建設業界、五輪後の市場はどうなる?……アナリストが解説 | RBB TODAY
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建設業界、五輪後の市場はどうなる?……アナリストが解説

エンタープライズ その他
日本総合研究所総合研究部門・山田英司氏
  • 日本総合研究所総合研究部門・山田英司氏
  • 野村総合研究所経営革新コンサルティング部・榊原渉氏
  • 三菱総合研究所経営コンサルティング本部・佐藤洋氏
  • 中国経済の動向が日本経済に与える影響は小さくない
 人口減少の影響などで将来的には縮小が避けられないともいわれる国内建設市場。2020年東京五輪終了後も建設業界が成長を続けていくには、ビジネスモデルの転換や海外市場の開拓が不可欠になりそうだ。日本総合研究所総合研究部門の山田英司氏と野村総合研究所経営革新コンサルティング部の榊原渉氏、三菱総合研究所経営コンサルティング本部の佐藤洋氏に、建設市場の動向についてそれぞれインタビューを行った。

 □建設市場の動向はー20年以降「減少」か「横ばい」□

 国内建設業の足元の事業環境については、3氏ともマーケットが回復基調にあり、18~19年ころまでは堅調に推移すると分析する。20年以降の建設需要については、現在と比較して山田氏と佐藤氏が人口減少の影響で「減少」すると予測。榊原氏は、先進国の国内総生産(GDP)と建設投資額の関係性から、日本経済がこのまま低成長でも成長を続けていくことを条件に「ほぼ横ばい」になると予想した。

 建設業界が長期的に成長していく上で、最も大きな問題として3氏が共通して挙げたのが「人手不足問題」だ。一定の建設需要が見込める今、将来に向けた投資などによってこうした問題を解消しておく必要があると指摘する。

 2020年東京五輪関連の建設需要については、「国内の建設投資額全体から見れば、五輪に関する直接投資額は1割にも満たない見通し」(榊原氏)、「国内の設備投資については、中国経済の動向が与える影響の方が、もしかしたら大きいかもしれない」(山田氏)、「大手デベロッパーは、既に五輪後を見据えて投資の機会をうかがっている」(佐藤氏)とし、いずれも五輪の影響は「限定的」とする見方が強かった。

 □人手不足にどう対応ー新工法・新建材開発に期待□

 「現場の効率化や生産性向上に寄与する新工法・新建材の開発に力を入れることが必要だ」と指摘するのは榊原氏。少子高齢化による人口減少に歯止めが掛からない中、建設業界がこれから人手を十分に確保し続けるのは困難だと分析。ゼネコンを中心に、今まで以上に技術開発への投資を増やすことで、「人手不足を抜本的に解消するイノベーションを起こしてほしい」(榊原氏)と期待を寄せる。

 新工法や新建材といった新技術は、現状では開発しても実績がなければ現場に適用されるケースが少ないため、施主側の協力も不可欠になる。榊原氏は「施主側も、計画している案件が職人不足の影響で建設されないことを最も懸念している」とした上で、「(施主と施工者の)双方が歩み寄ることで、新技術を現場で積極的に活用する流れを作ることができれば、生産性向上につながる」と話す。

 佐藤氏も技術開発の重要性を強調する。「新築需要が期待できる都心と比較して、地方都市は今後、建築・土木ともに老朽化更新がメーンになるだろう」との見方を示した上で、「メンテナンス需要を着実に取り込むためにも、人手をかけない省力化技術を活用することが重要だ」としている。

 □今後のビジネスモデルは-抜本的な構造転換を□

 「抜本的なビジネスモデルの転換」の必要性を説くのは山田氏。将来的に物量が減少した場合に備え、技術力に見合った価格での受注を徹底し、建設産業そのものの価値を底上げすることが、人材の確保にもつながるとの見解を示した。

 人手不足解消に向けては、労働者派遣法で建設業務での労働者派遣が禁じられ、「派遣」という形態では自由な人材の融通ができないことを念頭に、佐藤氏は「優秀な人材をプロジェクトごとに融通し合うことで、繁忙期の職人不足を乗り切ることができるかもしれない」と指摘。「政府も含めた関係機関との協議を視野に入れるべきだ」と提案した。

 佐藤氏は、「既存のビジネスモデルからの脱却」が鍵になるとも指摘する。「新築偏重からメンテナンスへ、都心から地方都市へと考え方を切り替え、今ある需要を取りこぼしなく取り込むことが重要では」と話す。

 10年後の建設業の未来について3氏は、国内需要こそ縮小傾向になるものの、海外を含めれば十分に成長の可能性があると分析。「業界が抱える課題は多いが、逆に今がそれらに対応するチャンス」(山田氏)、「(課題解決の)努力の先に、業界が発展する可能性は十分にある」(榊原氏)、「競争は激化することになるが、建設市場そのものが拡大する可能性に期待したい」(佐藤氏)とした。

 □海外での事業展開はー技術力がアピールポイントに□

 海外での事業展開は、建設業の成長の鍵を握る重要な要素の一つになる。発展途上国を中心に、日本のインフラ技術を必要とする国・地域は多く、信頼性も高い。

 佐藤氏は「耐震性能などの技術に加え、納期を守る、事故を起こさないといった基本的なところに至るまで、日本の建設技術は世界でもトップクラスといえる」とあらためて評価し、「海外で事業展開する上で、技術力はアピールポイントになる」とした。

 需要への期待が大きい一方で、海外事業ではカントリーリスクも考慮する必要がある。山田氏は「施工だけではリスクが高い」と警鐘を鳴らす。プロジェクト・マネジメント(PM)やコンストラクション・マネジメント(CM)といった建設をトータルでコーディネートする仕事でリスクを減らすといった考え方の重要性が増すとみる。

 榊原氏は、「地域に根付くためにも、現地企業との連携が必要不可欠」とした上で、資本注入や業務提携、共同企業体、M&A(企業合併・買収)などさまざまな手法の必要性を強調。「日本のエンジニアリング会社や不動産会社など、海外経験が豊富な企業と組むことも選択肢の一つ」とし、業界の垣根を越えた連携の必要性も指摘した。

五輪後の建設市場は「減少」か「横ばい」…アナリストに聞く

《日刊建設工業新聞》
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