アメリカ人のための日本酒はアメリカで作るという哲学 | RBB TODAY

アメリカ人のための日本酒はアメリカで作るという哲学

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欧米への輸出用の日本酒では、ラベルにねぶた祭りのモチーフを採用
  • 欧米への輸出用の日本酒では、ラベルにねぶた祭りのモチーフを採用
  • オレゴン州にある酒造メーカー「SakeOne」の日本酒工場
  • 桃川株式会社 営業管理部長 村井信也氏
【記事のポイント】
▼日本食ブーム→食中酒としての魅力をアピール
▼カクテルを好むアメリカ人向けに甘くするなどローカライズ
▼試飲会での料理とのマッチングを意識する


■アメリカ人によるアメリカ人のためのSake

 アメリカのオレゴン州に日本酒の製造会社がある。設立したのは日本の老舗酒造メーカー桃川株式会社。ここではアメリカ人がアメリカ人のために、自ら日本酒を醸す。

 桃川株式会社 営業管理部長の村井信也氏によると、同社がアメリカへの輸出に着手したのは85年のこと。当時アメリカで飲まれていた日本酒というのはアルコールが飛んでしまうくらいの熱燗が普通だった。

「こんなものは本来の日本酒ではない。冷酒で十分美味しい本当の日本酒を知ってもらいたい」。そんな想いを込めて桃川が輸出した日本酒は、アメリカでも高い人気を集める。しかし、現在のような人気を集めるに至った理由は、やはり海外における和食人気が影響しているようだ。

 13年に“日本の伝統的な食文化”がユネスコ無形文化遺産に登録されると、世界中で和食が注目を浴びた。和食に一番合う酒は日本酒。それも、ワインやビールと同じ醸造酒であるため、食中酒として食事と共に楽しめる。今では長寿の国・日本の和食を食べ、日本酒を楽しむ人は「健康に気を使っていてクール!」と思われている。

■アメリカに日本酒の酒造会社「SakeOne」設立

 92年に桃川はアメリカ オレゴン州で現地法人「MOMOKAWA SAKE,LTD.」を設立。当初はアメリカ向けの輸出を本格化するためのものだったが、96年には工場建設に着手。アメリカ本土での日本酒製造に乗り出す。

 これについて、桃川にはアメリカでも同等レベルの日本酒を作れるという確信があった。その理由はオレゴン州という場所にあると村井氏は話す。


「オレゴン州の水質は、桃川の工場がある青森県と非常に近かったんです。桃川の酒造りは軟水系の仕込み水を使いますが、それがオレゴン州にもあり、気候も似てました。ここなら桃川の日本酒が作れると思ったのです」

 翌年には米国工場は「SakeOne Corporation」に。杜氏は青森の桃川で修行した、アメリカ人のグレッグ氏に任される。彼は発酵学の大学院まで出ているこの分野の専門家。普通ならワイン業界へ行くところだが、日本酒に魅せられたグレッグ氏は日本酒造りに専念した。アメリカ人によるアメリカ人のための日本酒。これこそ桃川が海外でやりたかったことだったという。

■アメリカ人の好みに合わせるーー味もボトルも

 日本酒を輸出する上ではローカライズも必要だ。アメリカはカクテル文化が進んでいるため、「SakeOne」ではフルーツ風味の日本酒を醸している。ただ、その一方で桃川の日本における酒蔵では、アメリカの輸出向けに、特に仕込みを変えてはいない。アメリカ人は甘口なら甘口、辛口なら辛口とハッキリとした特徴を好むため、それにマッチする日本酒の輸出に専念している。

 ただ、販売を担当しているSakeOneからの要望で、約7年前にデザインを変更した。以来、ビンは黒に統一しているが、これは「ワインを意識してのことかもしれない」と村井氏は語る。さらに、ラベルは日本で売られている商品から、「ねぶたシリーズ」の絵柄が選ばれた。

 また、桃川ではSakeOneの協力を得て、アメリカで日本酒の試飲会などを開催している。その中でも特に力を入れてアピールしているのが、味わいを何倍にも広げる料理とのマッチングだ。醸造酒である日本酒ならではの魅力。それを世界に広め、ワインにとって変わるのが村井氏の夢となっている。

 現在、SakeOneは桃川から独立し別会社となっている。とはいえ、桃川が日本酒を輸出する際には、販売拠点はSakeOneが担う。その中で、アメリカ人にとって桃川の日本酒は輸入されてくる高価で上等な酒、SakeOneの日本酒は現地で作っている低価格の酒ということで、住みわけができているようだ。

 日本酒を現地で生産すれば、関税も送料もかからないので価格は下がるだろう。SakeOneによって日本酒の知名度を広げ、その上で国内の日本酒を本格志向として売り込む。これもまた、日本酒における一つの海外戦略と言えそうだ。

~Sakeの海外戦略:6~アメリカ生産の日本酒が市場を作る!

《板谷智/HANJO HANJO編集部》

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