【テクニカルレポート】次世代携帯電話向け端末MIMOアンテナの屋外電波伝搬評価……パナソニック技報 | RBB TODAY

【テクニカルレポート】次世代携帯電話向け端末MIMOアンテナの屋外電波伝搬評価……パナソニック技報

ブロードバンド テクノロジー

第1図:MIMOアンテナシステム
  • 第1図:MIMOアンテナシステム
  • 第2図:端末MIMOアンテナ
  • 第3図:端末MIMOアンテナの放射指向性
  • 第4図:リアルファントム
  • 第5図:ファントム保持における放射指向性
  • 第6図:伝搬実験の概要と基地局アンテナ
  • 第1表:実験諸元
  • 第7図:オールボー市街地におけるテストルート
 本稿では、次世代携帯電話規格(3G-LTE(3rd Generation-Long Term Evolution)、IMT-Advanced(第4世代))で導入が決定しているMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナに対する屋外電波伝搬実験の実施結果について記す。筆者らは、デンマークのオールボー大学と共同でオールボー市の中心部において電波伝搬実験を行い、端末MIMOアンテナのフィールド評価を行った。特に、携帯電話の使用者からの影響を調べるために、使用者を模擬した当社独自の電磁ファントム(擬似人体)の有無によるMIMOチャネル容量の変化を調べた。さらに、放射パターンやアレー構成、電波伝搬の観点で、MIMOアンテナに対する人体影響のメカニズム解明を試みた。本実験により、端末MIMOアンテナは建物に挟まれたストリートマイクロセルにおいて進行方向に向いて移動した場合に、人体効果によりMIMO特性が約10%向上する場合があることを明らかにした。

1. はじめに

 近年の携帯電話の高速化に伴い、携帯電話を用いたインターネット検索やナビゲーションといったアプリケーションサービスの普及が進みつつある。これに伴い、携帯電話においてもデータ伝送の高速化のニーズが高まり、次世代携帯電話規格である3G-LTE(3rd Generation-LongTerm Evolution)の規格化が検討されてきた。次世代携帯電話規格である3G-LTEでは、無線伝送の高速化を実現するための新技術として、複数のアンテナを用いたMIMOアンテナの採用が決定している。MIMOアンテナは、第1図に示すように送信機側と受信機側で複数のアンテナを備え、空間的にデータストリームを多重することで伝送速度の高速化を可能にする。

 そこで、筆者らは3G-LTEを想定した端末MIMOアンテナの開発を進めるとともに、MIMOアンテナの実力を評価するために市街地においてフィールド実験を行った。フィールド実験は、デンマークのオールボー大学との共同研究プロジェクトとして、オールボー市の中心部で実施した。特に、実際に使用されるセルラー環境下で、人体が端末MIMOアンテナへ及ぼす影響について述べる。

2. 端末アンテナとファントム

 まず、電波伝搬実験に使用した端末アンテナと人体をモデル化した電磁ファントム(擬似人体)を示す。さらに、フィールド実験を行った2.4GHz帯における端末アンテナの放射特性を示す。

2.1. 端末MIMOアンテナ

 第2図に、端末MIMOアンテナの構造を示す。MIMOアンテナは、2つのモノポールアンテナ(MONO1、MONO2)と2つの板状逆Fアンテナ(PIFA1、PIFA2)により、4素子アレーアンテナの構成とする。いずれのアンテナも中心周波数2.4GHzで動作するように設計した。第3図に、端末MIMOアンテナ(MONO1、PIFA1)の水平面における放射指向性を示す。第2図(b)に示すように、電磁ファントムに保持された状態と同様に、端末を鉛直より40 °に傾けて設置した。第3図(a)より、MONO1は垂直偏波が強く、全方位に対してほぼ一様な放射パターンを示していることがわかる。一方、第3図(b)より、PIFA1は垂直偏波と水平偏波がほぼ同じ強さであることがわかる。

2.2. 電磁ファントム

 第4図に、電磁ファントムを示す。このファントムは独自で開発を進め、インターネットやE-mailを行っている使用者を模擬し、20代から30代の日本人男性の平均体型寸法を基に作製した。電磁ファントム(以下、ファントムと記す)は、人体表面を内寸とする約3 mm厚のプラスチック樹脂容器に人体等価溶液を満たすことで、アンテナに対する人体からの電磁的影響を再現する。

 第5図に、ファントムが端末MIMOアンテナを保持したときのMONO1とPIFA1の放射指向性(Phantom)を示す。測定周波数は2.4GHzである。図には、比較のために実際に人間が端末アンテナを保持したときの放射指向性(Operator)を併せて示す。ここで、端末MIMOアンテナと胸との距離(D)を20 cmとし、端末の傾け角度を40 °とした。第5図より、ファントム保持における放射指向性は人体保持とよく一致しており、ファントムの有効性が確認できる。また、いずれのアンテナの放射指向性も+X方向に強く放射されていることがわかる。これは、ファントムがアンテナに対して反射板的な動作をしたためである。

3. フィールド実験の評価システム

 第6図(a)に、フィールド実験(屋外伝搬実験)の概要を示す。実験では基地局アンテナから電波を放射して、端末アンテナで受信信号を取得した。端末MIMOアンテナはファントムに保持させ、牽引(けんいん)車により移動させる。移動速度は、約20 km/hとした。実験では、電波の受信状態を調べるために、基準アンテナであるダイポールアンテナの受信信号も同時に取得した。第6図(b)に示すように、基地局アンテナは8本のアンテナ素子で8素子リニアアレーを構成した。いずれのアンテナ素子も垂直偏波を放射する。このうちアンテナ素子の間隔が2波長となる#5~#8の基地局アンテナ素子を用いて4×4のMIMO評価を実施した。実験の諸元を、第1表にまとめる。

 第7図(a)に、実験を行ったデンマークのオールボー市の中心部におけるテストルートを示す。図にはテストルート周辺の建物の高さを記載した。基地局(Base station)周辺の建物は高さが平均して15m以上あり、基地局(14.5m)よりも高い。

 次世代携帯電話では、高速無線通信のサービスは、開始当初、都市部を中心として行われることが想定されるため、テストルートは都市中心部に設定した。通常、携帯電話では基地局アンテナを見通せない環境(見通し外環境)で使用されることがほとんどであり、また次世代携帯電話の基地局のカバーエリアは数十メートルから数百メートルのマイクロセルが想定される。そこで、テストルートは基地局アンテナから見通し外となる一般道路のうち、長方形の周回ルートを選択した。このうち、本稿では両側を建物に挟まれたルートII(134.9m)に注目して、このルートの実験結果を基に解析を行う。第7図(b)に評価を行ったテストルートIIの写真(P点付近)を示し、第7図(c)にQ点の建物の写真を示す。

4. MIMO電波伝搬実験
4.1. 端末アンテナの受信信号特性

 第8図に、ファントム保持における端末MIMOアンテナの受信信号の電力変化を示す。第8図には、基地局アンテナ素子のうち#5が電波を放射した場合の受信信号を示した。第8図より、おおむねモノポールアンテナの受信電力が強いことがわかる。これは、基地局アンテナからの放射電波が垂直偏波であり、垂直偏波の放射指向性が強いモノポールアンテナの受信電力が大きくなったためである。さらに、第8図より、30mと100mで受信電力が大きくなっていることがわかる。第7図(a)より、30 m近傍ではP点からの回折波、100m付近ではQ点からの反射、回折波が強いことが想定される。いずれもファントムの前方より到来する電波である。

 第2表に、端末MIMOアンテナの伝搬チャネル間の相関係数を示す。相関係数は、複素相関係数の絶対値を示した。第2表より、異なるアンテナ間の相関係数は0.2から0.6であり、本端末MIMOアンテナはアンテナ間隔(最短:0.28波長)が狭いにもかかわらず、相関が小さいことがわかった。

4.2. MIMO伝搬特性

 本節では、フィールド実験により得られたMIMO受信信号からMIMOチャネル容量を算出し、MIMO特性を評価する。送信アンテナがnT本、受信アンテナがnR本であるときのMIMOチャネル容量(MIMO伝送容量)は、シャノンの定理より次式で与えられる。

 (1)式において、InRはサイズがnRの単位行列であり、SNRは信号対雑音電力比であり、Hは伝搬チャネル行列である。また、式中の|・|は、行列式を表している。(1)式で示されるように、MIMO特性は受信電力により定まるSNRと、H で示される伝搬チャネル間の相関係数により決まる。すなわち、受信電力が大きく相関係数が小さいことが、MIMO特性を向上させる条件である。また、基本的な無線通信としての1送信アンテナと1受信アンテナで構成されるSISO(Single Input Single Output)のチャネル容量は、次式で与えられる。

 (2)式において、hは伝搬特性であるチャネル応答である。

 第9図に、ルートIIにおける4×4MIMOチャネル容量を示す。また、比較として、MONO1とPIFA1におけるSISOのチャネル容量も併せて示す。図に示すように、MIMOにより、飛躍的にチャネル容量が増加していることがわかる。また、第9図より、MIMOチャネル容量は20 mから30mの区間と100m付近で大きくなっていることがわかる。

 第8図の受信電力特性と比較すると、いずれの区間もモノポールアンテナとPIFAともに受信電力が大きくなり、受信電力の向上が特にMIMOチャネル容量の向上に大きく寄与していることがわかる。また、第2表より、相関係数が小さくMIMO特性への影響が小さいことから、今回の測定では受信電力がMIMO特性を決定する主要因であったことがわかる。

 第10図に、自由空間における端末MIMOアンテナと平均チャネル容量を比較した結果を示す。図には、4×4MIMOだけでなく、4つの端末アンテナ素子のうち2つのアンテナ素子の受信信号を用いて算出した2×2MIMO、および単一の受信アンテナ素子のSISOにおける平均チャネル容量も併せて示した。第10図より、いずれの場合においても、ファントム保持のチャネル容量は自由空間よりも増大したことがわかる。第11図に、自由空間に対するファントム保持の平均MIMOチャネル容量比を示す。第11図より、チャネル容量の向上は108%から122%であることがわかる。一般的には、ファントム保持によりアンテナの放射効率が低下するためMIMO特性が劣化すると考えられる。しかしながら、今回の実験条件では、ファントム保持によりSISOおよびMIMO特性が向上した。そこで、このMIMO特性が向上する要因について以下に考察する。

 第7図(b)より、テストルートIIは両側を建物に挟まれていることがわかる。文献より、建物に挟まれた道路では、道路に沿った方向から電波が集中して到来することが知られている。これは、道路の両側に建物があり、横からの電波が阻止されるためである。これより、テストルートIIにおける到来波分布は、道路方向に集中していること想定される。一方、第7図(a)と第8図より、テストルートIIでは、30m付近まではP点からの回折波が強く、100m近傍ではQ点の建物(第7図(c))の角からの反射波と回折波が強いことが推測される。すなわち、ファントムが道路方向を向いて移動した場合は、ファントムの前方向から電波が強く到来することになる。ここで、第5図より、アンテナの放射指向性はファントムの前方向に強いことがわかる。以上より、ファントム前方より到来する電波を、ファントムによって前面へ強い指向性をもつアンテナで効率よく電波を受信することができる。ファントム保持において、SISOおよびMIMOチャネル容量が増加したのはこのためである。

5. まとめ

 今回、将来の次世代携帯電話規格である3G-LTEの携帯端末を見据えて、端末MIMOアンテナに対する使用者からの影響を調べるために、世界に先駆けて電磁ファントムに保持させたMIMOアンテナのフィールド実験テスト(屋外伝搬実験)を実施した。これにより、端末MIMOアンテナは建物に挟まれたストリートマイクロセルにおいて進行方向に向いて移動した場合に、人体効果によりMIMO特性が約10%向上する場合があることを明らかにした。今後は、MIMOアンテナ素子間の電磁結合や相関係数、受信電力差が、実際の環境において端末MIMOアンテナに与える影響を調べる予定である。

 最後に、本実験を行うにあたり、共同研究の枠組み内で、実験機材のご提供、ならびに実験をサポートしていただいたデンマークのオールボー大学のペダーセン教授ならびにメンバーの皆様に、心より感謝いたします。


■執筆者(敬省略)
・山本 温 Atsushi Yamamoto
PE技術開発室
Printed Electronics & EMC Technology
Development Office

・林 俊光 Toshiteru Hayashi
パナソニックモバイルコミュニケーションズ
(株) 通信システム開発センター
Communication System Development Center,
Panasonic Mobile Communications Co., Ltd.

・小川晃一 Koichi Ogawa
PE技術開発室
Printed Electronics & EMC Technology
Development Office
工学博士


※同記事はパナソニック株式会社の発行する「パナソニック技報」の転載記事である。
《RBB TODAY》

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