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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第52回 外国人観光客向け無料Wi-Fi提供の障壁になっているもの

エンタープライズ モバイルBIZ
【図1】外国人観光客が日本での滞在中に、どのような情報が求められているか(観光庁)
  • 【図1】外国人観光客が日本での滞在中に、どのような情報が求められているか(観光庁)
  • 【図2】KOBE Free Wi-Fi カード・英語版(表裏面)
  • 【図3】KOBE Free Wi-Fi カード・英語版(中面)
  • 木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有。
■各自治体が気にしている外国人観光客端末の技適問題

 外国人観光客が多い自治体は、それら観光客向けに無料で利用可能な公衆無線LANの提供を行っているところも少なくないが、なかなか積極的にアピールするところまではしていない。このあたりの事情を主要自治体の観光局等に取材してみると、やはり「技適問題」をネックとしているケースが多いようだ。

 筆者のこれまでの連載(とくにGoogle Glass関連の記事)などでも触れているとおり、日本の電波法上、電波を発する機器は「無線局」として取り扱われ、これを合法的に運用するためには技術基準適合認定(いわゆる「技適」)を受けなくてはならない。

 本来は自作無線局や出力を強くするなど違法改造し、他の無線サービスに悪影響を及ぼす無線局を取り締まるための法律だったはずだが、この法解釈に当てはめると、スマートフォンやタブレットなど3GやLTEなどのモバイルネットワーク機能を備えた端末はもとより、Wi-FiやBluetoothも無線となるのでそれらを備えたノートパソコンも含め「無線局」として扱われるため、この日本の技適がないものに関しては国内では「違法無線局」として扱われてしまう(モバイルネットワークを国際ローミングとして利用する場合は除外される)。

 そもそも、外国人が持ち込む端末で、日本の技適を通してある端末が利用されるケースは稀だ。総務省の担当部局に問い合わせれば、当然のことながら法令を遵守させることが当局側の立場であるため「こうした技適の無い機器は日本では電源を入れないで下さいとしか言えない」ということになる。スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどのWi-Fi利用で、「違法無線局」として摘発された事例は聞いたことがないのだが、法令を厳格に遵守しなくてはならない自体の立場としては観光客向けに公衆無線LANサービスの提供を目論みつつも二の足を踏んでしまっているのが現状だ。

 神戸市産業振興局観光コンベンション課の東(あずま)氏は「国内でも外国人観光客が多い当市としては、外国人観光客向け公衆無線LANの提供は重要な課題と感じていた」という。技適問題に関しての課題について伺ってみると、やはり自治体としても懸念を感じつつも、「Wi2の利用規定に従って公衆無線LANを使用してくださいと案内している。当然のことながらWi2の規約の中には接続できる端末は技術基準に適合したものであることなどが記載されているので、利用者(外国人観光客)にはそれを承諾した上で使っていただいているものと考える」とし、技適問題は自治体側が悩むものではなく、通信事業者側に責任持って対応してもらうというスタンスであることが分かった。

 ちなみにWi2の広報担当によれば「技適問題は認識しているが、接続してくる端末が合法な端末かどうかは提供者側としては判別できず、これはユーザーに委ねるしかない」という回答だ。

 2020年には東京オリンピックが開催され、世界中から多くの外国人観光客がわが国を訪れることになる。総務省では「情報通信審議会2020-ICT基盤政策特別部会 基本政策委員会」を開催し、この委員会の中で「訪日外国人にとっても利用しやすいICT基盤の実現」についても議論を進めている。この中では「外国人観光客の無料で利用できる公衆無線LAN環境へのニーズの対応」「利用の煩雑さの解消」「海外からの持ち込みスマートフォン等へのMVNO等による国内発行SIMの提供」などが盛り込まれている。理想の形が描かれている資料の中には技適問題には触れられていないが、この委員会の理想としているICT基盤を実現させるためには、技適問題を含む法解釈の見直しも必要となってくる。神戸市の場合、こうした総務省の動きも鑑みて、どの自治体よりもいち早く外国人観光客に無料で公衆無線LAN環境を提供する大規模なサービス展開を始めたことになる。2020年に向けた情報通信政策にいち早く乗っていこうという考え方のようだ。

 かつて、総務省のこうした法律に関連する担当官から、「ニーズがあれば法律も変化していくはず」という言葉を聞いたことがある。グローバル端末の普及や世界中の誰もがWi-Fi等を通じてインターネットにアクセスする時代となり、いよいよわが国でも既存の法解釈では対応できない新たな「ニーズ」が散見されるようになってきた。ぜひともユーザーにとって便益のある法制度の見直しに期待したいものである。
《木暮祐一》
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