日本酒の未来は蔵元の国際化にかかっている! | RBB TODAY

日本酒の未来は蔵元の国際化にかかっている!

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2016年のチャンピオン・サケに選ばれた出羽桜酒造。写真中央が仲野益美社長
  • 2016年のチャンピオン・サケに選ばれた出羽桜酒造。写真中央が仲野益美社長
  • IWCの授賞会場。世界中のワインや日本酒の目利きが集まる
  • 金賞の中で特に優れた銘柄に与えられるトロフィーを受賞した日本の蔵元たち
  • 限られた受賞商品だけが付けることを許されるIWCのステッカー
  • IWC授賞式の配布資料。名だたるワインの横にSAKE部門の日本酒が並ぶ
  • IWCのディレクターのクリス・アシュトン氏と並ぶ、コーポ・サチ代表の平出淑恵氏(写真右)
【記事のポイント】
▼ワインビジネスのネットワークに日本酒を乗せることが肝要
▼あなどれないIWC授賞式会場の無料配布冊子
▼アプリやワイン人材の育成で言葉の壁を超える


■SAKEは「WINE」に並ぶ可能性を秘めている

 日本酒の海外進出の現状を例えるならば、“SAKE”はいま、日本国内における紹興酒やマッコリのようなものではないだろうか。

 その酒の名前を近年、多くの日本人が知っている。中華料理店や韓国料理店に行けば、気分を高めるためについ頼みたくなるが、店を離れ、日常の延長線上の酒屋やスーパーで見かけたときは、よっぽどのファンでない限り、日本語での解説や信頼できる誰かの強力な推薦がなければ、買おうとまでは思わない。

 一方、ワインは違う。肉料理には赤、魚料理には白、といったワインの基本が日本人に知れ渡って久しい。産地も本場フランスといえば、ブルゴーニュやシャンパーニュといった情報が巷にあふれ、備長炭の純和風の焼き鳥屋でワインを見かけることは珍しくない。店内を見渡せば、シャルドネだ、ソービニヨンだと解説する人を見つけることも容易だ。

 では、日本酒は今後、世界において両者、どちらのポジションに定着するのか。そのカギを握るのは、国内の日本酒の生産者の9割を占めるといわれる中小の酒蔵だと、元JALの客室乗務員でコーポ・サチ代表の平出淑恵さんは語る。

「日本酒の未来は、全国各地の中小の蔵元がそれぞれ国際化できるかにかかっています」

 平出さんは、かつて”空飛ぶソムリエ”と呼ばれた、ソムリエ資格を持つCAの一人だ。01年に京都の蔵で搾りたての大吟醸を口にした時に、啓示のように日本酒の可能性に気がついたという。同じ食中酒であるワインが実現している経済効果を、日本酒を”SAKE”という国際的な酒にすることで実現できると本気で信じ、行動し、実績を挙げてきた。口癖は「ワインの分かる人には、日本酒の価値もわかる」

■ワインスペシャリストがSAKEを飲み、IWCを動かす

 平出さんが断言するのには理由がある。自身だけでなく、数々のワインのスペシャリストがSAKEに魅了される瞬間を見てきたからだ。中でも、世界最高峰のワイン資格保持者「マスター・オブ・ワイン」である、英国人のサム・ハロップ氏が日本酒にすぐさま反応したことで、確信に変わった。

 まだJALの社員だった平出氏と日本国内の蔵元有志は03年、ワインの教育機関WSET (Wine&Spirit Education Trust)のロンドン本校で日本酒講座を開く。そこにハロップ氏が参加したことが転機となった。

 日本酒の可能性を感じたハロップ氏は、翌年には平出さんらのアテンドで訪日し、日本酒の酒蔵を見学。その後、ハロップ氏が最年少で世界的なワインコンテストIWC(International wine challenge)の審査最高責任者に就任したこともあり、ワイン以外では初となるSAKE部門が、07年にIWCで創設された。


 審査には日本からだけでなく、近年では、日本酒を海外で生産する現地法人などからも応募がある。審査後には普通酒、本醸造、純米酒、純米吟醸、大吟醸、スパークリングなど各部門の最優秀銘柄の生産者が、ファイナリストとしてロンドンの授賞式に出席。その席上でチャンピオンが発表されるという段階を踏む。日本国内の出品者の取りまとめは、国内の酒蔵の若手でつくる「日本酒造青年協議会」が務め、業界全体を盛り立てる役目も果たしている。

 開催10年目を迎えた今年は、SAKE部門の審査会を日本酒の主産地である兵庫県が誘致し、14ヶ国からなる審査員団とIWCの運営チームが来日。審査後には兵庫県の蔵元らとの交流の機会も設けられた。日本開催にあたり、出品数も初年度の4倍にあたる過去最高の1282銘柄が出品され、盛り上がりをみせている。

 現地時間の7月7日、ロンドンで開かれたIWCのSAKE部門授賞式で、山形県天童市の出羽桜酒造の純米酒「出羽の里」がチャンピオンに選ばれた。授賞式には、鶴岡公二駐英特命全権日本大使夫妻も出席。渡英し日本酒の国際化に取り組む蔵元を励ましたという。

■IWCを最大限に活用する方法

 では、IWCでチャンピオンに選ばれると、何が得られるのか。平出さんは「未知の世界での通行証を得られる」と話す。

 受賞した日本酒は外務省の協力のもと、世界各国の在外公館の注文リストに加わる。海外輸出時には、瓶に金銀銅のIWCのステッカーを貼ることができるため、現地の店員が売りやすくなる。

 今年5月に神戸で行われたJETRO主催のSAKEシンポジウムには、福岡県八女市にある蔵元「喜多屋」の木下宏太郎代表が登壇。同社の日本酒は13年に『大吟醸 極醸 喜多屋』がチャンピオンに、14年に『本醸造 蒼田』がトロフィーを受賞しているが、受賞によって輸出量を3倍に延ばしたと語っている。

 さらに、この「IWCチャンピオン」という世界的な発信が、地域おこしに繋がった例がある。11年に『鍋島 大吟醸』でチャンピオンに選ばれた佐賀県鹿島市の富久千代酒造は、受賞を機に鹿島市や市内の他の酒蔵と合同で「鹿島酒蔵ツーリズム」という、街歩きをしながらの「蔵開き」イベントを開催。国内客が中心ではあるが、初年度は3万人、今年は7万5000人までに参加者を増やしている。

 もちろん、受賞しないとメリットがない、ということはまったくない。ロンドンでの授賞式に出席するだけでも、小さな商談会に参加する以上の効果はあるという。キーマンが一堂に会する場であることと、集まった参加者が交流しやすい仕組みがあるからだ。

 IWCではワインと日本酒の造り手だけでなく、世界各国の優良な酒の販売者も表彰される。そのため、会場入り口に置かれた授賞式出席者用の小冊子は宝の地図だ。各地の優良店の担当者がどの席に座っているかの座席表が載るため、名刺交換のチャンスをものにできるかもしれない。

 ロンドンまで行けないとしても、ホームページを見るだけでも、世界の扉は開かれるだろう。SAKE部門の審査員の名前やプロフィール、これまでの歴代の受賞優良酒販関係者の情報を確認できるからだ。何度も商談会に足を運んだり、海外に行く資金力や人材にも限りがある中小の蔵ほど、活用しない手はない。


■言葉の壁を超え、ワインのインフラを活用する

 この10年、右肩上がりで海外進出を延ばす日本酒。だが、日本独自のものであるため、まだまだ世界における市場規模は小さい。15年度の輸出金額で日本酒に次ぐ第2位だったウイスキーが、日本酒を上回る対前年比で約1.7倍増の好調ぶりを見せていることからみても、商品の良し悪しを判断をできる人材が世界各地にいるかどうかの差は大きい。

 日本酒とワインが味の面においてポテンシャルが近いことは前述の通り。平出さんによると、フランスワインの15年度の輸出額は約9900億円。一方、日本酒はまだ約140億円。フランスワインの産地は郊外の農村地帯に点在していて、観光業で地域経済を支えている。だからこそ関係者はいま、もどかしい思いを抱いている。

 最大の壁は言語、すなわち英語だ。現在、酒蔵の中には、大吟醸をDAIGINJYOと英語表記して出品するところもあるというが、そもそも国内でも何割の人が20種類近くある日本酒の分類、例えば大吟醸と純米吟醸の違いなどを説明できるだろう。文化も言語も違う人に理解してもらうには、さらに多くの説明がいる。

 といっても、限られたラベルの枠内での英訳の説明書きにも限界がある。商品が海外の店の棚に並んだとして、客からの質問に現地の販売員が答えられるか。人に説明できない商品を、販売員が積極的に客に売るか。結果は人種を超えて明らかだろう。

 こうした言語の違いと情報量の壁を越えさせようと、経産省が昨年開発したのが、スマホアプリ「sakefan World」だ。日本酒の瓶にスマートフォンをかざすだけで、その酒の特徴や飲み方、生産地域の特色を多言語で解説してくれる。

 国内の酒蔵の商品ラベルの大半を扱う高桑美術印刷と共同で、この仕組みを企画した平出さんは、この事業での日本酒の国際化促進に期待を寄せる。

「実際にアプリを見たり、使ったりした国内外の販売関係者からは、取引先の蔵元さんには全てこのアプリ対応にして欲しいという声が寄せられています」

 もちろんsakefan Worldは最初のステップ。海外の販売店やメディア、ジャーナリストから問合せがあったときに対応できるのか。長期的にはやはり、少なくとも英語を話せる人材が必要だ。

 なおかつ、ワイン流通網を利用できるようにワインにも通じた人材を育て、日本酒の良さ、特徴、種類の違いをワインに例えて言い換えることができればベストだろう。日本酒がワインのように世界各国で扱われる。それはいわば見果てぬ夢だろうか? 

 平出さんや若手蔵元らは、国内外に日本酒応援団を増やす「酒サムライの叙任」というアンダサダー事業を展開。世界各国のWSETで日本酒コースの開設を行うなど、日本酒の国際化に向けた人材を育成している。

「ワインのインフラを活用できるよう、日本酒側の整備は日本酒業界を挙げてしていかなければ、シンデレラワインのような日本酒銘柄は生まれません。輸出できる規模ではない小さな蔵も、海外からの観光客に日本酒の奥深さを知ってもらうための国際化に、ぜひ参加してもらいたい」

 日本酒の側の整備をしていかなければ、日本酒をグローバルな存在には出来ない。さらには、最後は全国各地の中小の蔵元が、日本酒の世界展開を本気で信じられるか。日本酒の蔵元らが、敢えてワインビジネスの国内外における関係者と交流を深めることが、もしかしたらSAKEが世界のスタンダードになる近道なのかもしれない。

~Sakeの海外戦略:7~ワインのインフラを通じて世界へ

《塩月由香/HANJO HANJO編集部》

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