【仏教とIT】第6回“有難さ”から“バズ”へ――SNS時代の門前掲示板 | RBB TODAY

【仏教とIT】第6回“有難さ”から“バズ”へ――SNS時代の門前掲示板

門前の言葉で賞レース

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【仏教とIT】第6回“有難さ”から“バズ”へ――SNS時代の門前掲示板
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門前の言葉で賞レース



今年5月にスタートしたこの連載の初回に、

「門前の掲示板、通りがかりの人がけっこう読んでくれてます。だから、読んだ人が写真撮ってSNSに投稿したくなるように言葉を考えてます」

とお坊さん仲間で雑談していた話を書いた。その時点ではまさかこんなに早く、お寺の掲示板の言葉を競う賞レースが企画されるとは、思ってもみなかった。旧知のお坊さんからその構想を聞いたのは、5月末ごろだった。彼いわく、「最近、ツイッターなどのSNSに、ときどきお寺の掲示板の言葉や画像があがってくる」「話題性のあるお寺の掲示板の言葉を投稿してもらって、表彰する仕組みを作りたい」という。ついては、「私がこれまで書いてきた掲示板の画像を提供してほしい」とのことだった。私はもちろん協力を約束した。

そんなやりとりからしばらく経って、今年7月、「輝け!お寺の掲示板大賞2018」(主催:公益財団法人仏教伝道協会)が始まった。エントリーの方法は、ふと門前を通って掲示板に良い言葉が書かれていたら、ツイッターやインスタグラムにハッシュタグ「#お寺の掲示板大賞2018」をつけて投稿するだけである。

本稿をご覧の皆さまも、ユニークな掲示板を見かけたら、以下のリンク先に記載の応募要項を参照のうえ、写真をSNSに投稿してみたらどうだろう。応募期限は10月末日である。うまくいけば豪華賞品がもらえる。ハッシュタグを追いかけてみるだけでも、お寺めぐりをして心洗われる気分が味わえるだろう。

※「輝け!お寺の掲示板大賞2018」(http://www.bdk.or.jp/kagayake2018/)


ポケモンGO×お寺の掲示板



仏教は、お釈迦さまの時代以来、気づきをもたらす言葉で人を導いてきた。いまでも、気の利いた法話で参列者の心をつかむべく、お坊さんたちは日々知恵を絞って“有難い言葉”をクリエイトしている。これから年末にかけては各宗派がこぞってカレンダーを制作し、毎月の“有難い言葉”を檀信徒の各家庭に届けるのが習わしである。

そう考えると、お坊さんたちは業界をあげて、日々コピーライティングに励んでいることになる。門前の掲示板の“有難い言葉”が話題になるほど人々の心をつかむのも、由縁なきことではないのである。

しかしながら、門前の掲示板であれ、家庭用のカレンダーであれ、従来のコピーライティングのスタイルは、“有難さ”を競うものだった。たとえば、浄土宗のカレンダーは、管長クラスの高僧が筆をとって書くなど、めいっぱい有難い感じに仕上がっている。私も、2年前までは、「生きとし生けるものは幸せであれ」(出典:スッタニパータ)というような有難さ満載の言葉を、門前に書いてきた。それなりに反応はよく、通りがかりの人たちが眺めては「へー」と頷いている様子だった。

私にとっての転機は、2年前、スマホアプリ「ポケモンGO」が大ブームとなったことだった。由緒あるお寺の多くは、「ポケストップ」となった。私のお寺の山門もその一つだった。そうすると、わざわざ山門まで足を運んでくれる人が増えたのだが、山門それ自体やその向こうに見える本堂には目もくれず、スマホの画面のARの世界に耽っている。この光景がもどかしくてたまらなかった私は、



「確かにここはポケスポットですが
むしろ四百年来の念仏のホットスポットです
合掌し念仏してから
スマホを操作しましょう」

と書いた。これが6千リツイートを超えるほどバズり、エンゲージメント総数(ユーザーが反応した回数)は7万、インプレッション数(ツイートが表示された回数)は60万を超えた。境内でのポケモンGOを禁止するお寺もあったが、私はそこまで排除する必要はないと思ったので、代わりに、歴史への配慮を促すゆるやかなメッセージをしたためた。これが人々の共感を呼んだらしい。また、“有難い”言葉が書かれるはずの掲示板に、旬のトピックが扱われているミスマッチ感も、リツイート数を伸ばした一因だろう。なお、「ポケスポット」は「ポケストップ」の誤りだと気づいて赤面したのだが、バズったあとでは訂正できずいまにいたっている。




“有難さ”よりも“バズ”の時代



有難い言葉を書いて「へー」と頷いてもらうか。
それとも、バズりそうな言葉で「かっこいー」と賑わわせるか。
一度バズって以降、私は門前の掲示板に関しては後者がふさわしいと考えている。ウケそうな言葉を考えるのは簡単ではないが、うまくハマれば門前を通りすぎる人から感嘆の声が漏れてくる。そして、頼まずともSNSにどんどん投稿してくれる。ツイッターでエゴサしてみると、私が知らないところで、何百リツイート、何千リツイートされていたりする。これはなかなかコピーライター冥利、お坊さん冥利に尽きる。現代にふさわしい教化活動の在り方だと思う。



コピーライティングで世間を騒がせているお坊さんは私以外にもいる。その筆頭は、昨年「お盆だよ!全員焼香」の写真で話題を集めた浄土真宗本願寺派の松崎智海さんだ。キャッチコピーの妙に加え、トルコ人シェフのヌスラト・ガネーシュさんの“塩ファサー”さながらに“焼香ファサー”を演じたヴィジュアルは、威力絶大だった。以前お会いしたとき、松崎さんは「田舎のお寺だとこれぐらいやらないと見てもらえないので」と笑って語ってくれたが、この写真によって一気に、「お焼香ファサーの人」として都会のご住職よりもはるかに有名になった。


掲示板の“バズ”が意味するもの



もっとも、「お寺の掲示板大賞」にエントリーしている他の投稿を見るかぎり、まだまだ、門前の掲示板の趨勢は、“有難さ”である。おそらくは、近隣の人々や檀信徒に向けて書かれているのだろう。そのような言葉が投稿されてもリツイート数はほとんど伸びない。しかし、ネット上の評価はどうしてもリツイート数である。この掲示板大賞がさらに話題を集めたら、お坊さんのモチベーションも変わって、全国のSNSユーザーにメッセージを届けるべく、“バズ”を意識するのではないか。

ご歴々の僧侶は、「お寺がウケを狙って低俗化するのはよくない」と批判するかもしれない。しかし、私のとらえ方は違う。掲示板の“バズ”は、お寺が親しい関係者のためのクローズドなものから、広く現代に開かれたものへと転換していく時代的要請とパラレルになっている。
実際、私が掲示板の言葉を“バズ”を意識して書くようになって以降、わざわざ訪ねてきて写真を撮ることを楽しみにしている人が、日に日に増えてきている。似たような取り組みをするお寺が増えれば、ユニークな掲示板の言葉を訪ね歩く“掲示板巡礼”もできるだろう。

仏教は言葉で人を導いてきたから、お寺を訪ねたときにはやはり言葉でもてなしたほうが、その伝統の奥行きを感じてもらえる。そして、その一番の入り口になるのが門前の掲示板の一言である。掲示板の言葉が楽しいものであれば、ますますお寺への関心は高まっていくに違いない。そう考えると、リツイート数を評価の基準の一つにする「お寺の掲示板大賞」は現代にふさわしい企画であるし、私自身も門前の掲示板で“バズ”を狙い続けようと思うのである。


池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。
■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
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