【浅羽としやのICT徒然】第10回 機械が人の仕事を奪う「スマートマシン」の時代とは | RBB TODAY
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【浅羽としやのICT徒然】第10回 機械が人の仕事を奪う「スマートマシン」の時代とは

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「ガートナーシンポジウム ITxpo Tokyo 2013」ページ
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 「スマートマシン」という言葉をご存知でしょうか。2013年10月15日から17日まで開催されたガートナーシンポジウム/ITxpo 2013で、米ガートナーリサーチ副社長兼ガートナーフェローのトム・オースティン氏が「スマートマシン」を、次なる有力な破壊的テクノロジとして紹介しました。その際に、もう「スマートマシン」の時代は来ている、と述べて話題になっています。

 「スマートマシン」とは、自律的に動き、自己学習する能力を持つ機械のことを指します。ドラえもんのようなロボットを思い浮かべるかもしれませんが、必ずしも人型をしている必要は無く、ごく簡単に言うならば、今まで人間が操縦して動かしていた機械が、勝手に動くようになると考えれば良いでしょう。かつてはそのような自律的な行動は人間にしかできない、もしくは人間の操縦の元でしかできないと思われていましたが、例えばお掃除ロボット「ルンバ」のように、「知能」を持った機械が日常生活の中にも進出し始めています。さらに、グーグルカーや、自動車メーカー各社が取り組みを急いでいる自動運転車も、概ね2010年代半ばから2020年の実用化を目標としています。

 スマートと言えば、「スマートマシン」とまでいかなくとも、スマートフォンは着実に普及しつつあります。IDC発表の2013年4~6月の世界のスマートフォン出荷台数は2億3640万台です。このペースで続けば年間出荷台数は10億台を超える見込みであり、数年で全人類にスマートフォンが普及してしまうくらいの勢いです。私も最近iPhone 5sを購入しましたが、Siriによる音声操作が格段に進歩していて、本当にiPhoneと対話する感覚で、かなりの操作を音声で指示できるようになっています。ためしに「最高の携帯電話」と話しかけてみたところ、「またまた、ご冗談を」と応えが返ってきてかなりびっくりしました。プログラムを作った人の茶目っ気だと思いますが、ちょっと怖い感じもします。このような状況を考えると、確かに「スマートマシン」の時代がもう来ていると言われても、それほど違和感が無くなってきています。

 「スマートマシン」が可能になった背景には、自動制御技術の発達はもちろんのこと、さまざまなセンサー技術により環境情報の取得が可能になったことや、それらの多様な情報に対して知的判断を行うソフトウェア技術が発展したこと、そして、インターネットやクラウド環境の発達で、あらゆる情報がネット上に計算処理可能な形で集約されたことが挙げられます。さらに今後は、ビッグデータ処理で、従来アルゴリズム化できなかった「勘」のような、知的情報処理もコンピュータやクラウド上で実施できるようになるのでしょう。

 しかし「スマートマシン」が普及すれば、我々人間の生活はさらに便利で豊かになるのでしょうか。知的作業まで機械に委ねてしまったら人間は一体どん仕事をすればいいのでしょう。このような「スマートマシン」に人間は仕事を奪われて、大量に失業するような状況にならないでしょうか。例えば、自動運転車が普及すれば、タクシー運転手は必要なくなりますし、長距離トラックや、宅配便運転手だって機械が代わりにできるようになるかもしれません。先のオースティン氏は、人が失業するという負の側面もあるが、その倍以上の面で、個人や会社の仕事が拡大すると説いたそうです。ただその根拠については明確には触れられなかったようです。

 MITスローンスクールの研究者であるエリック・ブリニョルフソンと、アンドリュー・マカフィーの「機械との競争」という書籍では、「スマートマシン」という言葉こそ用いられていませんが、コンピュータやネットワーク技術の発展により機械が知的処理を自律的に行えるようになることで、人間の労働環境や、豊かさがどう変化したのかを論じています。彼らは同書の中で、アメリカの労働生産性の伸びが1980年代に毎年1.6%台だったものが、1990年代以降急速に伸び、2000年代10年間の平均が2.5%に伸びたことを示し、その牽引力が情報技術(IT)によるところが大きいとしています。この間一人当たりのGDPも堅調に伸びている一方、労働年齢世帯の世帯所得の中央値が約9%減っていることを指摘しました。

 その理由として、1983年から2009年までに新たに生じた富の100%以上が世帯の上位20%で生じていて、残りの80%の世帯では同じ期間で富が減少していることを挙げ、富の集中が起こっていると分析しています。さらに、10年毎の雇用の伸びをみた場合、1990年代は10年間で19.7%伸びていたのに対して、2000年代の10年間は-1.1%と、過去初めて雇用が減少している事実を示しています。これは2008年のリーマンショック後急速に失業者が増えたためではありますが、それ以前の数字を見てもこの10年間では5%の伸び率が最高値であり、確実に雇用の伸びが鈍化していることが伺えます。さらに同じ10年間での教育レベル別の賃金推移の数字も示され、大学院や一流大学を出た労働者のみが賃金が増加し、それ以外の労働者の賃金が下がってきています。

 つまりIT技術により上がった生産性の恩恵は20%の知的富裕層に集中しており、残りの80%は、機械に仕事を奪われ所得が減っている、という状況にあるということです。本書では他にもさまざまな統計が示され、いかに人間が機械に負けつつあるかが論じられています。

 彼らの結論としては、機械が得意な分野で競争をするのではなく、人間の得意な価値の創造やイノベーションの分野で知的機械をうまく活用しながら活躍できる人や起業家の教育に投資をし、そのような人々が活躍しやすい法整備やインフラ整備などの環境整備を進めるべきだとしています。

 知的な機械の先を行くようなイノベーション創出が重要だというのは大賛成です。でもそれだけだと人間は疲弊する一方のような気もします。個人的には、衣食住のような生活の根本に関わる分野は、機械に任せきらずに人間が自分でコントロールするようにして、そういう領域では過度の機械化を抑えて、昔ながらの方法を受け継ぎながら、汗水流して働くのが良いのではないかと思いつつ、週末農業にも精を出しています。

 でもそう考えると、人間の人間らしい生活って、伝統芸能みたいに一生懸命保護しなければならない状況になっているのだなぁと思うと、ちょっと複雑な心境になります。

筆者:浅羽としや/IIJで、1エンジニアとしてバックボーンNWの構築や経路制御などを担当し、CWCで、技術担当役員として広域LANサービスの企画・開発に従事。現在、ストラトスフィアで、社長としてSDNの基盤ソフトウェアのビジネスを推進中。
《浅羽としや》
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