1つ3000円のガトーショコラのブランディング | RBB TODAY

1つ3000円のガトーショコラのブランディング

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外観はイタリアンレストラン
  • 外観はイタリアンレストラン
  • オーナーシェフの氏家健治さん
  • パッケージを研究し、高級感を大切にしている
  • 焼きあがった「特撰ガトーショコラ」。
  • 湯煎でバターとチョコレートをゆっくり溶かしていく
  • 型に流し込む
  • ~地方発ヒット商品の裏側~1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れている!?――ケンズカフェ東京「特撰ガトーショコラ」のブランディング手法
  • オーブンで15分焼けば完成
 今年5月、日本の贈答文化の良さを見直し活性化させる趣旨で設立された「日本ギフト大賞2015」で都道府県賞(東京賞)を獲得したケンズカフェ東京の「特撰ガトーショコラ」。

 これまでにも「食べログ・ベストスイーツ2013」 チョコレート部門1位や、「資生堂ご当地プラス・全国ご当地スイーツ総選挙」 東京エリア1位など、スイーツ界ではエリートとして知られるこの商品。その人気の秘密は「美味しい」だけでなく、そのブランディングに隠されているように思える。そこでオーナーシェフの氏家健治さんに話を聞いた。

 ケンズカフェ東京の「特撰ガトーショコラ」は1本280g。縦6cm、横13cm、高さ5cmほどの小ぶりなスイーツが、3000円という高値でありながら1日100本以上売れている。特筆すべきは、それがパティスリーではなく氏家さんが経営するイタリアンレストランのキッチンで作られているということ。アルバイトを含む4人のスタッフで、毎日手作りで製造しているというのだ。

■廃業寸前のピンチから生まれたヒント
 そもそもなぜ、個人店のイタリアンレストランでありながら、ここまでのヒット商品を生み出せたのか。動機は、廃業寸前にまで困窮した店の経営にあった。

 98年に東京都新宿区に開店したケンズカフェ東京は、オープンして1年もすると、徐々に客足が減りはじめ、気がつけば、あわや倒産かというところまで売り上げが落ち込んでいたのだとか。インターネットでの集客に注力することで倒産の危機はのがれたものの、その波もそう長くは続かないと予測し、“第二の柱”となるものを模索していたという。
そんなさなか、客の要望に応えるために始めたのが、デザートとして提供していた「ガトーショコラ」の持ち帰りサービスだ。

■始まりはサービスのつもりで
 当初はあくまで “客の要望に応えるため”の サービスとして始めたもの。利益は考えず、価格はほぼ原価の500g1300円で販売していた。購入者から「美味しい」と絶賛され、口コミで評判が広まると、「半分のサイズはないの」「量が多すぎる」という声も寄せられるようになった。

 そこで、大きさを半分にしつつ価格を1500円に値上げして本格的に販売開始。すると、途端に自家用消費ではなく“手土産”としての需要が伸びたという。売れ行きが好調な一方で、手間とコストはかかるばかり。次第にレストランの経営を圧迫するようになってきた。「もうガトーショコラはやめて、レストランに専念しよう」とさえ思ったそうだ。

 しかしそこで、自身の意識に変化が兆したと氏家さんは当時を振り返る。「全国から美味しい、また食べたいという声が届くガトーショコラを、自分の都合だけでこの世から無くしてしまって良いのだろうか? 」と。そこで2000円に値上げをして存続させることに。この価格改定が運命を大きく左右することになる。



■2000円にしたことで客層に変化が
 当然、1500円から2000円に値上げすることは、苦渋の選択だったと氏家さんは振り返る。もともと味については、どの有名店や老舗店と比べても一番美味しいという自信はあったが、これまで買ってくれていたファンの人たちに申し訳がないと。

 そこで値上げした分、原料のチョコレートもパッケージも改良し、より高級感を出す工夫をしたところ、ギフト用途で販売数が伸び始めたそう。

 さらに、2000円という価格が話題となり、雑誌にも取り上げられるように。すると来店する客層も変わった。高級車を乗り付けて買いに来るセレブ層が増えた。こうした変化を目の当たりにし手応えを感じた氏家さんは、やがてはレストラン事業から、ガトーショコラの物販事業へと完全にシフトすることを考えるようになった。

■2000円から3000円に
 そして大きな転換期が訪れる。08年3月にテレビ朝日のバラエティ番組で紹介され、その月は特需で500本売れて100万円の売り上げに。しかし、特需があっても100万円にしかならないことを知り、このままの価格では、設備上不可能な量を生産しないとガトーショコラの物販事業だけで経営していけないことがわかった。

 するとその翌月、フジテレビの人気番組からも紹介するという話がきた。2000円の限界を知ったばかりの氏家さんは、放映直前のタイミングで一気に価格を3000円に値上げした。「このタイミングしかないと思った。テレビを観た人は最初から3000円ですから」。値上げすることに躊躇するのが小売業を営む者の心理。しかしそこを悠々と軽く飛び越える。これまでの価格を知っていた人たちよりも、この放送を観て新たに知る人の方が多いと考えた結果だ。しかもその価格は2500円でもなく2800円でもない。

 ガトーショコラ1本で展開していくには、3000円という高価格にすることで得られる“格”が必要と考えた。「別に値上げは悪ではありません。価格に見合わないのもを高く売りつけるのが悪であって、問題は価格に見合っているかどうかです。それに売れなくなったら価格を下げてもいい」と柔軟な考えだ。



■価格に見合った品質とサービス
 パッケージや袋はさらに高級なものにかえた。チョコレートは、これまで愛用してきたメーカーを替え、完全オリジナルのグランクリュショコラに切り替えた。これも美味しさを追求した結果だ。こうして世界で唯一の「特撰ガトーショコラ」が完成した。

 サービス面では、クレジットカードを使えるようにし、お釣りのお札には新券を用意した。「セレブと呼ばれる人たちは、カードを使うのが当たり前。それが使えないということはその人に恥をかかせることですから」。パッケージ、商品、サービスそれぞれをグレードアップし、ブランディングを図る。このすべては3000円にしたからこそできたのだとか。「先に結果を作ること。家を買うのも、お金を貯めてからじゃ遅すぎたり、間に合わなくなることもありますから」と大胆だ。しかし、1300円から3000円にして成功するというのは、飽くなき改良を加え、ブランドを確立していったからだと言える。

 現在、原材料に使用している「カルピス特撰バター」の供給が間に合わず、売り上げの7割を占めていた通販をストップしている。一時は、毎日バターの確保のことで頭が一杯でノイローゼになりそうだったとか。しかし、それがかえって商品の希少性を高め、店頭や一部百貨店での販売本数が伸びた。通販にかかっていたコストがなくなったことも相まって、利益率も上昇。また、作りたてを提供できるので、さらに評判も良くなった。

■知ってもらう努力と思い出してもらう努力
 氏家さんが、これまで一番努力してきたことは何か――「商品を改良するのはもちろんですが、常に新規客を獲得するつもりでPRし続けています。どんな有名な商品だって、どんな老舗だって、PRを怠ればやがては忘れられてしまうもの。大企業を見ても皆常にCMを打つなどして努力していますよね」と、PRすることの重要性を説く。

 その一環として、通常では考えられないようなこともしている。



 「レシピの公開」を「You Tube」で流したり、地元新宿のタウン誌に8年間広告を出し続けているのだ。レシピの公開をすれば他社が真似するのではないかと問うてみると、「これまで長い時間をかけて宣伝し作り続けてきているものです。他社が同じものを作ったとしても同じ金額で売れるわけはないし、同じものを安く売っても利益にならないからやらないでしょう。レシピ公開は多い日で1日10万アクセス。「商品を知ってもらういい素材ですよ。隠している場合じゃない」と知ってもらう機会を逃さない。

 また、食べログなどのネット媒体の活用、百貨店の催事や料理教室にも積極的に出品・出演している。講演に呼ばれれば積極的に登壇し、商品を知ってもらう努力をしている。

■今後の展望
 現在、3件のコンビニスイーツの監修の話がきているほか、他のスイーツメーカーとのコラボの話もいくつかある。俗に、“コンビニスイーツを手がけるとブランド価値が下がる”と言われるなか、氏家さんはそれ以上に新たに知ってもらうことのほうが大事だと断言する。

 そしてさらに、海外でのライセンス契約などを視野に入れている。最近、タイではテレビで放送され、台湾では口コミで広がっているそうだ。また、海外の媒体に広告を載せて店までの導線を作ることも検討している。「画期的なことをしていき、これからも常に話題にされる存在でありたい。そのためには進化を止めてはいけない、」と意気盛んだ。

 改良を続けて最高の品質に仕上げ、継続的な宣伝によりブランド化を果たした。3000円という話題性もあって、メディアにも取り上げられ希少価値が上がり、販売個数増はもちろん、新たなビジネスの話も進んでいる。こうしたビジネスモデルは、大型資本のものではなく、個人経営の規模でもできる施策だ。肝心なのは、商品の飽くなき改良、そして消費者に忘れられない努力。これはどの企業にとっても必要なことだろう。

~地方発ヒット商品の裏側~1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れている!?――ケンズカフェ東京「特撰ガトーショコラ」のブランディング手法

《眞島亮人/HANJO HANJO編集部》

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