【インタビュー】船出から1年、作家エージェント会社「コルク」が感じた手応え(前編) | RBB TODAY

【インタビュー】船出から1年、作家エージェント会社「コルク」が感じた手応え(前編)

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コルク 代表取締役社長 佐渡島庸平氏
  • コルク 代表取締役社長 佐渡島庸平氏
  • コルクのHPでは契約作家等の最新情報も配信している
  • 「宇宙兄弟」小山宙哉氏のホームページ
  • 「ドラゴン桜」の三田紀房氏も契約作家の一人
 「宇宙兄弟」(小山宙哉)、「バガボンド」(井上雄彦)、「ドラゴン桜」(三田紀房)、「働きマン」(安野モヨコ)など名立たるヒット作を担当した編集者、佐渡島庸平氏。同氏は昨年10月に講談社から独立、“クリエイターと同じ船に乗る”として作家のエージェント会社「コルク」を設立した。その船出から1年、日本ではまだまだ耳慣れない“作家のエージェント業”を興して感じた手応えや成功事例、さらにコンテンツのデジタル化が持つ可能性や課題について話を聞いた。

■“編集者の時代”が来ようとしている

――まず、「コルク」を設立された経緯を改めて聞かせてください

 作家や作品が持つ本質的な価値は「本」ではなく、作家が作った「ストーリー」にあります。ミュージシャンがCDではなくて音楽を作っているのと同じで、作家は本ではなくストーリーを書いているから。そのストーリーが、作家の窓口を出版社がやることによって本の中だけに閉じ込められてしまっている。それを、もっと大きなたくさんの可能性へと広げたいという思いがありました。作家の才能は今の時代に対応しているのに、出版社が対応できなくなっているのではないかと。

 また、出版社の組織的な問題として、担当者がよく代わることも挙げられます。その度に担当者との人間関係を築くことが必要だったりすると、モノづくりに作家が集中できない。そこで、作家が創作活動に没入できる環境を作るため、作家のエージェント会社を設立しようと考えました。

――設立から1年が経過しました。今現在の手応えはいかがですか?

 作家のエージェント会社というものは、日本にはほとんど無く、ビジネスモデルとしてもまだ成立していません。それが成立させられるかどうか手探りなところから始めましたが、思った以上の手応えがありました。社員3人で始めて、正直に言って1年後も3人のつもりでした。ですが、今10人以上の体制になってきている。この状態は予想していませんでした。編集という技術が思ったよりも世の中で求められていて、それなのに編集者という人材に流動性が一切ない。そこで、僕のような人間が誰からでも発注できる状況にあると凄い量の発注が来るんだな、ということを実感しました。

――なぜ今、編集者が求められるようになっているのでしょうか?

 これは会社を辞めてから考え始めたことですが、たとえば戦後の世の中で求められていたのは「物」でした。何も無い時代だったから、純粋に物が求められていた。工場のように、物を作るシステムさえ構築できれば良かった。それから、少し経済が上向いてきて、次に「質」が求められるようになります。量がたくさんあっても質が伴わないと駄目だと。そこで質を提供できたから、ソニーやホンダ、パナソニック、トヨタなどの日本企業が活躍したんだと思います。その後、考えられるようになったのが「デザイン」。たとえば戦後の工場にはデザイナーという職業が存在しませんでした。出版社にもデザイナーという職業はなくて、編集が全てやっていた。でもデザイナーという職業が1980年くらいから生まれてきて、1990年代は建築家なども含めてデザイナーがすごく活躍した時代でした。社会が豊かになってくるとそうなります。そして、2000年代になって何が起こったかというと、デザインも飽和してきて今度は「安さ」の時代になりました。質が良くて、カッコ良くて、安い。これらが全て叶えられるようになってきたわけです。

 そうなった時に、じゃあ次は何なのか?今、僕たちが何にお金を払っているのかというと、商品が持つストーリーに対して払っているんだと思います。コルクはクリエイターを大切にしたいと思っているので、来客の方に出すコップにしても作家が作った一点ものを使ったりしていますが、人にその商品について話せるというのが大事です。それぞれの商品が持っているストーリーってすごく重要なんですよ。つまり、今は商品にどういった風にストーリーを宿らせるか、という時代になっている。典型的な例として、ミネラルウォーターのボルヴィックを1リットル買うと、発展途上国に10リットルの水が誕生するという話があります。ここには、本来その商品自体が持っていない物語が付随しています。

 ただし、これはボルヴィック何リットルに対して現地の水何リットルという1対1の関係だけで物語として短い。言わば箇条書きのようなものです。ストーリーというのは、波になっていないといけない。期待させて、裏切って、また期待に応える、といった展開が必要で、商品にもそういうエピソードが必要になってきます。たとえば、高校野球はすごく盛り上がりますが、怪我をしていたピッチャーがそこを乗り越えて最後まで投げ切ったとか、一度マイナスの情報が入ることでより盛り上がる。そういった演出が出来るのって誰なのかというと、編集者だと思います。編集者しかいないと。広告で15秒や30秒の短い時間のものは作られていますが、それは会話中に急に手を叩いて注目を集めるような行為であって、何十分とか長く続けようと思うと必ず“流れ”が必要です。そう考えた時に、編集者の時代が来ようとしていると、この1年間で思いました。
《白石 雄太》

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