【コラム】地域プロデュース拠点となる道の駅、地方創生を目指す | RBB TODAY

【コラム】地域プロデュース拠点となる道の駅、地方創生を目指す

エンタープライズ その他

ファーマーズ・フォレスト 代表取締役社長の松本謙氏
  • ファーマーズ・フォレスト 代表取締役社長の松本謙氏
  • 道の駅内にあるマーケット「あおぞら館」
  • 道の駅うつのみや ろまんちっく村
  • 園内のビール工房「クラフトブルワリー」。地元の麦、ホッブ、麦芽を使ったビール造りに挑戦する
  • 大谷採石場跡地での地底探検ツアー
 道の駅は全国で1000か所を超えるが、その多くはドライブインのような通過型の拠点施設。しかし、その概念を打ち破り、目的滞在型として注目されている施設がある。東北自動車道宇都宮ICから車で5分の場所にある「道の駅うつのみや ろまんちっく村」。元々は96年に市制100周年記念事業として、市の予算を使って設立した農林公園だった。

 しかし、当初第三セクターに任せていた経営が悪化したことで、市では指定管理者制度を導入。公募に応じたのが、ファーマーズ・フォレスト 代表取締役社長の松本謙氏だった。

■地域のモノコト、栃木ブランドで何でも売ります

 松本氏はかつて施設運営コンサルティング事業として、さいたまスーパーアリーナや六本木ヒルズなどの運営立上げを手掛けてきた。その中で、感じるようになったのが、ハード依存による運営への限界。地域密着型の拠点施設では、ソフト事業の仕組み作りが重要になる。その思いから新たに生み出されたコンセプトが“地域商社”だった。

 これは、地域に関する“モノ”や“コト”を集め、それらを丸ごと売り込もうというコンセプト。地域発信型の商品やサービスにおいて、自らが販路や広告メディアとなることで出口戦略を担うのが地域商社の役割だ。

 農林公園の事業を引き継いだのも、地域商社の拠点としてのポテンシャルを感じたからだという。広さ46ヘクタールという広大な敷地の中には、市の特産品を集める直売所があり、プールや温泉施設、宿泊施設、体験農場といった観光客を呼ぶアクティビティもある。こららを活かせば、地域内外のゲートウェイとして、地域経済を循環させるハブとしての役割を担えるのではないだろうか?

 こうして、松本氏は農林公園の運営会社として、07年に株式会社ファーマーズ・フォレストを設立。翌年には解体した第三セクターから全事業を引き継ぎ、地域商社としての第一歩を踏み出す。


■生産物の売買を超えた地域ビジネス

 農林公園の運営にあたって、松本氏は第三セクター時代に当たり前とされていたアウトソーシングを撤廃。すべての業務を直営として、原価のコントロールやサービスの一貫性に取り組んだ。その上で、持続経営を確立するために、ダブルターゲットの考え方に基づき、商品やサービス構成を見直していく。

 ここで言うダブルターゲットとは、日常と観光の両視点に基づく商品やサービスを展開すること。観光客向けにご当地特産品を取りそろえながらも、地元と人々が日常的に買い求めるものも用意する。そこでは、地元の生産物を集めながらも、気候や環境から調達できない農産物などは、産地間流通で他の産地から取り寄せた。

 このような考え方の背景には、農林公園を単なる農業のテーマパークにしたくないという、松本氏の考えがあったという。運営者と来場客という関係性だけでなく、そこに地域を巻き込み、地域ブランドの創造と発信を行う拠点としてプロデュースする。これにより地域経済を循環させるハブとなることが、松本氏の狙いだった。

 こうした取り組みもあって農林公園では、かつては70万人規模だった来場者が、初年度から100万人を突破。その割合は休日こそ半分以上を観光客が占めるが、平日は地元住民の利用が9割に達する時もあるという。

■栃木ブランド「トチギフト」の誕生

 農林公園の経営が黒字化したことで、松本氏はいよいよ地域商社として本格的なビジネスを開始する。市内における新たにアンテナショップ「宮カフェ@miya」のオープンを皮切りに、道の駅以外にも生産物をアピールできる場を次々に設置。レストランシェフと生産者を結ぶイベント、首都圏でのマルシェの展開、商品開発や販売の支援など、地域ブランドの総合プロデュース展開を本格化していく。

 そして、この取り組みをさらに一歩進めるべく、ファーマーズ・フォレストは09年に「トチギフト」を発刊する。栃木の食と体験を1つの冊子にまとめ、栃木ブランドとして売り出す「地域を伝える総合メディア」。地域商社として松本氏が温めてきたアイディアの一つだった。


 とはいえ、当時のファーマーズ・フォレストは、県内に最近できたばかりの一企業。前身の農林公園もあくまで宇都宮市のもので、県全体には影響力が及びにくい。そのため、トチギフトの刊行当初は、全県をブランド化するというコンセプトに期待を示す生産者や製造者は多くなかった。

 だが、これらの取り組みを赤字覚悟でも急ピッチで進めたのには、一つの狙いがあったという。それが、以前から噂されていた、栃木県の東京におけるアンテナショップ構想だ。

「もしアンテナショップの運営にファーマーズ・フォレストが参入できたら、栃木ブランドを取りまとめることができます。それは、是が非でも欲しいポジションでした」

 やがて、栃木県は東京スカイツリーにアンテナショップをオープンするにあたり、その運営企業の公募を始める。この時、応募したファーマーズ・フォレストの地域商社としての取り組みは、県の担当者から高い評価を受けた。

 こうして、松本氏は12年、栃木県アンテナショップ「とちまるショップ」の運営事業者となる。これによりファーマーズ・フォレストは、オール栃木の総合商社として認知されることになった。

■広がるマーケットに対応する流通改革

 アンテナショップやトチギフトによって出口戦略を進める中で、松本氏は生産者間の流通にも改革の手を入れていった。第三セクター時代には無計画だった作付けにも手を入れ、客のニーズに合わせた作物の生産体制を提案。さらに、播種の時期をずらすことで、長期にわたって同じ商品を流通できる体制を整える。

 その上で、自ら納品が難しい生産者のために始めたのが、自社物流便の整備による集荷配送だった。県内の大きな生産者に協力を要請し、流通ハブとして周辺地域の生産者が生産物を持ち込む場とする。集荷された作物をファーマーズ・フォレストが回収することで、生産者は自分の仕事に専念できる環境が整ったという。


 現在ファーマーズ・フォレストが目指しているのが、日本全国に広がる中規模流通網の整備だ。例えば、従来のサプライチェーンでは、トマトは青いうちに収穫され、赤くなった数日後に店頭に並ぶことになる。そこには、「〇〇県産のトマト」という表記のみが掲げられ、生産者の想いが消費者に伝わりにくかった。

 しかし、ファーマーズ・フォレストでは15年に首都圏のスーパーと販路提携したことで、集荷された作物を深夜便で配送し、翌朝には首都圏へと運ぶ仕組みを構築。同社がワンストップの窓口となることで、生産者は道の駅や直売所、アンテナショップ、トチギフト、中規模流通網などのさまざまな販路を利用できる。

■着地型観光で新たな好循環を生み出す

「とちまるショップ」のオープンとほぼ時を同じくして、松本氏が新たに始めたビジネスがある。それが、着地型観光「えにしトラベル」。大量送客が前提の大手旅行代理店では採算に合わないような、数人~20人規模での体験型ツアーだ。ここから生まれた大谷採石場跡地での地底探検ツアーは、毎週の開催に予約が殺到するほどの人気となっている。

 視点を変えることで、当たり前の風景や風習、生活文化などを観光資源化する。こうして、生まれた着地型観光ツアーは、地域資源を高付加価値化するとともに、体験交流による地域内での利益還流を生み出している。ツアーでの交流を通じて、生産と消費をダイレクトに繋ぐ役目を待たしているようだ。

 このような着地型観光は日本全国でも展開されているが、そのほとんどが赤字経営。成功事例といえるものはほとんどない。しかし、ファーマーズ・フォレストでは、着地型観光が道の駅を訪れる利用者の再来訪の動機付けとなり、物販や飲食などの収益を向上させている。そのため、旅行単体での利益は追及しないというのが、松本氏の考えだ。

「着地型観光は拠点施設運営と相性が良いんです。利益を好循環させる仕組みができるため、コストのかかるツアーでも採算がとれる。地域に観光客が集まることで、そこに住む方々も、地元の良さを再発見されているようです」

■地域住民みんなが幸せになれる道の駅

 農林公園ろまんちっく村は道の駅としての登録を申請。12年に国土交通省から認定される。そこには、道の駅というネームバリューで、観光客に対する来訪の動機づけをしたいという目的もあった。

 しかし、申請を行った一番の理由には、道の駅こそコンパクトシティの核として活用されるべきだという松本氏の思いがあったという。道の駅が所在する場所の多くが、少子高齢化や買い物難民の増加、担い手不足、耕作放棄地の増加といった地域課題に直面している。こうした地域仮題を解決していくことが、ファーマーズ・フォレストのビジネスモデルにおける狙いの一つだ。

「道の駅というビジネスモデルは、未来永劫に繁栄が続くものではないと思います。赤字となっている施設も多い中で、改革が必要になる時期が来る。その時に、地域総合プロデュース型の道の駅という我が社の取り組みが、一つのモデルとなれるものと考えています」

 道の駅で地域振興というと、観光ビジネスばかりが目につく。しかし、本当の意味で地域住民が幸せになれる仕掛けは、まだまだ残されているのかもしれない。

~地元から日本を盛り上げるキーパーソン~地域プロデュース拠点となる道の駅、地方創生を目指す

《丸田鉄平/HANJO HANJO編集部》

関連ニュース

特集

page top