【連載・日高彰のスマートフォン事情】実質3キャリア時代を迎えたiPhone、MWC前に総まとめ(後編) | RBB TODAY
※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【連載・日高彰のスマートフォン事情】実質3キャリア時代を迎えたiPhone、MWC前に総まとめ(後編)

ブロードバンド 回線・サービス
auは800MHz帯と2GHz帯を併用しているが、フィールドテストモードで見てみると東京都心部にいるときも800MHz帯の電波をつかんでいることが決して少なくなかった
  • auは800MHz帯と2GHz帯を併用しているが、フィールドテストモードで見てみると東京都心部にいるときも800MHz帯の電波をつかんでいることが決して少なくなかった
  • 都心部でiPhoneを使う限り、ドコモ、au、ソフトバンクの3社のどれが最も高品質かは一概に言うことができない
  • au、ソフトバンクとも公衆無線LANスポットを整備して3Gパケット網の混雑を緩和しようとしている
  • au、ソフトバンクとも公衆無線LANスポットを整備して3Gパケット網の混雑を緩和しようとしている
 前回、au版、ソフトバンクモバイル版、そしてSIMフリー版にNTTドコモのSIMカードを装着した3種類のiPhoneを用意してその使用感をテストした。確かに、3社のネットワークには傾向としての違いはあった。しかし、少なくとも都心部でiPhoneを使用するにあたって、3社の品質に明確な順位付けをすることは難しいというのが率直な印象だ。

 数年前ならば、「ドコモ、auのネットワークのほうが優れており、料金プランや話題性でソフトバンクがそれに対抗する」といったイメージを持つユーザーが多かったと思われるが、前回の試用結果を見る限り、今や必ずしもそうとは言い切れない。では、スマートフォン時代になって、ネットワークの質でキャリアを選択する時代は終わったのだろうか。

 言うまでもなくその答えは「否」であり、スマートフォンの爆発的普及により、ユーザーとしてはどのキャリアと契約するかはますます重大な関心事となっている。確実に言えるのは、スマートフォン時代になって、従来とは異なるネットワーク品質が求められるようになってきたということである。


■「バリ3」だけではわからないネットワーク品質

 スマートフォンによるトラフィック爆発や、最近のネットワーク障害に関して取材をする中で、通信業界の関係者が次のように指摘しているのを耳にする機会があった。「ネットワークといっても無線区間と有線区間があるけど、いまキャリアが苦労しているのはむしろ後者なんじゃないかと見ています」。

 従来の携帯電話では、アンテナマークの横に最大で3本の線が表示されることから、電波の強さが良好な状態を俗に「バリ3」などと呼ぶことがあったが、これまで一般ユーザーにとっては、どれだけ「バリ3」のエリアが広く、「圏外」表示になることが少ないかがネットワーク品質の指標だった。確かに、音声通話や小容量・短時間のデータ通信が主流だった時代には、携帯電話がどれだけ快適に使えるかとアンテナマークの表示はおおむね等価だった。

 しかし、アンテナマークの表示が示しているのは、あくまで信号の強度という無線部分の品質のごく一部であり、ここからエリアの混み具合や、有線ネットワークのパフォーマンスなどを読み取ることはできない。そのような、今まで隠れていたネットワーク品質を一気に表面化させることになったきっかけが、スマートフォンの爆発的普及と言えるだろう。

 また前出の関係者は、スマートフォンは単にデータ通信の量が多いだけでなく、端末上で動作するアプリの挙動が従来と大きく異なる点を気にかけていた。例えば、従来の携帯電話であれば、いったん圏外に出た端末が再び圏内に戻ってきたときにネットワーク側で必要なのは、端末がどのエリアに存在するかの情報を再登録し、圏外にいる間に新着メールなどがあればそれを通知する制御情報を端末に向けてプッシュする程度であった。これがスマートフォンになると、端末上では常時インターネットに接続されていることを前提とした多数のアプリが動作しているため、圏内に戻った途端にパケット通信がオンになり、インターネット接続のセッションが張られ、アプリがデータの送受信を開始する。

 ここでアプリが行う通信は、多くの場合EメールやTwitterの更新をチェックする程度なので、データの量自体は微々たるものだ。しかし、端末が圏外にある状態から、実際にパケット通信を行う状態までの遷移には、ユーザーの目には見えない複雑な制御情報のやりとりがあり、単に圏内と圏外を行き来するのに比べ、キャリアのネットワークにかかる負担は大きい。大勢のスマートフォンユーザーが地下鉄の駅と駅の間を移動するような場面では、ネットワークから見れば「寝た途端に頬を引っぱたかれて起こされる」ことが繰り返されるようなもので、動画などの大トラフィックが発生していなくても、キャリアのインフラにはそれなりの負荷がかかっているということになる。


■キャリアがOSやアプリを制御できない時代

 さらに、かつてはキャリア自らが端末の仕様を一から十まで決定していたのに対し、スマートフォン、特にiPhoneではその仕様にキャリアが関与できる範囲が限りなく狭くなっており、これもネットワークの混乱に拍車をかけている。キャリア仕様の端末であれば、待機時のパケット通信を抑制するような設計も可能だったが、OSはグローバル仕様、アプリはサードパーティ製というスマートフォンでは難しい。Androidと比べればiPhoneは一定の範囲で管理されたプラットフォームだが、iOSの進化とともにネットワーク負荷の高い挙動も段階的に解禁されていく傾向にあるし、従来型の携帯電話に比べてはるかに負荷が高いことには変わりない。

 つまり、キャリアにとってスマートフォンとは、これまで御することのできたネットワークを、何が起こるかわからない未知の空間に変えてしまう、禁断のデバイスである。とはいえ、iPhone、Androidを目玉商品として大きく宣伝する限り「スマートフォンは昔の携帯とは違うので障害が起きやすい」といった言い訳が通用するはずもない。ネットワークトラフィックが未知の挙動を示すことを前提としたインフラの整備が必要で、それは従来ユーザーから見えやすかった無線部分の品質だけでなく、その裏側にある制御の部分がより重要になってくるという意味を含んでいる。

 興味深いのは、さかのぼれば電電公社・KDD時代から研究開発に多額の投資を行い、自社内に多くの技術を積み上げてきたドコモとauでネットワーク障害が頻発しているのに対し、技術面では設備を納入するベンダーへの依存度が高いと言われるソフトバンクが、最近は大規模なトラブルを起こしていないことだ。これについては「iPhoneのヒットによって、ネットワーク上に多数のスマートフォンがある環境をソフトバンクが早い段階から知ることができたのは大きい」と指摘する関係者もいる。しかも、同社は面的なエリア展開では不利とされる2.1GHz帯のみでネットワークを構築してきたが、プラチナバンドたる900MHzを取得できた場合、他社にとってはいよいよエリアにおいても脅威になりかねない。

 また、一連の障害は必ずしも原因がスマートフォンに直結したものだけではないので、あまり憶測で物を言うべきではないが、世界で揉まれて幅広い市場のノウハウを吸収してきたグローバルベンダーの製品のほうが、従来型の携帯電話を前提とし日本市場に特化する形で構築されたインフラに比べ、未知のトラフィックへの対応に関しては力があるという可能性も考えられなくはない。もちろん、日本に限らずどの地域の市場でも独自の作り込みが求められるのは当然のことなので、実際には自社の技術とグローバルのノウハウのミックスということになるのだろうが、スマートフォンのトラフィックがこれまでとは質的に異なるのであれば、外部のノウハウもより積極的に取り入れていく必要があるだろう。


■定額1本の料金プランは早晩破綻?

 加えて言えば、このまま行くとネットワークのパフォーマンスがトラフィックの増大について行けなくなることが明らかな以上、料金・サービス体系にも手を入れなければならない。スマートフォンのユーザー層がこれだけ広がっていることを鑑みると、月額5000円前後のパケット定額プラン1つがすべてのユーザーにフィットしているとは考えにくい。速度や総量に一定の制限がある代わりにより安い料金プランや、逆に1000万パケットを超えても速度制限なし、端末の公式テザリング機能も使える代わり、現在よりもうんと高いプランなどもあって良いのではないか。

 もちろん、これまでのパケット定額プランを前提にスマートフォンへの移行を促進してきた以上、現在の契約者には継続して同じサービスを提供するのが望ましいし、プランが過度に複雑化するとユーザーにとってもわかりにくいものになりかねない。しかし、日本通信の「イオンSIM」が支持を集めていることなどから、市場が第2、第3の選択肢を求めていることは間違いない。いずれにしても、キャリアはトラフィックが限界点に達するのを待つのではなく、先手を打って自らの料金体系にメスを入れなければならない。

 auのiPhone獲得が報道された際には、これで業界の地図がまた大きく塗り替えられるのではないかと騒ぎになったが、スマートフォンの本格普及が始まって2〜3年が経過する中で、消費者はネットワークの品質に厳しい目を向けるようになっており、キャリア選びにもより慎重になっている。まだ見ぬ「iPad 3」や「iPhone 5」の噂も毎日のように聞こえてくる昨今、続々と登場する新しい端末、新しいアプリ、新しい利用シーンに対応できる、いかに柔軟で強固なネットワークを提供できるか、携帯電話キャリア各社の底力が試されている。また、我々エンドユーザーも、カタログスペックや一時のキャンペーンに惑わされることなく、「アンテナマークの向こう側」にある本当のネットワーク品質とは何なのか、見極めていく必要があるのかもしれない。
《日高彰》
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集

page top