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【仏教とIT】第29回 井の中の日本仏教、ライブ配信を知らず

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【仏教とIT】第29回 井の中の日本仏教、ライブ配信を知らず
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読経の力を伝えたい



夕方6時。
浄土宗安養寺(兵庫県神戸市)の本堂で、「ようこそお参りくださいました」と清水良将さん(35)が話し始める。しかし、そこにお参りしている檀家さんは誰もいない。語り掛ける先は、配信用のカメラとマイクの向こう側にいる人たちである。



清水さんは、今年4月5日から一日も欠かすことなく、YouTubeチャンネル「りょーしょーお寺チャンネル」で夕方のお経配信を続けている。

オンラインの参拝者に「今日もお経配信を始めます」とアナウンスをし、20分ほどの読経をつとめる。その後、YouTubeのチャット機能を使って雑談の時間を楽しむ。コロナ禍のなかで仏教系の配信コンテンツも増えたが、その多くは法話だった。しかし、清水さんはあえて読経をメインにすえた。読経の響きには、社会に安寧をもたらす大きな力があると信じるからである。とりわけ、未来が見えず不安な時期にあって、人々とともに祈る時間を共有したいという願いもあった。



「法事やお葬式の読経は退屈だと思われています。日頃から読経を聞いていないとやむをえないでしょう。でも、古くは後鳥羽上皇から寵愛を受けた松虫・鈴虫の二人が、美声で評判だった住蓮と安楽のお経に酔いしれて出家を遂げ、住蓮と安楽は死罪に処せられたという歴史上の大事件もあります。読経というのは、人々の心を魅了するほどの力を持ちます。実際、配信していると『音が心地よいのでナマの読経を聞きたい』という声がよく寄せられます」
読経配信への参詣者は70~80人ぐらい。ほぼすべてが面識のない人たちだ。読経をして雑談していると、カメラの向こうで参拝者の家族が清水さんの声につられて集まり、はからずも一家団らんをもたらすことも。参拝者の住む地域は、日本国内だけではない。アメリカ、タイ、シンガポールなど海外に滞在中の日本人のお参りもある。「コロナ禍で親族の中陰に帰れないからここでお参りしています」と感謝されるケースもあるという。


時代遅れの日本仏教



コロナ禍のため今は日本にいる清水さんだが、毎年、5ヵ月ほどをインドに滞在し、お釈迦さまが悟りを開いた地ブッダガヤにある仏心寺の運営にあたっている。仏心寺は、2001年に7人の日本人僧侶によって建立された新しいお寺で、家庭が貧しくて学校にいきづらい子供たちのためにチルドレンスクールを開校しているほか、宿坊として世界各国の旅行者を日々受け入れている。

チルドレンスクールの生徒や地元の人たちとの法要。仏心寺本堂にて


仏心寺にいると、世界各国の仏教事情が清水さんの耳に入ってくる。そこから見えてきたのは、檀家制度という旧習にこだわって変わろうとしない、日本仏教のクローズドな姿だった。
「海外では、仏教を伝えるためなら、YouTubeであれSNSであれ、手段を選びません。お坊さんがYouTubeチャンネルを持つのも普通の光景です。法要に関しても、配信とセットで行うのが国際標準です。チベット仏教だと法要にテレビカメラが入るのさえ当たり前で、10日間の法要をすべて生中継することもあります」
また、清水さんが毎日のYouTube配信で、読経のあとに雑談の時間を設けるのも、海外のお坊さんの布教スタイルを参考にしている。
「海外のお坊さんはよく、大事なのはティーチングではなくトーキングだと言います。私たち僧侶は、心のよりどころを当たり前のように持っています。日々の生活のなかに祈りの時間が組み込まれています。世間とは違うものの見方をしていますから、そのことが会話の言葉の端々から伝わるなら、雑談がそのまま法話になるんです」

ラオス、チベットの僧侶とともにタイのお寺で法要をつとめ、記念撮影




スマホに入り込め】



読経配信に僧侶が取り組むのは現代の必然だと受け止めていたところに、突如訪れたコロナ禍。配信を始めないわけにはいかなかったし、また、コロナ禍が落ち着いても継続できるような形をとりたいと考えた。したがって、「毎日の勤行にカメラとマイク設置するだけのことです」「お参りの方との雑談もお寺では当たり前の光景です」と、お坊さんの普段どおりの生活をただオンライン化することにした。
とはいえ、清水さんなりの工夫もある。
一つには、配信映像のライブ感。スマホの画面と音声がお堂の代わりになるから、画質、そして特に音質にはこだわる。スマホのカメラではなく一眼レフを設置し、マイクは読経の声だけでなく木魚の音も綺麗に拾えるように2本立てる。「力強い読経をクリアな音質で届けることで、祈りの時間を共有できています」という。

読経中の清水さん。経本や木魚とならんで、マイクが2本設置される



それから、配信する時間帯。お寺の勤行といえば早朝のイメージがあるが、あえて夕方6時配信開始としたのは、「夕方のほうが一日の仕事や家事で疲れているから、読経や雑談で一息つきたい人が多い」からだという。
さらには、毎日配信すること。「馴染みの居酒屋に行って、いつものマスターがいると安心しますよね。同じように、仕事帰りの決まった時間にスマホを見たら、いつものお坊さんが画面に映る。その安心感ってあると思うんです」と、毎日スマホ上に姿を見せることの意義を語る。
清水さんは、使用している機材などの情報も提供し、日本でも多くのお坊さんが読経配信することを期待している。また、コロナ禍が落ち着いたら、他のお寺にお参りしてそこから配信したりするなども試みたいという。その言葉の端々からうかがわれるのは、海外の仏教事情から学んだ「伝える」ことへの飽くなき熱意である。

配信に使用している機材


「一人一台スマホを持つ時代です。自宅でも、通勤中でも、仕事場でも、そしてトイレの中でも、スマホを使っています。スマホから人々の日常のなかに入り込まずに、現代の布教はありえないです」
このような清水さんの指摘が、日本ではまだまだ斬新に響く。要するに、日本仏教は井の中の蛙である。こと配信においては極めて遅れをとっている。清水さんの知見と行動から、日本仏教のIT化が進み、スマホありきの現代生活のなかに仏教が根差し、祈りのある暮らしがもたらされることを願う。



池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。

■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
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《池口 龍法》
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