中国人向け電子マネー、囲い込みのポイントとは? | RBB TODAY
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中国人向け電子マネー、囲い込みのポイントとは?

ビジネス マーケット
TIプランニング 池谷貴さん
  • TIプランニング 池谷貴さん
  • 東京マリオットホテルでは8月22日より「モバイル決済 for Airレジ」を導入し、「Alipay」での決済に対応開始した
  • 「WeChat Pay」を利用する際の、支払い側のスマホ操作手順
 スマホ連動の電子マネー決済に対応したところ、訪日中国人観光客が殺到した――ITベンチャーのユニヴァ・ペイキャストが16月6月に発表したのは、東京・御徒町の老舗ディスカウントストア「多慶屋」での出来事。前年12月に「Alipay店頭決済」を先行導入すると、この月の免税手続件数の約半数を同決済が占めた。

 中国人観光客の決済としては銀聯カードが有名だが、最近ではスマホアプリを使って決済できる電子マネーを利用するケースも増えている。「Alipay店頭決済」のその1つで、4億人以上の会員を持つ中国最大級の電子決済サービス「Alipay(アリペイ)」が提供。一方、ユーザー数が4億人を超える中国のメッセンジャーサービス「WeChat」は、16年6月に日本国内での戦略を発表。モバイル決済サービス「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」(旧:WeChat Payment)で、日本の電子マネー市場に本格的に参入する。

 高額商品の購入や大量の“爆買い”では現金は不便。そんな中国人がお財布代わりに使う「銀聯(ぎんれん)カード」に対応することで、これまで国内の量販店や小売店、飲食店は中国からの訪日観光客の囲い込みを図ってきた。しかし、先の「Alipay店頭決済」の利用増のように、昨年からこの流れに異変が起きつつある。

 電子マネーか、それとも銀聯カードか、あるいはその両方に対応すべきか。多様化する中国人観光客向けの決済手段について、カードや決済関連のポータルサイト「payment navi」と「PAYMENT WORLD」を運営する、TIプランニング 代表取締役の池谷貴さんに話を伺った。

■定番の銀聯カードに加え、2つの電子マネーが台頭

――現時点で中国からの訪日観光客に利用されている決済手段をお教えください。

池谷 やはり一番は銀聯カードです。02年に初めて中国国内で発行され、発行枚数は12年に35億枚、15年には50億枚を超えています。クレジットカードとデビットカードがあるのですが、その多くはデビットカードになります。

 中国人にとって銀聯カードは最も身近な決済手段ですので、訪日観光客が最も多く使っているのも銀聯カードです。銀聯カードが日本に進出したのは09年ですが、日本国内の銀聯カード加盟店数は14年末で40万店以上だといわれ、今ではその数も増えているでしょう。


――AlipayやWeChat Payも日本に進出してきましたが、両者も訪日中国人観光客に利用されているのでしょうか?

池谷 買い物をする店が加盟店でなければその決済手段は利用できません。このため日本国内の加盟店の数がカギを握りますが、銀聯カードは09年の参入当初、加盟店開拓を行うアクワイアラー(加盟店契約会社)が三井住友カードの1社のみで、家電量販店や百貨店、ホテルなどでの導入が中心だったため、中小店舗の加盟店がなかなか増えませんでした。その後、アクワイアラーが増加し、導入の成果が周知されたことで、加盟店数が40万店を超えたというのがこれまでの経緯です。

 AlipayやWeChat Payの動きは、昨年から今年にかけてようやく注目され始めたという状況です。両社の国内での加盟店数は、7月末時点で1000店舗弱だと思われますのではっきりとしたことは言えませんが、銀聯カードと比べればまだまだでしょう。

――AlipayやWeChat Payも銀聯カードのように、日本国内で加盟店数は増えると考えられますか?

池谷 銀聯カードで5年かかりましたから、AlipayやWeChat Payもすぐに加盟店数が増えるとは考えられません。ただし、銀聯カードが日本に参入した頃よりも訪日中国人観光客数は増えていますし、国内の量販店や小売店、飲食店でもインバウンドに対する意識が高まっていますので、銀聯カードよりも普及スピードが速くなる可能性はあります。

■3つの決済手段に対応することが理想

――銀聯カードとAlipay、WeChat Payの特徴や違いを教えてください

池谷 銀聯カードはいわゆるクレジットカードやデビットカードで、加盟店は専用端末を置いて利用します。Alipayはアリババグループの「タオバオ」をはじめとした中国のECサイトで利用できるオンライン決済サービスで、実店舗でも決済できるAlipay店頭決済機能を備えています。店頭で客はスマートフォン上の、加盟店はタブレット上のアプリを操作して決済を行うので、カード読み取り用の端末を置く必要はありません。いわゆるモバイル決済サービスになります。

 WeChat Payは、日本で多く使われているLINEのような中国最大級のチャットアプリ「WeChat」の決済サービスで、Alipayと同じような利用方法です。

――つまり、銀聯カードは中国で定番のクレジットカード・デビットカードとして幅広く使われており、Alipayは中国でECサイトを使うユーザー、WeChat Payは中国でチャットを使うユーザーに限られるということになるわけですか?

池谷 はい。ただ、AlipayではECサイトを併用することで、訪日後もECサイトの利用客として囲い込むことができるかもしれません。WeChat Payではチャットアプリのアカウントを取得し、訪日時にチャット上でクーポンを発行するなどして集客を図る展開も可能でしょう。

――となると、中国人向けインバウンド対策で決済においては、越境ECにも展開したい場合はAlipay、チャットを活用したい場合はWeChat Payに加盟すれば良いということでしょうか? 銀聯カードは高額での利用、AlipayとWeChat Payでは小額での利用が多いといわれていますが、各サービスの利用者の特徴についても教えてください。

池谷 まず決済金額についてですが、確かに銀聯カードは10万を超える高額決済でも多く利用されていますが、AlipayやWeChat Payでも数万円の決済に使われることがあり、中国現地での決済平均単価より高いといわれています。

 また、ECやチャットへの展開を考えると、あらゆる手段に対応することで、多くの顧客層を受け入れるようにするのが理想的です。銀聯カード、Alipay、WeChat Payのすべてに加盟することが無難だといえます。


■普及初期のAlipayやWeChat Payは差別化に

――3つの決済手段すべてに対応する場合、特に中小企業にとっては大きな負担になりませんか?

池谷 AlipayとWeChat Payはタブレットを用意してアプリを入れるだけです。さまざまなカードに対応する、比較的に安価な専用端末としてCCT端末がありますので、銀聯カードでも初期費用はそれほど大きな負担にならないはずです。あとはランニングコストとして決済手数料がかかってきますが、これについてはクレジットカードとそれほど変わらない手数料で3つの決済手段を導入可能です。

 ですので、3つの決済を比較して、コスト負担の違いはそれほどないと考えて良いと思います。中小規模の店舗や個人店にとって、どの決済手段が導入しやすいか、ということは一概にはいえません。

――CCT端末は数万円からありますし、アクワイアラーのプランによっては無料で提供しているところもあるようです。タブレットの金額を考えると、確かに導入コスト差は大きくなさそうですね。

 セブン-イレブン・ジャパンとローソンがAlipayを、ラオックスでWeChat Payをそれぞれ導入するなど、AlipayやWeChat Payの加盟店が続々と増えています。こうした大手だけではなく、個人店でも手軽に導入できるPOSレジアプリ「Airレジ」が昨年12月からAlipayに対応しました。中小規模の店舗や個人店にも普及の動きが加速しそうですか?

池谷 銀聯カードが普及してきた流れは、まずは大手の量販店や百貨店、あるいはゴールデンルートで導入が進み、昨今は中小規模の店や地方へも広がりつつある、というのが実際のところです。加盟店数を増やすことで利用者も増え、利用者の増加が加盟店数の伸びを後押しするという流れですので、アクワイアラーは加盟店を増やすために、どうしても複数店舗を展開する企業へ積極的にアプローチします。

 AlipayやWeChat Payも銀聯カードと同じような流れで普及し始めていますし、Airレジについても実際には複数店舗を構える企業へ積極的にアプローチしているようです。ですので、中小規模の店舗や個人店への普及は、これから徐々に進むと思われます。

――御徒町と上野の2店舗をかまえる多慶屋が昨年12月、Alipay店頭決済の先行導入で成果を上げました。中小規模の店舗や個人店にもその期待が膨らみそうですが?

池谷 多慶屋のケースはゴールデンルートですのである程度の集客が見込めるのと、同じ時期にアリババがフェアを開催しましたので、その効果が大きかったのだと思います。

 とはいえ、周囲の店で導入していない決済手段に対応することは、それだけで差別化につながります。特にAlipayやWeChat Payは今まさに加盟店を増やすためにアクワイアラーとともに力を入れていますので、加盟店であることを中国に向けてPRしてもらえることも考えられます。そういった点でも、銀聯カードをはじめAlipayやWeChat Payにも早めに対応すれば、訪日中国人観光客の集客に結び付く可能性もあります。

<Profile>
池谷貴(いけたにたかし)さん
カード業界誌の編集、プランニング、セミナーや展示会の運営などに携わり、09年に独立してTIプランニングを設立。マーケティング、カード・電子決済、IT・通信サービスなどのコンサルティング、セミナー運営を手掛けるほか、ポータルサイト「payment navi」「PAYMENT WORLD」を運営。「NFCビジネス完全ガイド」や「O2Oビジネスガイド」、「パーフェクト・カードセキュリティガイド」「ポイントカードマーケティング市場要覧」などの調査レポート・書籍を発行する。

■ニュース深堀り!■中国人向け電子マネーの囲い込み力!

《加藤宏之/HANJO HANJO編集部》
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