【テクニカルレポート】3G-LTEにおける制御情報の適応送信技術 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】3G-LTEにおける制御情報の適応送信技術

ブロードバンド テクノロジー
第1図フレーム構成
  • 第1図フレーム構成
  • 第2図 報知情報送信の無線リソース割り当て
  • 第3 図適応オーバーヘッド制御
  • 第1表 オーバーヘッドと割り当て可能PDCCH(ユーザー)数
  • 第2表 CCE数と符号化率(48ビットのPDCCHの場合)
  • 第4図 CCE数の制御によるPDCCHの符号化率制御
  • 写真1
  • 第3表 主要シミュレーション諸元
■要旨

 次世代移動通信システム国際標準である3G-LTE(3rd Generation-Long Term Evolution)向けの高速無線伝送・アクセス制御技術群(OFDM : Orthogonal Frequency Division Multiplexingベースの高速・低遅延無線伝送方式、アクセス制御RRC : Radio Resource Control / MAC : Medium Access Controlプロトコル)を開発し、その規格化に貢献した。高速・低遅延の伝送を行うためには、さまざまな制御情報の送信が必須であり、制御情報伝送の効率化が重要である。筆者らは、報知情報を固定リソースで送信する情報と可変リソースで送信する情報とに分割送信する方法を開発し、セル・トラヒック状況に応じた柔軟な運用を可能とした。また、高スループット伝送に必須の適応データ送信技術に必要となるL1/L2制御情報の送信方法として、帯域割り当て端末数に基づき制御チャネル送信用の全無線リソース量制御を行うとともに、伝搬路品質状況に基づき各端末の制御チャネル割り当て無線リソース量を制御することにより、データ送信の周波数利用率を向上させた。

1. はじめに

 より高速なセルラー移動通信システムの実現に向け、国際標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)において、下り回線で最大300 Mbit/s、上り回線で最大75
Mbit/s伝送を達成する3G-LTEの規格標準化が完了しつつある。筆者らは、3G-LTE向けに高速無線伝送・アクセス制御技術群(OFDMベースの高速・低遅延無線伝送、アクセス制御RRC/MACプロトコル)を開発し、その規格化に貢献した。

 高い周波数利用効率のデータ伝送を実現するためには、高効率な制御情報の伝送が不可欠である。制御情報には、大別して全端末向けの報知情報と個々の端末向けのL1/L2制御情報がある。報知情報は、セル内の全端末に共通する通信に必要な運用パラメータなどの情報であり、L1/L2制御情報は各端末に対するデータ送信用の周波数リソースなどの送信パラメータ情報である。従来のシステムでは、いずれも固定的な無線リソースにより送信されるため、冗長な無線リソースを確保する必要があり非効率であった。

 そこで、柔軟な運用とともに高効率な報知情報伝送のために、報知情報を固定リソースで送信する情報と可変リソースで送信する情報とに分割し、セル環境やオペレータ要求に応じた柔軟な運用を可能とする方式を開発した6) 。また、帯域割り当て端末数に基づきL1/L2制御情報送信のための物理チャネルPDCCH(Physical Downlink Control CHannel)に用いる全無線リソース量の最適化を行う適応オーバーヘッド制御(ACSOC : Adaptive Control Signaling Overhead Control)とともに、伝搬路状況に基づき各端末へのPDCCH割り当てリソース量を制御する制御信号リンクアダプテーション(CSLA : Control SignalingLink Adaptation)を開発した。

 本稿の構成は、次の通りである。第2章で背景となる3GLTEのフレーム構成およびデータ送信技術について述べる。第3章で報知情報の適応送信技術を説明する。第4章でL1/L2制御情報の適応送信技術を説明し、システム評価によりその効果を検証する。第5章で本稿をまとめる。

2. 3G-LTE下り回線データ送信

 3G-LTE下り回線においては、低遅延伝送を実現するため、報知情報は10msの無線フレーム周期で送信され、ユーザーデータは1msのサブフレーム単位で送信される。第1図に、フレーム構成を示す。サブフレームは14OFDMシンボルで構成され、先頭部分のL1/L2制御情報を送信する物理チャネルであるPDCCHを配置する制御チャネル領域とそれに続くデータ送信に用いるPDSCH(Physical Downlink Shared CHannel)を配置するデータ領域で構成される。また、周波数方向に対しては、システム帯域は180kHzの単位のRB(Resource Block)に分割され、報知情報および各端末に対するユーザーデータはRB単位で割り当てられる。

 一般に、移動通信における伝搬路は周波数ごとに変動が異なる周波数選択性フェージング伝搬路となる。そこで、端末へのユーザーデータ送信時には各端末に対してサブフレームごとに伝搬路品質の良好なRBを割り当てる適応周波数スケジューリングを用いる。つまり、各RBに対して伝搬路品質の良好な端末を複数の端末より選択し、割り当てることにより全RBで品質の良好な伝搬路を利用できるため、システムスループットが向上する(マルチユーザーダイバーシチ効果)。基地局は各端末からフィードバックされるRBごとのチャネル品質情報(CQI :Channel Quality Indicator)を用いてPF(Proportional Fair)などのスケジューリングアルゴリズムを用いてRBを割り当てる。また、割り当てたRBで所定のブロック誤り率(一般に10%)を満たす最も高効率のMCS(Modulation and Coding Scheme)で送信する。また、端末側で生じた受信データ誤りを高速に訂正するために再送データを初回受信データと合成して復号するHARQ(Hybrid Automatic
Repeat reQuest)が使用される。

 適応周波数スケジューリングおよびHARQのために、端末ごとのRB割り当て情報、MCS情報、HARQ用再送パラメータが各サブフレームの先頭でPDCCHにより通知される。

3. 報知情報の適応送信技術

 既存システムである3G-UMTS( Universal Mobile Telecommunications System)においては、すべての報知情報はBCH(Broadcast CHannel)という固定的な無線リソースで送信されていた。これはBCHが、基地局に端末が接続する際に最初に受信するチャネルであり、その送信方法をあらかじめ端末が知っておく必要があるためである。これには大きく2つの課題があった。

 1つ目の課題は、常に固定的な無線リソースの確保が必要になることである。必要な報知情報の送信量がネットワーク運用・環境によって異なる。そのため、固定的に無線リソースを割り当てることは非効率であり、報知情報の送信にかかるオーバーヘッドが大きい。

 2つ目の課題は、BCHが固定伝送速度であることである。端末は待ち受け状態で報知情報を受信するため、短い期間でのみ報知情報を送信し、端末の受信時間を短くすることが端末のバッテリー消費を抑え、待ち受け時間を向上させるのに望ましい。しかしながら、固定伝送速度であることから基地局は報知情報を短時間で送ることができない。

 以下に、これらのUMTSでの課題を解決する報知情報の適応送信技術を、報知情報送信への無線リソース割り当ておよび報知情報の合成受信処理の観点で説明する。

3.1. 報知情報送信の無線リソース割り当て

 報知情報の送信量を運用・環境ごとに柔軟に変更するために、固定的な報知情報リソース(PBCH : Physical Broadcast CHannel)と可変的に使用できるPDSCHが報知情報用の無線リソースとして組み合わせて使用される。

 ここで固定的なリソースであるPBCHを用いているのは、前述の通り報知情報は端末が最初に取得する情報であり、端末が基地局からの通知なしに受信できる必要があるためである。端末は固定的なリソースであるPBCHを最初に受信し、PBCHからPDSCHを受信するための最低限の情報を得て、その情報をもとにPDSCHにて送られる報知情報を読む。PDSCHはRB単位で割り当て可能な可変リソースであるため、PDSCHにて送信する報知情報の量は可変である。これにより報知情報に使用するリソース量の変更を実現し、ネットワーク運用・環境により異なる報知情報量に応じた無線リソースの割り当てが可能となる。

 さらに詳細に説明すると、報知情報は、リソース使用の上で次の3つのカテゴリに分類される。

1)MIB(Master Information Block)

・PBCHで送信(10 ms周期でsubframe#0で送信)
・時間リソース、周波数リソース共に固定
・送信情報はPDSCH受信のための情報および無線フレーム番号(SFN : System Frame Number)

2)SIB1(System Information Block1)

・PDSCHで送信(20ms周期でSFNが偶数の無線フレームのsubframe#5で送信)
・時間リソース固定、周波数リソース可変。MIBで通知される情報より受信方法およびタイミングを決定
・送信情報は、識別子情報(オペレータ識別子など)およびSIB2~9のスケジューリング情報

3)SIB2~9
・PDSCHで送信
・時間リソース、周波数リソース共に可変
・送信情報は、ハンドオーバーに必要な情報など

 このように、端末は完全に固定的なリソースで送信されるMIBを読むことでSIB1の受信が可能になる。また、端末はSIB1を受信し、SIB1よりSIB2~9がどのタイミングで送られているかのスケジューリング情報を得てSIB2~9の受信が可能になる。具体的なMIB、SIB1、SIB2~9の送信の例を、第2図に示す。

3.2. 報知情報の合成受信処理

 報知情報はセルに存在するすべての端末に届かせる必要がある。そのため、一度の送信で多くの報知情報量を短い時間で送信するには、多くの無線リソースが報知情報の送信に使われ、端末のデータ送信に割り当てる無線リソースが一時的に不足することが課題となる。

 基地局は報知情報を繰り返し送信することにより、サブフレームあたりに使用する無線リソースを可変にし、この課題を解決する。すなわち、端末のデータ送信に無線リソースを割り当てる必要がある場合には、複数回の繰り返し送信により、サブフレームあたりに使用する無線リソースを低減することが可能である。逆に報知情報の送信により多くの無線リソースが割り当てられる場合には、送信回数を減らして、サブフレームあたりに使用する無線リソースを増加させる。端末は、これらの繰り返し送信される信号をHARQ動作と同様の合成受信処理を行い、ダイバーシチ利得を得る。このように報知情報への無線リソースの割り当て状況により短期間での送信が可能になり、端末の消費電力低減の効果がある。

 上記の動作を効率よく行うために、SIB2~9に対してSIwindow(System Information window)と呼ばれる繰り返し送信を行う期間が設定される。このSI windowはSIBごとに決められており、その時間内のみで報知情報の繰り返し送信を行うことにより、端末は特別な通知なしにSIBごとに合成処理が行える。SI windowの長さおよびSIwindow内の繰り返し送信回数は基地局が設定できる。このため、端末のデータ送信に使用するための無線リソースを考慮しながら、サブフレームあたりの報知情報に使用する無線リソース量を制御でき、端末の消費電力低減を図ることが可能である。

4. L1/L2制御チャネルの適応制御技術

 本章では、データ送信に付随するL1/L2制御チャネル(PDCCH)の適応オーバーヘッド制御(ACSOC)および制御信号リンクアダプテーション(CSLA)について説明し、システムレベル評価によりそれぞれの効果を検証する。

4.1. 適応オーバーヘッド制御(ACSOC)

 必要十分な制御オーバーヘッドで送信するため、サブフレーム先頭の制御チャネル領域のOFDMシンボル数(n)としてn =1~3を制御する(第3図)。制御チャネル領域のOFDMシンボル数は、先頭OFDMシンボルでサブフレームごとに全端末に通知される。第1表に、OFDMシンボル数とオーバーヘッドおよび平均的な割り当て可能PDCCH数を示す。

 一般に、サブフレームあたりに割り当てられる端末数が多い場合にはマルチユーザーダイバーシチ効果が大きいため、多くの制御チャネル領域を設定するのがよい。一方で、制御チャネル領域が大きい場合は、データ送信に用いられる無線リソースが少なくなるため、オーバーヘッドとマルチユーザーダイバーシチ効果のトレードオフが存在する。ACSOCにより基地局はセル内の端末数に応じてnを設定、あるいは、サブフレームごとに最大のスループットが得られるnを設定することにより、スループットを最大化できる。

4.2. 制御信号リンクアダプテーション(CSLA)

 各端末あてのPDCCHそれぞれに対して、必要十分な無線リソースで送信するために、各端末の伝搬路品質に基づいた符号化率制御を行う。一般に、1つのサブフレーム内には伝搬路品質の良いセル中心部の端末および伝搬路品質の悪いセル境界の端末が同時に割り当てられる可能性が高いため、これらの端末へのPDCCH間で無線リソースを共有することにより、PDCCHリソース総量を抑えることができる。

 PDCCHの送信は、CCE(Control Channel Element)と呼ばれる36シンボルから成るリソース単位で行う。つまり、基地局は各端末へのCCE割り当て数を制御することにより、符号化率を制御する。低符号化率が必要な端末にはCCE割り当て数を多くし、高符号化率でも受信可能な端末にはCCE割り当て数を少なくする。第2表に、各CCE割り当て数と符号化率の関係を、第4図にCCE割り当て例を示す。基地局は各端末からフィードバックされるCQIに基づいてPDCCH受信誤り率が1%程度になるように、各端末にCCEを割り当てる。端末はブラインド検出、つまりすべてのCCE数に対して復号し、正しく復号できたときのCCE数を割り当てCCE数として検出する。

4.3. システムシミュレーション評価

 本節では、4.1節および4.2節で説明したACSOCおよびCSLAに対してシステムレベルシミュレーションにより効果を検証する。21セルのセルラー配置において、端末を一様分布に従って配置させてシミュレーションを行った。主要シミュレーション諸元を、第3表に示す。各サブフレームにおいて各端末に対して時間・周波数PFアルゴリズムによりRBを割り当てる。つまり、過去の送信データ量と現在の伝搬路品質を考慮した、端末間の公平性を保ちつつ伝搬路品質の良好な端末を割り当てるための割り当て優先度P(RBm, Usern)をRBごと、端末ごとに計算し、最も優先度の高い端末を割り当てる。さらに、PDCCHに必要な無線リソースつまりCCEを割り当てる。十分なPDCCHリソースがなければその端末は割り当てない。上記の動作は、次のアルゴリズムで実現される。

 また、ACSOCの場合には、各制御チャネル領域OFDMシンボル数(n)について上記で示した端末割り当てを実施し、割り当てた端末の合計の優先度、つまりΣP(RBm,Usern)が最大となるn を採用する。このとき、サブフレームごとのスループットが最大となる。

{1}ACSOCの評価

 第5図に、PDCCH領域として固定OFDMシンボル(n =1,2, 3)とした場合と1~3OFDMシンボルをサブフレーム単位で制御した場合(ACSOC)のセルあたりの端末数に対するセルスループット特性を示す。固定OFDMシンボルの中ではn =2が総じて良好な特性を示している。ACSOCは最も性能が良く、n =2に比べて端末数10の場合で3%スループットが改善している。これは、データスループットを最大にするようPDCCHオーバーヘッドが制御されているためである。

{2}CSLAの評価

 第6図に、各端末に割り当てるPDCCHのCCE数を固定(2, 4, 8 CCE)にした場合と端末ごとにサブフレーム単位で制御した場合(CSLA)の端末移動速度に対するセルスループットを示す。なお、1 CCEの場合は符号化率(R=2/3)が高くセル端において十分な品質で受信できないため評価対象外とした。第6図において、端末の移動速度が速くなるほどスループットは劣化しているのは、端末の伝搬路品質の変化が激しくCQIの精度が劣化することにより、周波数スケジューリング効果が減少するためである。第6図より、固定CCEで最も良い特性である2CCE固定の場合に対して3km/hにおいて5%、120km/hにおいて10%のセルスループットが改善されることがわかる。これは、CSLAでは端末の受信品質に応じて最小の無線リソースでPDCCHを送信できるためである。

5. まとめ

 3G-LTE向けの制御情報の適応送信技術として開発および規格化に貢献した、報知情報適応送信とL1/L2制御情報のACSOCおよびCSLA送信について述べた。報知情報適応送信では、全端末に共通な報知情報を固定リソースで送信する情報と可変リソースで送信する情報とに分割し、セル環境やオペレータ運用に応じた柔軟な運用と割り当て無線リソースの最適化を可能とした。また、L1/L2制御情報に対するACSOCおよびCSLAは、端末ごとにデータ送信パラメータを通知するL1/L2制御情報伝送に用いる無線リソース量の最適化を可能とし、システムレベル評価により、ACSOCにより3 %、CSLAにより5 %~10 %のセルスループットが改善されることを示した。


■執筆者(敬省略)

・西尾昭彦Akihiko Nishio
東京R&Dセンター次世代モバイル開発センター
Next-Generation Mobile Communications
Development Center, Tokyo R&D Center

・青山高久Takahisa Aoyama
東京R&Dセンター次世代モバイル開発センター
Next-Generation Mobile Communications
Development Center, Tokyo R&D Center

・クリスチャンベンガーター
Christian Wengerter
パナソニックR&Dセンタードイツ(有)
Panasonic R&D Center Germany GmbH

・今村大地Daichi Imamura
東京R&Dセンター次世代モバイル開発センター
Next-Generation Mobile Communications
Development Center, Tokyo R&D Center

・鈴木秀俊Hidetoshi Suzuki
パナソニックモバイルコミュニケーションズ
(株) 通信システム開発センター
Communication System Development Center,
Panasonic Mobile Communications Co., Ltd.

※同記事はパナソニック株式会社の発行する「パナソニック技報」の転載記事である。
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