現役時代に日本でも活躍したイ・スンヨプ氏が、成績不振の責任を取って斗山(トゥサン)ベアーズの監督を辞任した。就任からわずか2年半での出来事に、韓国では「スター選手の監督挑戦」の難しさが叫ばれている。
イ・スンヨプ氏は2022年10月、斗山の第11代監督として就任した。契約総額は3年総額18億ウォン(日本円=約1億8698万円)で、契約金3億ウォン(約3113万円)+年俸5億ウォン(約5189万円)。いくら現役時代に“国民打者”と呼ばれたスター選手とはいえ、コーチ歴もない“指導者経験ゼロ”の人物としては破格の待遇だった。
だが、結局は契約期間を最後まで満たすことができず、その座を退くことになった。
就任1年目の2023年シーズンは10球団中5位、翌2024年シーズンは4位で2年連続ポストシーズン進出を果たしたが、ファンの期待値は下回った。特に、2024年のワイルドカード決定戦では正規リーグで下位だったKTウィズに敗れ、“史上初のアップセット”を許すなど、その手腕には常に疑問符がついて回った。
今季はシーズン序盤から負傷者が続出し、主力ベテラン選手の不振も目立った。そんななかで順位は23勝3分32敗で9位、1位とは9ゲーム差と低迷し、ファンの批判も高まっていた。
“指導歴ゼロ”でも新庄監督は成功したが…
現役時代はサムスン・ライオンズ、千葉ロッテマリーンズ、読売ジャイアンツ、オリックス・バファローズで活躍したイ・スンヨプ氏は、日韓通算626本塁打を記録。韓国代表では2006年WBCベスト4や2008年北京五輪金メダルなどを経験し、「国民打者」「スンちゃん」などの愛称で日韓で親しまれた。

ただ、引退後は解説業などで現場に近い位置こそいたが、監督はおろかコーチを務めた経験もなかった。Netflixでも配信中のJTBC野球バラエティ番組『最強!野球団』で監督を務めはしたが、これが正式なキャリアとはならない。斗山がまさに人生初の指導者挑戦となったわけだ。
日本プロ野球(NPB)では北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督を筆頭に、指導歴のない元スター選手を監督に据えるケースが多い。
ただ、韓国プロ野球ではイ・スンヨプ氏が初のケースであり、“経験不足”と指摘されるのは仕方がない。日本でも成功した監督より、失敗した監督が多いと見ても差し支えない。
実際、イ・スンヨプ氏本人が苦労する様子も見られた。特に試合運びでは疑問が残る場面が散見され、とある解説者は「監督としての“色”が見えない」と酷評した。昨季は指導歴30年のパク・フンシク氏をアシスタントコーチに据えたが、彼も1年でチームを去った。
結局、行きつくところは「経験」だ。まずはコーチ業からスタートし、現場で段階を踏んで監督を目指すことが良いという見方が改めて指示されている。韓国プロ野球では現役時代に優れた実績を残したスター選手が、引退後に指導者へ転身せず、タレントなどで活躍するケースが多い。
それにはさまざまな理由が考えられるが、薄給で仕事量の多い新人コーチの道を好まないというのも一因だろう。解説者を務めたり、タレントとして活動したりする方がはるかに大金を稼げるのも事実だからだ。だからか、現場からは「良いコーチがいない」という嘆きが聞こえてくる。

仮にイ・スンヨプ氏が成功していれば、スター選手から監督になるケースが増えていた未来もあるだろう。だが、現実は甘くなかった。今回の辞任劇によって、むしろ監督業を躊躇するスター選手が増加することになるかもしれない。
指導者の道は決して簡単ではない。外から見える景色と、実際に現場に立って采配を振るう責任の重さには大きな隔たりがある。このことを強く実感したイ・スンヨプ氏の辞任だった。
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