【木暮祐一のモバイルウォッチ】第12回 iPhone 5は革新性よりも安心感か? | RBB TODAY

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第12回 iPhone 5は革新性よりも安心感か?

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iPhone 5はディスプレイが縦に長くなり、アプリのアイコンが1列多く表示されるようになった。
  • iPhone 5はディスプレイが縦に長くなり、アプリのアイコンが1列多く表示されるようになった。
  • 木暮祐一氏。武蔵野学院大学准教授で携帯電話研究家/博士(工学)
  • iPhone 5(ブラック&スレート)の背面。
  • iPhone 5(ホワイト&シルバー)の背面。
  • 9年ぶりに形状が変更されたDockコネクタ。この変更が吉と出るか凶と出るか。
  • キーノートスピーチに臨むティム・クックCEO。
 かねてから注目されていたiPhone 5が13日、ついにお披露目された。筆者もわずかな時間であったが、製品発表会で実機に触れることができた。すでに各方面で機能やスペックなどの詳細が報告されているので、ここでは筆者がとくに着目したポイントに絞りiPhone 5の概要を示すと共に、iPhone5からうかがい知るアップルの製品開発思想、さらにクックCEO体制によるアップルの展望を考えてみたい。

■iPhone 5の外観上の特徴

 iPhone 5の外観上の特徴は、端末幅を変えずにディスプレイサイズを上下に大きくした4インチに拡大し、使いやすさを損ねずに表示面積を増やしていることと、さらに一段と薄型化・軽量化を図ったところにある。常時手のひらで使うために理想的なサイズはどんなものなのかを追求した結果、これまで貫いてきたiPhoneの幅が理想型であり、そのグリップ感や操作性を損なわない進化をさせたということなのだろう。また、縦にディスプレイを延ばした4インチサイズにしたことで、アプリのアイコンの列が1行増えている。画面を横にするとアスペクト比がほぼ16:9となり、フルサイズの動画も画面が切れることなく再生できる。実際に端末を手にしてみると、従来のiPhone 4S等よりも薄型化し、さらに軽量になっている。またiPhone 5は、3.9世代ネットワークであるLTE方式に対応したことも大きな特徴である。理論上の通信速度は最大約100Mbps。HSPA+の21Mbps、DC-HSDPAの42Mbpsと比べて2~4倍以上の通信速度向上となる。

 よく、LTEになって「どんな画期的なことができるのか?」という質問をいただくが、LTEだから新たなことができるようになるというよりは、既存のサービスを利用する上で快適性が増すと考えた方が良いだろう。たとえばスマートフォン上で利用頻度が高いものの一つにソーシャルメディア(facebook等)の活用があるが、文字ベースのコミュニケーションから、最近では画像を共有しながらコミュニケーションを図るような使い方に発展している。LTEならばそうしたファイルのアップロード等がより軽快にできるほか、新たに動画の共有などの機会も増えていくだろう。カメラ機能に関しては、iPhone 4S同様の8メガピクセルのiSightカメラが搭載されている。新たな機能としては、HD(1080p)ビデオ撮影、オートフォーカス、顔検出、手ぶれ補正、パノラマ撮影機能も備えられた。そしてiPhone 5の心臓にあたるプロセッサもA6チップとなり、iPhone 4Sに比べ2倍の速さで動作する。充電コネクタ(Dockコネクタ)に関しては9年ぶりにチェンジし、小型化・デジタル化されたミニDockコネクタが採用された。しかし、このDockコネクタは、外部機器との接続に欠かせない部分で、iPhone周辺機器としてサードパーティからかなりの数の製品が市場に出荷されている中で、コネクタ形状が変わるというのは一悶着ありそうだ。そのほか、発表会ではメールやSafariの機能向上や、マップの純正機能化などを披露していたが、ここは既発表済みのiOS6に依存する部分であるので説明は省く。

 一方で、期待が高かったNFC/Felicaなど非接触ICの搭載は見送られた。以上、iPhone 5の製品としてのポイントを記したが、アップルから送られてくるプレスリリースには、「息をのむほど美しい」「最も先進的」「驚異的」などといった形容詞がふんだんに使われ、iPhone5に備えられた機能やスペックがさぞかし画期的なものなのだろうと見間違えてしまいそうである。(外資系企業からのプレスリリースは一般的にみなこんな感じだが)

■大きなイノベーションはあったのか?

 しかし冷静に技術的スペックを考えてみたい。ここに列記させていただいたiPhone 5の特徴は決して目新しいものではない。Android端末では、ディスプレイ解像度ももっと高精細なモデルはあるし、カメラの画素数でいえば、わが国の5年前のフィーチャーフォンに搭載されていた程度のものに過ぎない。LTEはすでにNTTドコモがXi(クロッシー)としてサーンビスインしており、対応した他メーカーのスマートフォンやタブレットが多数利用されている。

 iPhoneは2007年の登場(米国内)以来、確かに大きなイノベーションを世界中で巻き起こして来たし、モデルチェンジごとに何らかの画期的、革新的機能が追加されてきた。その割には、今回のモデルチェンジは外装デザインが変更され、機能をそのままに薄型・軽量化を図ったといっても、前モデルのiPhone 4Sの基本機能およびスペックをそれぞれブラッシュアップした程度で、革新的新機能の追加というものは見られなかった。ユーザーによっては、ようやくAndroidスマートフォンに追いついた程度と見る人がいてもおかしくない。

 アップルがこれまで貫いてきたコンセプトは「使いやすさの追求」にある。とくにハードウェアとソフトウェアを一体的に設計、製造できる立場あるアップルだからこそ、他のメーカーにまねできないユーザビリティを実現させてきた。とくにモバイル端末については、端末に搭載されている個々の機能のスペックのほかに、ネットワークのポテンシャルも考慮が必要となってくる。たとえばカメラが高性能で、高精細な写真を撮影できたとしても、ネットワーク速度が遅ければメール等での送受信が困難であったりする。つまり一部機能だけずば抜けて高品質だったとしても、他の機能のスペックやポテンシャルとのバランスが取れていないと使い勝手を悪くしてしまい、満足度が低くなる。

 iPhone 5の技術的スペックを見ると、既存のAndroidスマートフォンと比較して抜きん出て優れた点を見いだしにくいのだが、アップルからすれば使いやすさを追求した上で各機能のスペックやポテンシャルのバランスをとって、誰もが安心して使える理想のスペックにあえて抑えて商品化していると捉えればよいのだろうか。ジョブス氏が亡くなって1年、革新的なものづくりを目指していたジョブス氏の視点や志はアップルの後継者たちにどの程度継承されているのか。仕上がりはサプライズはないが安心感があるiPhone 5はティム・クック氏らしい仕上がりとして満足してしまって良いのだろうか。iPhoneの躍進に陰りが出ないことを祈りたい。
《RBB TODAY》

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