【スマートグリッド最前線(Vol.3)】トヨタが取組むスマートグリッド、クルマのEV化への挑戦 | RBB TODAY

【スマートグリッド最前線(Vol.3)】トヨタが取組むスマートグリッド、クルマのEV化への挑戦

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トヨタ e-TOYOTA部BRスマートグリッド企画グループ グループ長 永井真澄氏
  • トヨタ e-TOYOTA部BRスマートグリッド企画グループ グループ長 永井真澄氏
  • トヨタスマートビジョン
  • 6月に開催された「スマートグリッド展」のトヨタブース
  • ブースでは、スマートフォンを活用した車載情報システムも展示
 電気を貯蔵する機能を持ち、必要なところに必要なだけ供給することができる次世代送電網、スマートグリッドへの関心は、世界的に高まる一方だ。

 今は東日本大震災後という時節柄、電力不足の緩和効果や再生可能エネルギーの有効活用、エネルギーの地産地消といった点が注目されがちだが、スマートグリッドの効能はそれだけではない。各国がスマートグリッドの導入に動き始めている大きな動機のひとつに電気自動車(EV)普及への対応がある。

 クルマはもともとエネルギーを大量に消費する乗り物で、EVの場合も100km走るのに使う電力の量は、平均的な一般家庭の一日分に匹敵する。今はまだEVの台数がごく少ないために、トータルの使用電力量は取るに足らないものだが、EVの台数が増えれば、エネルギーをどう供給するかということが深刻な問題となるのは確実だ。

 世界の自動車メーカー各社はEVを活用するためには、電力供給を能動的にコントロールできるスマートグリッドが必要になると考えており、現在さまざまな実証実験が行われている。その中でも先進的な取り組みを展開している一社として知られるのが、日本のトヨタ自動車である。

■自動車業界、“100年に一度”の技術革新

 「東日本大震災を境に、日本においてもスマートグリッドは社会に必要な技術だという意識が大いに強まったように思います」とトヨタでスマートグリッド開発やビジネス展開を手がけるe-TOYOTA部BRスマートグリッド企画グループの永井真澄グループ長は語る。

 日本のこれまでの電力システムは、平時においてはきわめて有効に機能してきた。電力不足による停電はほとんどなく、電圧や周波数の安定性という点でも一流だった。そのためスマートグリッドなど本当に必要なのかという声も少なくなかったのだ。実際、東京電力は電力政策についての会合などで「電力平準化なんかしなくても安定供給に問題はない。CO2低減は原子力発電を増やせば大丈夫」といった発言を繰り返していた。

 「震災でエネルギー供給に不安が生じたことで、そういった空気は一変しました。トヨタは今後プラグインハイブリッドカーやEVを普及させていきたいと考えているのですが、電力は無尽蔵ではありません。そのためには、スマートグリッドを使っていかに効率的にEVに充電していくかということを考える必要があるんです」(永井氏)

 自動車業界では今、クルマのEV化への挑戦が始まっている。08年秋のリーマンショックで“百年に一度”というフレーズが流行したが、クルマの世界において、EV化は19世紀後半にエンジンを使ったクルマが走り始めて以来最大という、まさに百年に一度というレベルの技術革新なのである。

 クルマはこれまで、一次エネルギーを使って走るものが大多数を占めていた。一次エネルギーとは、石油、石炭、ガスなどの燃料、太陽エネルギー(光、熱)、風力、水力、地熱、核分裂、植物などのことである。それに対してEVや燃料電池車が使うのは、電気や水素などの二次エネルギーだ。

 一次エネルギーを使ってクルマを走らせる場合、ほぼ石油やガスに頼り切ることになる。他の一次エネルギーを直接利用するのは大変だからだ。技術的に風で走らせようとすれば巨大な帆を張らなければならないし、そもそも風がなければ走れない。原子力自動車に至っては23世紀くらいにならねば無理かもしれない。

 しかし、水素や電気などの二次エネルギーを使ってクルマを走らせられるようになれば、どのような一次エネルギーもクルマに使えるようになる。クルマそのもののエネルギー効率を大幅に向上させられることはもちろん、原油価格の高騰リスクを回避したり、CO2排出量を削減したりといった、クルマに対する社会的要請に応えるには、EVや燃料電池車の普及は非常に有効な手段なのである。

 しかし永井氏は「クルマの消費電力は非常に大きい。EVの普及が進めば、世の中の電力の1割はEVが食うようになって、たちまち電力不足に陥ってしまうでしょう。いかに効率的に充電するかということを考えていかなければ、EVが増えることで社会に迷惑をかけてしまう。トヨタがスマートグリッドの研究に力を入れているのは、その解決法を探るためでもあるんです」と語る。

■トヨタが取り組む次世代エネルギープロジェクト

 昨年9月、トヨタは青森県六ヶ所村で、風力発電事業を手がける日本風力開発、スマートグリッド技術を持つパナソニック電工、日立製作所と共同でスマートグリッドの実証実験を行ってきた。住宅6戸という、マイクログリッド(小規模スマートグリッド)としてもミニマムな規模だが、風力発電で得られたエネルギーだけで家の電力のすべてを賄うという先進的なスマートタウンだ。

 そこでトヨタが行っているもののひとつに、トヨタスマートセンターというシステムの検証がある。EVや住宅の電力使用状況の情報を受け取り、その時によってEVの充電をしたほうがいいのか、別のことに電力を振り分けたほうがいいのかといったことをある程度自動で制御して、CO2排出量と電気代の安さのバランスが最良となるように集中管理するものだ。また、クルマのバッテリー残量などが端末で視覚的にわかるテレマティクス、トヨタ・スマートビジョンについても知見を得ているという。

 「このプロジェクトは4社のみで行う完全な民間プロジェクトです。それだけに実証実験はとてもフレキシブルに行うことができ、スピード感も素晴らしい。EVをスマートグリッドの中で活用するための要素技術を大いにブラッシュアップできました」(永井氏)。

 技術だけでなく、EVをどう活用すべきかということについてのノウハウも蓄積された。大量の電力を消費するEVをなるべく安価に運用するには、深夜電力の使用が有効とよく言われる。しかし単純に深夜電力帯に充電すればいいというわけではない。深夜電力に切り替わった直後に充電するEVが急増した場合、それだけで電力の状況に大きく影響してしまうからだ。

 この六ヶ所村スマートグリッド実証実験に加え、トヨタはそれよりはるかに規模の大きなスマートグリッド実証実験にも参加する。9月に始まる豊田市の低炭素社会システム実証プロジェクトがそれだ。その実証実験に使うためのトヨタホーム製スマートハウスの販売も6月3日から始められている。永井氏は「そのプロジェクトの中では、トヨタスマートビジョンについてさらに高度な実験を行います。六ヶ所村ではクルマの状態について情報提供を行いましたが、豊田市ではさらに家の情報をプラスして、人、クルマ、家をつなぎます。この実験は、将来的に海外で本格的なテレマティクスを提供するための基盤となるべきもの。非常に重要です」と述べた。

■莫大な通信量などを処理するIT技術が課題に

 必要なところに必要な電力を供給するスマートグリッドを実現するうえで重要な役割を担うのはIT技術だ。EVやスマートホームの数が増え、さらにテレマティクスサービスの提供地域も拡大していけば、通信量や情報処理量は莫大なものになる。それにつれて、トヨタはシステムをロケーションや規模が制限されるセキュアデータセンター方式からクラウド方式へと転換。マイクロソフトと提携し、スピーディに移行を図っていく構えだ。「単にデータの処理だけでなく、不特定多数のデータからユーザーの特徴的な行動を見つけ出すデータマイニングも強化していく」(永田氏)という。

 このように、スマートグリッド下においてEVを有効活用するスキームづくりを加速させているトヨタ。今後は情報通信のハードウェアについても、3GだけでなくWi-Fi、WiMAXなどを多角的に試していくことになりそうだという。

 その一方で、昨今話題になっているV2H(ビークル・トゥ・ホーム)、V2G(ビークル・トゥ・グリッド)など、EVのバッテリーをスマートグリッドに還流させる技術については、国によってニーズ差があるとしながらも、ある程度距離をおいている。

 「電力系統がしっかりしている国では、V2Gの需要は小さいと思います。V2HのほうはV2Gよりはニーズが高いでしょうが、トヨタとしてはそれも急いでやらなければと考えているわけではありません。まずはEVが社会全体における電力消費のじゃまにならないエネルギーの使い方を確立させることが重要。V2Hを本格的にやるとしても、その後の話だと思います」(永田氏)

 自動車メーカーの中で、トヨタはEV側やテレマティクスだけでなく、グリッド側にまで踏み込んだ研究開発を行っている数少ない存在の一社だ。そのトヨタがEV、燃料電池車、プラグインハイブリッドとスマートグリッドの関係づくりでどのような提案を行うか、今後の動向から目が離せない。
《井元康一郎》

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