ボランティアは、犯罪と戦う、取り締まる活動ではないため、過剰な護身具の携帯は不必要だ。また、警棒やスタンガン、催涙スプレーなどは、使い方によっては加害者になりかねない危険性も。また、どういう状況下で使うべきなのかというのは、非常に判断が難しい。常に予防的な意識をもつこと、そして見守りのスタンスであれば、それらの道具は使わずに済むはずだ。

●数字を求めない活動にこそ意義がある

 「一般市民による防犯」に長年携わってきた武田氏だが、現在の日本の刑法犯の認知件数の減少については、「防犯ボランティアのおかげ」だとは言わない。もちろん効果がないといっているのではなく、因果関係を明確にできない中では、もう少し慎重に見るべきだと言う。

 そして、たくさんの人の善意と自主性で成り立つ防犯ボランティアは、本来、どれだけ犯罪が減ったのか、防犯ボランティア団体および参加人数がどれだけ増えたのかといった“数字”や“結果”を気にする必要は、参加する側にはないと語る。そもそも「予防」を数値化すること自体がとても難しいこと。数字の増減よりも、「犯罪被害が生まれない環境づくり」を求め続けることがより重要な視点なのだ。

 武田氏自身、防犯ボランティアとして活動する中での喜びややりがいは、地域の人たちから何気なくいわれる「ありがとう」の声だといっており、それこそが活動の原動力だという。

 冒頭でも記したが、防犯ボランティア団体は現在のところ増加傾向にあり、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けては、草の根的な防犯活動及びおもてなしの担い手として大きな期待が寄せられている。

 現状では、一度始めるとなかなかやめられないイメージがある防犯ボランティアだが、本来は、もっと気軽なもので、地域特性やアイディアを活かし、自分にできる範囲での活動であるべきなので、そうした考えが広まることが、安全・安心の広がりにもつながるのではないだろうか。

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《防犯システム取材班/小菅篤》
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