【木暮祐一のモバイルウォッチ】第93回 東日本大震災から5年、通信ネットワークの災害対策は進んでいるのか? | RBB TODAY
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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第93回 東日本大震災から5年、通信ネットワークの災害対策は進んでいるのか?

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東日本大震災から5年を迎えた宮城県仙台市(2016年3月11日) (C)Getty Images
  • 東日本大震災から5年を迎えた宮城県仙台市(2016年3月11日) (C)Getty Images
  • 「まもるゾウ・防災」の機能選択画面(名古屋大学・廣井研究室Webサイトより)
  • 「まもるゾウ・防災」の避難所を探す画面(名古屋大学・廣井研究室Webサイトより)
  • NTTドコモの災害対策基地局
  • 災害時緊急捜索システムの事例。携帯電話を捜索すれば行方不明者がいち早く救出もできるはず。(先導的研究開発委員会「10回 クライシスに強い社会・生活空間の創成」会議資料より
  • 木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有
 東日本大震災から5年を迎えた。改めてこの大災害で犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された多くの方々に心よりお見舞いを申し上げたい。

 被災地で津波に流された方々の捜索に当たった方から聞いた生々しい話がある。手が「あるもの」を握る形でお亡くなりになられているご遺体がとても多かったという。その「あるもの」とは……、ご想像いただけるとおり、「携帯電話」である。助けを求めるために、最後まで何度も発信を試みたのであろう。いつでも持ち歩いて利用されている携帯電話は、万が一の時には命綱にもなる。しかし、あの日は残念なことに役に立たなかったのだろう。とてもやるせない気持ちだ。

■モバイル学会シンポジウムでは災害関連テーマが激増

 3月10日、11日の2日間、茨城県つくば市の産業技術総合研究所つくばセンターにて、筆者が副会長を務めるモバイル学会主催のシンポジウム「モバイル’16」が開催され、モバイルをめぐるさまざまな研究発表が行われた。じつは東日本大震災が発災した5年前の3月10日、11日にも、同学会がシンポジウム「モバイル’11」を開催していた。その時の開催場所は筑波大学だった。ちょうど筆者がセッションの座長を務めている最中に、震度6弱の強い揺れに見舞われることになった。つくば市ではその後停電し、シンポジウムの催行も数演題を残したところで中止することになった。震災から5年を経て、また同じ日程で、しかも再びつくば市にてこのシンポジウムが催行されることとなった。

 震災翌年から、このモバイル学会において発表・公表される研究演題に、震災や災害対策に関わるものが急増している。携帯電話やスマートフォンを万が一の災害時に有効に活用したいと誰もが考えているということだ。そして社会からもその有効活用への期待は大きい。

 今回開催された「モバイル’16」で発表された話題からいくつか災害対策関連の演題をご紹介しよう。まず、名古屋大学減災連携研究センター准教授の廣井悠氏は、AXSEED、ウェルシステム、MCPC認定SMC防災ネットワーク研究会との共同プロジェクト「スマート防災プロジェクト」で開発した安否確認・避難誘導アプリ「まもるゾウ・防災」の紹介を行った。

 大都市において大災害が発生した場合、通信混雑により地震直後から周囲の被害や家族安否、移動先の情報などが受け取れない状況になり、また各地で大渋滞や混雑現象が発生し、これに伴って迅速な避難や消火・救急・救助活動が大幅に阻害されるなど、大都市特有の課題が発生する。

 このような都市災害の特殊性に注目したうえで、災害時の個人の情報収集や避難行動、滞留行動の助けとなる支援システムとして、この「まもるゾウ・防災」アプリの提供を行っている。位置情報付き安否確認機能、同伝言版機能、避難場所・避難所・災害拠点病院などの検索・誘導機能、家族の集合場所記録・共有機能、災害情報検索機能などを備える。

 また、東京工業大学大学院情報理工学研究科に在学する丹羽一輝氏は、災害時に複数のユーザーが獲得した情報をリアルタイムに収集し、それを二次利用するシステムの提案を行っている。二次利用の一例として、被害予測が可能なシステムをWebアプリケーションとして開発した。東京都世田谷区で地域住民参加型の実証実験を行っている。投稿された情報をもとに、火災延焼シミュレーションを行うなど、減災効果の検証を進めている。

 また筆者は、青森県庁企画政策部が2013年度から実施している「視覚・聴覚障害者向けiPad講習の人材育成講座」について、昨年開催されたシンポジウム「モバイル’15」で紹介を行っている。これは視覚障害者、聴覚障害者などがアクセシビリティ機能が充実しているiPad、iPhoneを利用できるよう教えられる講師を育てていこうという取り組みである。個別に視覚障害者、聴覚障害者に教えるのも良いが、それではなかなか広がりが出ない、そこで教えられる人材を増やしていこうという発想だ。講師までできないにしても、アクセシビリティ機能の使いこなしを学ぶだけでも、有用としている。

 じつは、東日本大震災時に障害者の死亡率は健常者に比べ高い割合だったことが知られている。「地震があったことはわかったが、それに伴って職場の健常者がみんな帰ってしまった。耳が聞こえないので、周囲の人が何をしているのかわからず、仕方ないので戸締まりして帰った」「避難所に入っても、音声による連絡では状況がわからず、食事をもらえなかった」「そもそも防災無線は聞こえない」といった声が多数聞かれ、こうした状況を打開するためには情報に主体的にアクセスできるタブレット等を障害者にも積極的に使ってもらおうという自治体関係者の願いから、こうした事業につながっている。
《木暮祐一》
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