日韓エンタメ交流は、ついに“バラエティの距離感”に踏み込む。
ドラマのリメイク、K-POPアイドルの日本活動、韓国俳優の日本ドラマ出演、歌番組での共演。そうした動きは、すでに珍しいものではなくなっている。
ただ、6月7日から放送予定の新バラエティ番組『黙って日韓戦』(原題)は、少し意味が違うといえるかもしれない。
作品やステージを通じた交流ではなく、韓国人と日本人の違いを、会話、リアクション、勝負、ツッコミのなかで見せる番組だからだ。
韓国KBS Joyの新番組『黙って日韓戦』は、日本人と韓国人の間で起きる些細な立場の違いから、感情が混じった現実のもめごとまで、さまざまな問題をゲームで解きほぐすバラエティ番組と紹介されている。
タイトルこそ強いが、制作側の出発点はかなりバラエティ的だ。6月2日の制作発表会でシム・ソヒPDは、「どうすれば一番面白いじゃんけんができるか」という問いから始まった番組だと説明し、「しょぼいゲームで緊迫した場面を演出するために日韓戦を導入した」と語っている。
MC兼ゲーム審判を務めるのは、ガールズグループSAY MY NAMEの日本出身メンバー、本田仁美だ。彼女はAKB48、IZ*ONEを経て韓国で再デビューした経歴を持ち、日本と韓国の両方でアイドル活動を経験している。
さらに番組には、韓国のお笑い芸人イ・スグン、ファン・ジェソンに加え、日本のお笑い芸人ウエスP、ガリットチュウの福島善成もレギュラー出演する。

この布陣からも、番組の狙いははっきりしている。日本人出演者が単なるゲストとして呼ばれるのではなく、番組の構造そのものに入っている。しかもテーマは、韓国人と日本人の間で起きる立場の違いや、感情のズレだ。
ここに、面白さと危うさが同時にある。
ドラマや歌番組とは違う“バラエティの近さ”
これまでの日韓エンタメ交流は、比較的“整えられた形”で進んできた。
ドラマのリメイク、韓国俳優の日本ドラマ出演、日本俳優の韓国コンテンツ出演。K-POPとJ-POPの境界も徐々に薄くなり、日韓の出演者が同じステージに立つことも増えている。
こうした交流は、基本的に作品やパフォーマンスを通じて行われる。ドラマであれば脚本があり、演出があり、編集がある。音楽番組であれば、完成されたステージが中心になる。多少の文化差があっても、視聴者が見るのは完成されたコンテンツだ。
一方、バラエティは違う。出演者の言葉遣い、リアクション、ツッコミ、いじり方、負けたときの表情、相手への距離の詰め方まで、その場の空気として見えてしまう。
だからこそ面白い。そして、だからこそ危うい。

日韓は食事、流行、アイドル文化、ドラマ、恋愛観、ファッションなど、似ている部分は多い。だが、笑いの取り方、敬語の感覚、上下関係、謝り方、いじりと失礼の境界線には、まだはっきりとした違いがある。
この“近いのに違う”という関係は、バラエティにとって非常においしい題材だ。
日本では親しみの表現になり得るくだけた言葉遣いが、韓国では無礼に見えることがある。韓国では自然な年齢や序列への配慮が、日本側には過剰に感じられる場面もある。そのズレをゲームやトークで可視化できれば、かなり面白い番組になる期待があるだろう。
『黙って日韓戦』は、まさにそのポイントを突こうとしているように見える。
ただし、日韓の違いを笑いにする番組は、扱い方を間違えるとすぐ火種になるリスクがある。
たとえば、日本のバラエティでは、軽いタメ口やいじりが親しみとして受け止められることがある。相手との距離を縮めるために、あえてくだけた言い方をすることもある。しかし韓国では、年齢や上下関係、初対面での言葉遣いに対する感覚が日本より厳しく見られる場面が多い。
実際、俳優の佐藤健が歌手カンナムのYouTube番組に出演した際、年上のカンナムに対して「ありがとう」とタメ口で挨拶したことが、韓国視聴者の一部から批判されたことがあった。
2人の年齢は近く、佐藤健は「じゃあもうほとんど同級生だね」と笑っていたが、このやり取りに対して、「無礼に見える」「韓国文化への尊重がない」との声が上がったのだ。

本人に悪意があったかどうかとは別に、視聴者は自国の文化感覚でそのシーンを見る。バラエティは、その危うさを避けにくい。
ドラマなら、失礼に見えそうな場面も脚本や演出の中に置かれるため、出演者本人の態度として問題化しにくい。音楽番組なら、そもそも会話よりパフォーマンスが中心だ。だが、バラエティは会話のズレや感情の温度差をコンテンツにする。
笑いにするつもりの一言が、相手国の視聴者には見下しに見えることがある。盛り上げるための対決構図が、ナショナリズムの煽りに見えることもある。「日本人はこう」「韓国人はこう」という雑な分類に流れれば、すぐに反発を呼ぶ。
距離が近くなるほど、楽しみは増えるが、同時に誤解の可能性も増えるわけだ。
本田仁美を起用する意味
その意味で、本田仁美がMC兼ゲーム審判を務めることは大きいかもしれない。
本田仁美は日本出身でありながら、韓国でもアイドルとして活動してきた。AKB48、IZ*ONE、そしてSAY MY NAMEというキャリアを通じて、日本式のアイドル文化と韓国式のアイドル文化の両方を経験している。

番組側も、本田仁美について「流ちょうな韓国語」を評価し、韓国と日本の両方でガールズグループ活動をしてきた経験をもとに、愉快な笑いを引き出すことへの期待を示している。
日韓の間に立つ番組では、こうした存在が重要になる。単に日本語と韓国語を訳せるという話ではなく、どのいじりが冗談として通じ、どこから失礼に見えるのかという空気を読める出演者がいるかどうかで、番組の印象は大きく変わる。
本田仁美は、まさにその橋渡し役として起用されたのだろう。
一方で、日本のお笑い芸人がレギュラー出演することも興味深い。
ウエスPや福島善成は、日本のお笑いの文脈を背負って韓国のバラエティに出演することになる。日本では成立する身体表現やボケ、リアクションが、韓国の視聴者にどのように受け止められるのか。逆に、韓国側のツッコミや進行を日本人出演者がどう受けるのか。
そこには、日韓バラエティ交流ならではの実験性がある。
近年の日韓エンタメ交流では、距離が縮まったからこそ起きるトラブルも増えている。
ドラマのリメイクでは、原作ファンの比較が避けられない。俳優の言動が相手国の視聴者に批判されることもある。スキャンダルに巻き込まれた俳優が、国境を越えた作品のなかで扱いの難しい存在になった例もある。
たとえば、日曜劇場『キャスター』に出演した俳優キム・ムジュンは、主演女優をめぐる日本側のスキャンダル報道に巻き込まれる形で、出演場面が大きく減ったと受け止められた。本人側は熱愛説や二股説を否定したが、作品のなかでは事実上“退場”したように見え、韓国側でも同情の声が出た。

こうした例は、日韓エンタメ交流が深まるほど、作品や番組の外側で起きた問題まで互いに影響し合うことを示している。
近づけば、相手の良い部分だけでなく、ズレや弱点も見えてくる。
それは日韓関係に限らず、どんな関係でも同じだろう。バラエティ交流は、その“近さ”を最も生々しく見せるジャンルかもしれない。完成されたドラマや音楽よりも、出演者の距離感がむき出しになる。だから笑えるし、だから燃えやすい。
『黙って日韓戦』が目指しているのは、重い日韓対立ではなく、しょぼいゲームを全力で盛り上げる“笑える日韓戦”なのだろう。

だからこそ問われるのは、違いを雑に消費するのではなく、互いの笑い方や距離感をどこまで面白がれるかだ。
ドラマや音楽で互いを知る段階から、バラエティで互いのズレを笑い合う段階へ。『黙って日韓戦』は、日韓の違いを笑いながら受け止めるコンテンツになれるのか。そこに、これからの日韓エンタメ交流の成熟度が表れそうだ。
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